DC(確定拠出年金)資産の引き出しの制度改革と投資ガイダンス

2015年、英国ではDC(確定拠出年金)資産の引き出しに関する規制の緩和が進みました。引き出しに関する細かい条件を整理して、その資産の25%分については非課税、残りは引き出し額に対して所得税がかかるように簡素化されました。

また、アニュイティ(引き出し型保険商品)だけに認められていた課税の繰り延べ(購入の際に引き出しても所得税がかからず、その資産から引き出す際に課税する)が、全ての引き出し型金融商品にも認められるようになり、退職時点での金融商品の選択肢が広がることになりました。

こうした引き出し型の金融商品こそ、D世代(Decumulation世代、退職後資産を引き出して活用する資産活用世代のこと、10月13日付記事参照)にとって大切な金融商品といえます。英国のD世代向けの自由化は少しずつ進み始めています。

DC加入者への投資教育の必要性も高まる

年金資産の引き出しにおける簡素化・自由化はいいことですが、老後の大切な資産を退職時に大型消費に回してしまっては意味がありません。DC加入者が資産を引き出す時点で十分に金融リテラシーを持っていることが大切になりますから、投資教育は大きな課題といえます。

そこで2015年に併せて実施されたのが、DC資産引き出し時に加入者向けの投資ガイダンスを政府が無料で提供するペンション・ワイズ(Pension Wise)と呼ばれる施策です。

このガイダンスは電話で受け付けるほか、面談での相談も可能で、政府はこれを奨励しています。財務省はHP等でそうした必要性に関する周知を行い、実際の相談窓口はThe Pension Advisory Service(TPAS)が担います。

TPASは最初の連絡窓口としての電話受付を担当し、その後の電話での相談を受け持つほか、実際の面談を担当するそれぞれの地域のCitizens Advice Bureau(CAB)との橋渡しもします。

日本でも今回のDC法の改正で、加入者への継続教育がこれまでの配慮義務から努力義務へと実施強化の方向となりました。とはいえ、なかなか加入者の金融リテラシー向上は簡単ではありません。

英国のペンション・ワイズから学べる点は、タイミングと個別対応にあると思います。加入者が真剣に考える退職時点というタイミングで、無料の投資ガイダンスが個別に受けられるという点です。

また、年金に関する会話に付随して、相談者の背景を理解するために、借入れや銀行預金、ISA(個人貯蓄口座)など他の資産についてもヒアリングを行っており、結果として、年金とISAの比較、年金からISAへの資金の移管などの相談も多くなっているといいます。

こうした制度の枠にとらわれないアプローチにも学ぶべきところがあるように思います。

合同会社フィンウェル研究所代表 野尻 哲史