IR実施法案は先送りに

突然の解散・総選挙により、予定されていた法案が廃案・先送りになるという事態が起こっています。その一例が、カジノの規制基準等を定める「IR実施法案」です。

ご記憶の方も多いと思いますが、カジノを日本の成長戦略の一環として推進するために「IR推進法案」(通称カジノ法案)が議員立法により2016年末に成立しています。

ただし、実際にこの政策を実行するためには「IR実施法」による規制環境等の整備が必要であり、政府は1年以内をめどにこの法案を国会に提出することが求められていました。

今回、先送りになったことで、審議は来年年明けの通常国会に持ち越されましたが、2020年の東京五輪まで時間が限られているため、その影響が注目されるところです。

カジノが建設されるとパチンコ店は?

ただ、影響は一時的でしょうが、今回の廃案がプラスに働くかもしれない業界もあります。具体的にはパチンコ業界です。というのは、カジノが建設されるとパチンコの顧客がそこへ流れてしまうという懸念があるためです。

パチンコ業界の市場規模(貸し玉料)は21.6兆円、余暇市場全体の約30%を占め、ファンの数が930万人もいる巨大産業です(レジャー白書2017調べ)。このため、今回の法案先送りの影響以外にも、今後カジノとの棲み分けができるのか、またパチンコが健全な大衆娯楽として親しまれるような業界の取り組みが行われるのかは気になるところです。

なお、カジノは「MICE(注)」を目的に訪れる顧客や海外からのインバウンド客を対象とした”非日常の娯楽・ギャンブル”であるため、”身近で手軽な大衆娯楽”であるパチンコとの棲み分けは可能という見方もパチンコ業界にはあります。

注:Meeting(企業等の会議)、Incentive Travel(企業等が行う研修旅行)、Convention(金融機関、学会などが行う国際会議)、Exhibition/Event(見本市、イベント、展示会)

パチンコ・パチスロ専業、SANKYOの業績は停滞

ここで、実際のパチンコ関連企業の業績を通して業界動向について考えてみたいと思います。

そこで選んだのは、東証1部に上場しているSANKYO(6417)です。同社を選んだ理由は、同業の平和(6412)がゴルフ場運営に、セガサミー(6460)がエンタテインメントやリゾート事業へと多角化している一方で、同社はパチンコ、パチスロに特化した専業メーカーであるためです。

なお、同社はパチンコ販売で約16%、パチスロ販売で約8%の市場シェアを確保しています(2016年3月期)。

では、業績を見ていきましょう。

2017年3月期実績は、売上高が815億円(前年比▲41%減)、営業利益が51億円(同▲73%減)と大幅な減収減益でした。この理由は、「のめり込み防止などを目的とした自主規制に対応した新基準機」の評価を見定めようと、パチンコパーラ―の買い控えがあったことなどが影響したようです。

一方、2018年3月期については、売上高が+19%増、営業利益が+60%増と大幅な増収増益が見込まれています。この予想の背景は、前年度の買い控え影響の一巡が大きいと推察されます。言うまでもなく、先述した法案先送りとの関係はないと考えられます。

なお、今年度は大幅な増収増益が見込まれてはいるものの、10年前の2007年3月期との対比では本格回復はまだ道半ばと言わざるをえません。2007年3月期は売上高が2,805億円、営業利益は723億円に達していました。これに比べると、今年度の会社予想による売上高は約3分の1、営業利益は約1割に留まることになります。

ちなみに、同社の顧客であるパチンコパーラ―全体の粗利益は、2005年には4.7兆円あったものが、2015年には3.3兆円にまで縮小しています(同社IR資料より)。つまり、同社もこうした市場縮小の影響を免れることができなかったということになります。

とはいえ、財務体質は極めて良好です。2017年3月期末の株主資本比率は87%に達し、現預金等が有利子負債を大幅に上回るネットキャッシュとなっています。つまり、実質無借金経営ということです。このため、市場環境が急速に好転しなくても、今後の事業の継続性に関してはほとんど不安はないと考えられます。

今後の注目点

業界全体としては、今後IR実施法の施行の遅れがどのように影響するのか、またカジノ建設が進むことでパチンコ業界がどのように変化していくかが注目されます。

一方、SANKYOに関しては、身近で手軽な大衆娯楽としてのパチンコ業界を牽引する新製品を継続的に投入していくことができるのか、また潤沢な資金を活用し、同業他社のような多角化戦略に向かうのかなどが注目されます。

いずれにせよ、パチンコ業界は20兆円を超える巨大な産業ですので、その動向は今後も注視していきたいと思います。

LIMO編集部