11月8日に、ダウ工業株30種の終値は23,563ポイント、S&P500種指数(Standard and Poor's 500 Index)の終値で2,594ポイントと、史上最高値を付けました。

今年の米国株式相場は基本的にじり高で、市場最高値を少しづつ更新し続ける相場を展開してきましたが、これを支えてきたのは、米国企業の順調な業績拡大と、いまだ政策としての成否は不透明ながらトランプ政権の積極財政姿勢への期待です。

しかし、S&P500種指数で見ると12カ月先予想で株価収益率(PER)は約18倍に達し、PERの長期平均である15倍と比べても高い水準にあることは事実です。また、これは2004年以降で最も高い水準でもあります。過去の平均的な水準からは、米国株は既に割高な水準にあるといえます。

個人的には、ここからの上値追いには、トランプ政権が掲げたインフラ投資や減税などの政策が実現されていくのかどうかを見極めていく必要があると考えています。トランプ政権の政策「期待」が「現実」になる必要があります。トランプ大統領は景気刺激的な政策を掲げて当選しましたが、そうした政策の具体化は、いまだ何一つ実現していないのです。

財政規律を重んじる米議会は、財政赤字の垂れ流しを防ぐために、均衡しない予算を継続的には執行できないように政府には財政赤字の規模を制限しています。

このため、米議会では審議に時間を要しています。米議会を納得させることはなかなか容易ではなく、トランプ氏の就任後約10か月を経てなお、減税を含む予算案の成立には高いハードルが予想されています。米議会の予算審議からは目が離せません。

この他に、筆者が注目していることは、米FRBと欧州中央銀行(ECB)の金融政策です。FRBは、9月20日の連邦公開市場委員会(FOMC)では、アドバルーンとして挙げていたバランスシート縮小を粛々と、市場の動揺を誘うことなく決定しました。来る12月のFOMCでは、年内に今年3回目となる利上げを実施することも、ほぼゆるぎない状況です。

現在のように米国経済がしっかりとした足取りで展開していく場合、2018年も、小刻みにFRBは金融政策を引き締めて、金利を上げ続けることでしょう。FRBは、「金融政策を中立的なところまで戻す」という姿勢を表面上は貫いていますが、2018年は中立的なのか、もはや引き締めに近いスタンスなのかという議論になるかもしれません。

そういう点では、イエレン現議長であっても、パウエル次期議長(予定)であっても、難しさは変わらないのでしょう。

ECBの金融政策のかじ取りにも注意が必要です。欧州では、米国経済の着実な成長と昨年までのユーロ安が寄与して、景気は足は早くないものの回復してきました。これにより、インフレ率に上昇の兆しがあり、これまで超緩和的なスタンスを取ってきたECBの姿勢に変化が見られます。

来年1月からは、FRBと同様に、市場からの債券の買い入れ額を減額することを決定しました。米欧の中央銀行が、バランスシートの縮小、即ち、リーマンショック後の超金融緩和姿勢からの出口戦略に動いてきているという事実は、金余りという状況にもやがてはボディブローのように効いてくるでしょう。

そうなると、市場のセンチメントにも変化が起こるかもしれません。株価については、やや冷静な対応も考えてみる必要があると筆者は考えています。

ニッポン・ウェルス・リミテッド・リストリクティド・ライセンス・バンク 長谷川 建一