今回は、為替の予想をしているプロの存在意義について、久留米大学の塚崎教授が解説します。

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為替レートの予想は極めて困難で、プロでもなかなか当たらない、と言われています。それにもかかわらず、多くのプロが為替予測を披露していて、多くの人がそれを参考にしています。なぜなのでしょうか。今回は、この点について考えてみましょう。

為替の予測は極めて困難

為替レートの予測は極めて困難です。まれには頻繁に当たる人もいるようですが、基本的にはプロでも確率5割をわずかに超えた程度ではないでしょうか。その理由はいくつか挙げられます。

為替市場では、世界中のプロたちがドルの売り買いをしています。今よりもドルが高くなると思うプロが買い注文を出し、今よりもドルが安くなると思うプロが売り注文を出すわけです。

その上で、売り注文と買い注文の量が一致した値段が現在の為替レートなわけですから、世界中のプロの半数がドルの値上がりを、残り半数が値下がりを予測していることになります。つまり、半数のプロは予測が当たり、残り半数のプロは予測が外れる、というわけです。

もちろん、例外はあります。たとえばドル高バブルが崩壊中の場合には、ドル高バブル期に巨額のドルを買ってしまった人は、ドルを投げ売りするでしょう。そんな時は、ドルが値下がりするに決まっていますから、プロでなくても「ドル安だ」と予測すれば、当たります(笑)。

株価の動きは美人投票(ケインズ時代の美人投票なので、現在のものとは異なる)にたとえられますが、為替の動きも同様です。ということは、皆が上がると思った通貨に買い注文が増えて実際に値上がりするわけです。

「現在の為替レートに対して、明日はドル高になっているだろう」という予測は、「現在から明日にかけて、ドル高を予測してドル買い注文を出す投資家が増えるだろう」という予測だ、ということです。そんなことを予測できるプロが大勢いるとも思われません。

「今晩、米国で金融引き締めが行われる」と考えるプロが、ドル高を予測したとしましょう。市場の見方が分かれている時に金融引き締めを予測して当てたならば、為替の見通しも当たるでしょう。しかし、今日の時点で皆が金融引き締めを予測しているとすれば、今日の時点で既にドルが高くなっているはずですから、「明日にかけてドルが高くなるだろう」という予測が当たる確率は、やはり5割程度でしょう。

もちろん、上記はチョット言い過ぎです。大変な才能があり、実力で予測を頻繁に当てる人もいるはずです。たとえば今夜の米国で利上げがあるか否かを他人よりも正しく予測できる能力を持った人はいるでしょう。そうした人は、実力で予測を当てているわけです。あるいは、ヘッジファンド業界と深い関係があり、他のプロよりも豊富な情報を持っている人も有利でしょう。

ただ、多分そうした人は大変まれだ、ということは言えると思いますので、そうした例外的な人のことは考慮せずに以下も書き進めて行きます。

プロの意見を参考にすると、責任を逃れることが可能になる

読者が、輸出企業の経理担当者だとします。上司から「輸出代金のドルが入金された。これを、今すぐ円に替えるか1カ月待ってから替えるか、どうしよう」と相談されたら、読者はどうするでしょうか。

懸命に考えて、自分なりの予測を上司に報告するでしょうか。それは、オススメできません。プロの予測が5割の確率で外れるのですから、読者が懸命に考えても、外れる確率は5割でしょう。会社に大損をかけて読者は責任がとれますか?

それよりは、メインバンクの為替予測担当者の見解を聞きましょう。「メインバンクがドル高だと予測していますから、ドルを売るのは1カ月後にしましょう」と上司に答えれば良いのです。メインバンクでなくとも、著名な為替予測のプロならば構いません。それなら上司も失敗した時に社長に怒られずに済みますから、納得して読者のアドバイスを受け入れるでしょう。

今残っているプロは、過去に当たっていた人

上司から、「そのプロの予想は当たるのか?」と聞かれても、心配はいりません。今残っているプロは、過去の見通しが運良く当たってきた人だからです。運の悪い人は、よほど話術が上手でない限り、マスコミから降ろされてしまっているはずですから。

気をつけるべきは、過去に運良く予測が当たったがゆえに今のマスコミに出ている人が、今後も運良く当たり続けるとは限らないことです。しかし、上司には、そこまで報告する必要はないので、「過去、当たってますから」とだけ答えましょう(笑)。

自分の意見を通すために専門家の意見を引用する場合も

自分の意見を述べると責任をとらされる可能性があるから、専門家の意見に従う、という場合もあるでしょうが、反対に自分の意見を通したいがゆえに専門家の意見を引用する、という場合もあり得るでしょう。

自分の意見を述べても、説得力が今ひとつであるとしても、同じ意見を述べている専門家の発言を引用すると、途端に説得力が増す場合が少なくありません。為替レートについては、円高説の専門家と円安説の専門家が半分ずつ存在するわけですから、担当者が円安説なら円安説の専門家の発言を引用し、円高説ならば円高説の専門家の発言を引用する、といったことも可能です。

話は全く異なりますが、もしかすると、社長が社内の改革を進めようとする時に、コンサルタントを導入するのも、そうした面があるのかも知れませんね。自分が「この部署は解散する」というより、「プロのコンサルタントがこの部署を解散しろと言っているし、私もそう思う」と言ったほうが、社内の反対が押さえ込みやすいでしょうから。

なお、本稿は厳密性よりも理解しやすさを重視しているため、細部が事実と異なる可能性があります。ご了承ください。

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塚崎 公義