腕利きファンドマネジャーの1日
あまり知られていませんが、何百億、何千億円もの資金を運用するファンドマネジャーの日常は過酷です。
毎朝5時頃には起き、日本市場が引けた後の欧米市場の動きをウェブやブルームバーグと言われる専用端末で確認し、自分が運用するファンドの状況を確認します。
7時台には出社し、当日の日本株の動きをニューヨークやシカゴ先物市場から予想し、作戦を立てます。デスクのPCで金利や株価とにらめっこと思いきや、アクティブ・マネジャーなら投資対象企業の調査で外出や出張は当たり前。北海道から沖縄までの国内出張や、地球一周の海外出張もザラにあります。
出張先のホテルでは業務から戻ってもゆっくりできません。通常は“ディナー”という名で接待・被接待の連続です。正直、心と身体を休める暇はほとんどありません。ほっとできるのはコーヒータイムくらいしかないというのが、彼らの日常です。
ファンドマネジャーの最大の資本は健康
さて、下手をすれば何億円もの給料を稼ぎ、一挙手一投足が華麗に見えるファンドマネジャーも、運用成績が伴わなくなればポイされてしまうわけですから、精神的にも肉体的にも健全でないと務まりません。
そこで彼らは、自分の肉体に悪影響を与える食べ物や飲み物には人一倍気を遣うのです。朝食はフルーツかシリアル、昼食は炭水化物少なめのランチ、夕食はたんぱく質中心。接待の席でも、ご飯や麺類をそれとなく避けます。
一方、飲み物にも気を遣います。まずコーラは飲みません。筆者も内外のファンドマネジャーとの付き合いは長いですが、コーラや甘いソーダ類をがぶ飲みするファンドマネジャーは皆無です。
炭酸がほしいならスパークリングウォーターのみ。あとはコーヒーかお茶、またはミネラルウォーターですね。
缶コーヒーはコーヒーではない?
コーヒーかお茶(紅茶)と申し上げましたが、彼らは絶対缶コーヒーを飲みません。理由は単純で、缶コーヒーは防腐剤や香料などの化学物質と人工甘味料の塊で、コーヒー成分はほとんど入っていないからです。
また、缶コーヒーの缶の内側には樹脂(化学物質)が塗られていますから、ESG投資(注1)に敏感になっている昨今、缶を温めると環境ホルモンが流出するような製品はNGなのです。
注1: ESG投資とは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)に配慮している企業を重視・選別して行う投資のこと。
テレビでは朝から缶コーヒーを飲む習慣を推奨するようなCMが流れていますが、ファンドマネジャーにとっては言語道断です。リラックスしたい時にリラックスどころか、缶コーヒーの化学物質の影響でイラついてはお話しになりませんものね。
ですので、超一流のファンドマネジャーは豆を挽いてドリップしたレギュラーコーヒーかエスプレッソしか飲まないのです。イタリア人やブラジル人のファンドマネジャーは砂糖をガバっと入れますが、まあこれはご愛敬。コーヒーの本場で缶コーヒーが全く見られないのは、本物以外受け入れられないからかもしれません。
言うなれば、超一流のファンドマネジャーは、毎日の飲み物にも気を遣うことで、常に最高のパフォーマンスを出す準備をしているということなのです。
缶コーヒーは実は割高
さて、健康問題もさることながら、ファンドマネジャーはコーヒーのコストにも敏感です。缶コ-ヒーは1本100円くらいですから、一般人にとってはスタバやタリーズの代わりになって安いからいいね、となりがちですがさにあらず。
たとえば、ある清涼飲料水メーカーのホームページによると、”コーヒー入り清涼飲料”は、1グラム以上2.5グラム未満のコーヒー豆から抽出または溶出したコーヒー分を含むもの、となっています(注2)。
文字通り解釈すれば、1缶190グラムの缶コーヒー(コーヒー入り清涼飲料)には、最低1グラム分のコーヒーしか入っていないことになります。言うなれば、1グラム分のコーヒーのために100円払っていることになるわけです。
注2:一般社団法人全国公正取引協議会連合会の「コーヒー飲料等の表示に関する公正競争規約」によれば、コーヒーの分類には「コーヒー」/「コーヒー飲料」/「コーヒー入り清涼飲料」/「コーヒー入り清涼飲料(カフェインレス)」の4つがありますが、それぞれにコーヒー分が含まれる分量が異なります。本文中では、最もコーヒー分量が低い「コーヒー入り清涼飲料」を元に記載しています。
一方、エスプレッソ1杯(30cc≒30グラム)の豆量は10グラム程度と言われています。一杯350円として、エスプレッソのコーヒー豆量1グラム当たりの価格は35円。一方、缶コーヒーは1グラム当たり100円ですから、豆量で比較すれば缶コーヒーは本物のコーヒーよりも3倍も高いことになります。
コンビニのカウンターコーヒーにしても、スタバやタリーズにしても、値段が高いと感じるかもしれませんが、実際は缶コーヒーの方が全然高いというわけです。しっかり稼ぐファンドマネジャーはちゃんと計算しているのです。もちろん缶コーヒーの価格には、宣伝費もバッチリ含まれていることも。
缶コーヒーのテレビコマーシャルをばんばん打って売り上げを増やし、業績好調で株価が右肩上がりの飲料メーカーの株式を買うかもしれないファンドマネジャーが絶対缶コーヒーを飲まないというのは、皮肉ではありますが、冷徹な判断の結果なのです。