2020年の東京五輪開催に向け建設業界が活況です。しかし誰もが気になるのは、そこで生まれる「特需」後に、いかにして安定経営を確保していくかです。
そこで今回は、石川県金沢市に本社を置く日成ビルド工業(1916)の取り組みから、この課題について考えていきたいと思います。
五輪後も安定経営を目指す
日成ビルド工業は、プレハブハウスと立体駐車場の製造、施工、販売を主力とする東証1部企業です。2017年3月期の売上高は799億円、営業利益は66億円、時価総額は510億円(2017年12月7日時点)の中堅企業で、2013年3月期から2017年3月期まで5期連続で増収増益となるなど、業績は順調に拡大してきています。
そうした同社も、東京五輪以降の国内建設市場には不透明感があると認識しています。このため、現在の中期経営計画(2016~2019年度)では、「建設需要の影響を最小限にする安定した経営基盤の確立」を目指すことが基本的な考え方とされています。
また、その実現のために「収益力・競争力強化のための戦略的な投資」「グループシナジー効果を高める」といった2つの基本方針を掲げています。
具体的にはコンビニ、スーパーマーケット、ドラッグストアなど優良不動産への投資を強化すること、物件引き渡し後のサポート体制を強化しリピート需要の取り込みを推進すること、プレハブハウスや機械式駐車場の運営管理といったストック型ビジネスの拡大、さらには海外事業の強化などの取り組みを進めています。
日成ビルド工業の海外展開
こうした取り組みのなかで、特に注目されるのが海外事業です。その理由は、立体駐車場は日本では見慣れた光景ですが、同社が現在進出しているアセアン地域での本格的な普及はこれからと考えられるためです。
ちなみに、同社はタイ、シンガポール、ベトナム、マレーシアに進出済みで、中期計画で掲げていた2019年3月期に20億円という売上目標は既に達成が確実になっています。同社は現在、計画を見直し中ですが、2017年12月1日に開催された決算説明会では、40~50億円となる可能性が高いと会社側はコメントしています。
最近の海外での実績としては以下のようなものがあります。
まず、タイの首都バンコクでは、2016年11月にタイ国内で最高層の高さ54メートル、タワー5基、収容台数250台の立体駐車場が完成しています。
また、マレーシアでは、199台収容可能な立体駐車場が2017年10月に完成しており、今後は駐車場の運営管理やメンテナンスなども行う予定です。
意外なリスクとは?
アセアン各国では、かつての日本と同様に地価や建設コストが上昇しています。また、駐車場の設置義務付けなどの規制も強化されているため、中期的に立体駐車場の需要拡大が期待できそうです。
ただし、市場拡大をビジネスに結び付けていくためには、立体駐車場は地下駐車場の建設よりもコスト面でメリットがあり、また、安全・安心であるというイメージが定着する必要があります。
そのため、同社が最も懸念しているのは、日本メーカー同士の競争激化よりも、品質管理が不十分な韓国メーカーなど日本以外のメーカーによる立体駐車場で問題が頻発することにより立体駐車場自体の評価が低下することだと言います。
つまり、立体駐車場も品質や信頼性が最も重要だということになります。
日本に住んでいると、立体駐車場は故障しないことが当たり前だと慣れきっているため、そんなことがリスクとなるのかと意外な感じもします。しかし、確かに立体駐車場が頻繁に停止してしまうのであれば、誰も使わなくなるだろうというのは容易に推察できます。
まとめ
同社のような中堅企業でも、五輪特需後に向けて様々な取り組みが既に行われていることをご理解いただけたかと思います。今後は、こうした施策が一段と加速していくかに注目したいところです。
また、最近では日本の製造業における「品質管理」の不祥事が頻発していますが、それを放置しておくと海外展開においてもマイナスになることに改めて気づかされます。
こうした「日本品質」が劣化しないような取り組みが続けられるかどうかについても、今後、注視していきたいと思います。
和泉 美治