注目を集める大学基金

少子化などを背景に、多くの大学で経営環境が厳しくなっています。そうしたなか、大学基金を資産運用することで得られる運用収益に一段と注目と期待が高まっています。

国立、私立を問わず、大学には個人や法人からの寄附金を運用する大学基金というものがあり、その運用益は大学キャンパスの整備や学生への金銭的な支援などに使われています。

読者の皆さんの中にも、大学基金から寄付金を求める手紙を受け取られた経験のある方がいらっしゃると思いますが、今回はその大学基金について考えてみたいと思います。

英米に大きく見劣りする日本の大学基金

まず、その実態ですが、日本の大学基金は米国や英国と比べると規模が極めて小さなものに留まっています。以下、東京大学の「東京大学基金」のホームページに掲載されている国際比較データを見てみましょう。

ハーバード大学(米国):3兆8,800億円
イェール大学(米国):2兆4,936億円
プリンストン大学(米国):2兆1840億円
ケンブリッジ大学(英国):8,820億円
オックスフォード大学(英国):7,254億円
慶応義塾大学:481億円
早稲田大学:274億円
東京大学:100億円
注:1ドル=120円、1ポンド=180円で換算。東京大学は平成27年3月時点、それ以外は平成25年度実績

このように、世界トップのハーバード大学の基金は、日本のトップである慶応義塾大学の基金の約80倍という巨大なものとなっています。

ちなみに、東京大学の平成28年度の経常費用は2,240億円ですが、寄附金収益は82億円に留まっています。仮にハーバード大学と同規模の基金を持ち、年間5%の運用利回り(3.88兆円×5%≒2,000億円)を上げられれば、東京大学の年間費用のほとんどをまかなえることになります。

ハーバード大学は運用で苦戦

とはいえ、そのハーバード大学も、最近では基金の運用に苦戦していることが伝えられています。

2017年9月20日のブルームバーグニュースによると、ハーバード大学の寄附金基金の年間パフォーマンスは、2016年度(2015年7月~2016年6月)が▲2%、続く2017年度(2016年7月~17年6月)は+8%と上昇はしたものの、これまでに報告されている約20の主要寄付基金のうち最低となっていると報じられています。

また、こうした運用成績の悪化から、同基金のCEOは過去4年間に3人も交代させられたとのことです。

そもそも運用資金が集まらない日本に比べると贅沢な悩みのように見えますが、寄附金が集まったとしても、その運用もまた容易ではないことを示唆するニュースとして注目されます。

日本はどうすればよいのか

さて、話を日本に戻すと、真っ先に考えなくてはいけないことは、海外に比べて大きく見劣りする大学基金の規模をいかに増やしていくかです。

このためには、一部の篤志家だけに頼るのではなく、幅広い卒業生によるサポートが不可欠でしょう。たとえ大富豪ではなくても、ある程度の貯蓄ができたのであれば、その一部を少額でも寄附したいものです。もちろん、大学基金もそうしたお金が有効に使われていることを示す説明責任を十分に果たすことが求められます。

また、上記のハーバード大学の例を教訓にすると、優秀な基金運用者を育成・確保することも必要となるでしょう。

さらに、ビジネスで目覚ましい成功を収めた人による寄付の活発化にも注目したいと思います。たとえば、一代で日本電産(6594)を世界的なモータメーカーとして育てあげた永守重信会長兼社長のような取り組みです。

同氏は最近、日本電産として京都大学に2億円超の寄附講座を開設。加えて、個人的に京都学園大学に100億円以上の私財を寄付し、工学部および大学院工学研究科を新設する構想をサポートしています。

教育による人材育成は国力を長期的に左右すると言われています。こうした取り組みが広がることで、日本の活力が少しでも取り戻されることに期待したいと思います。

LIMO編集部