2023年5月10日に開催された、サイボウズ株式会社機関投資家面談の内容を書き起こしでお伝えします。
スピーカー:サイボウズ株式会社 代表取締役社長 青野慶久 氏
サイボウズ株式会社 執行役員 経営支援本部長 林忠正 氏
業界へ期待を寄せていることについて
機関投資家:サイボウズでは「kintone」「サイボウズ Office」「Garoon」「Mailwise」の4つの異なる製品を提供していますが、もっと広い意味で、サイボウズについて最も楽しみにしているのはどんなことですか? 会社の成長見通しや事業全体の成長を考えるとき、業界のどんなところに期待していますか? 広い意味でかまわないので、いま期待を寄せていることを教えてください。
青野慶久氏(以下、青野):まず、優れたソフトウェアを開発して、世界中に広めたい――それだけです。
14歳の時、初めてパソコンに出会ってプログラミングを始めて、無我夢中になりました。大学では情報システムを専攻しましたが、プログラミングの才能がなかったのでプログラミングはやめてパナソニックに入社しました。1995年にインターネットが登場したときもワクワクしましたね。Netscapeを見て会社を作ろうと決めて立ち上げた会社がサイボウズです。
優れたソフトウェアを開発するためには売上や利益が必要ですが、それが目的ではありません。これが本心ですし、モチベーションでもあります。
機関投資家:おもしろいですね。
青野:投資家の人にとっては、良い社長ではないかもしれないですね。
機関投資家:かなりユニークですよね。だからこそ、今日のミーティングをとても楽しみにしていました。売上や利益にこだわりすぎないという企業理念だけではなく、技術に強い思い入れを持っていらっしゃる。
ユニークな制度を定めた経緯について
機関投資家:サイボウズにはかなり特殊な制度もありますね。例えば、誰でも取締役に立候補できますし、育休制度も非常に手厚い。日本国内でもかなりユニークで珍しい特色がいくつもあります。
どのような経緯でこのような制度を打ち出したのか、社員についてのお考えと併せて聞かせてください。
青野:1995年に初めてWeb技術を目の当たりにして、将来的に誰とでも、あらゆる情報が共有される世界になると考えました。伝えたいことを伝えたい人に伝えられる、新しい世界です。情報共有が会社組織を進化させる、その新しい世界をこの目で見たいと思っています。
ですので、僕たちが作るソフトウェアは、情報共有に限定しています。社内でも、情報共有を徹底しています。その上で一般の社員が取締役に公募できるというのも、僕たちの新しいチャレンジです。全員が同じ情報に触れているのであれば、誰でも取締役ができるのではと思っています。少し失敗もしましたが。
機関投資家:とてもおもしろいですね。
製品特徴、特色について
機関投資家:製品に目を向けると主力製品の「kintone」があり、「サイボウズ Office」「Garoon」「Mailwise」があります。全製品に共通する特徴、あるいは優れた特色は何だと思われますか?
情報共有が活動の中心だとおっしゃいましたが、サイボウズのソフトウェアのどんなところが顧客を引き付けていますか?
青野:4つの主要製品があります。主力の「kintone」はPaaSで、残りの3つはSaaSです。両者では階層が違う。
僕たちは「kintone」を中心にしていこうとしています。今、連結売上高の半分は「kintone」で、成長率が最も高いのも「kintone」です。「kintone」だけがグローバルで販売できるチャンスがあると思っています。製品戦略としては、「kintone」に徹底的に投資していきます。
林忠正氏(以下、林):プロダクトポートフォリオ的には、「kintone」以外の3つのサービスが利益を生んでいる分を、「kintone」に投資しているという構造になります。
「kintone」の特徴
機関投資家:なるほど。決算・事業説明会の中で、日本にはかなりの数の「kintone」の顧客がいるとおっしゃっていました。顧客数の伸びも堅調です。
顧客は「kintone」のどんなところが気に入っているんでしょうか? 日本の顧客に愛されている「kintone」の特徴があれば教えてください。
青野:プログラミングをしなくても情報を共有できるアプリケーションを作れることです。
作るのが簡単なだけでなく、実は拡張性が高いことも「kintone」の特徴です。例えば、「kintone」にプラグインという拡張機能をつけることができます。このプラグインが、パートナーによって何百種類も存在しています。ですので、「kintone」は簡単だけれども、実はたくさんのことができるという特徴があります。
僕たちの強みは、簡単さと、パートナーのエコシステムです。
機関投資家:パートナーが作るプラグインというと、アプリストアのようなものですか?
青野:アプリストアは今は作っていないです。でも、考え方としては同じです。
機関投資家:数百のプラグインがありますが、その多くはサードパーティが開発したものですか?
青野:そうです。開発したプラグインを私たちの顧客に販売しています。
機関投資家:サイボウズにコミッションは入ってきますか?
青野:いいえ、現在は入ってきていません。
機関投資家:なるほど。もし私が「kintone」のプラグインを開発して、サイボウズの顧客に販売したら収益の100パーセントが自分に入ってくる?
青野:はい、100パーセント入ってきます。
機関投資家:Appleだと30パーセント取られますよね。
青野:いえ、そんなことはしません。
パートナー企業について
青野:パートナーがいることが、私たちの強みです。400社以上のパートナーがビジネスをしています。そのうちの1社は、グロース市場へ上場しました。
機関投資家:何という会社ですか?
青野:トヨクモ株式会社です。東証グロース市場に上場しています。
機関投資家:なるほど。400以上のパートナー企業は、すべて日本の企業ですか?
青野:ほとんどが日本の企業ですが、アジアやアメリカの企業もあります。
「kintone」の市場規模について
機関投資家:すでに「kintone」の顧客数はある程度の数に達していますが、あとどれくらいの顧客に「kintone」を販売できるとお考えですか? 市場規模を教えてください。
青野:今、「kintone」の売上が100億円を超えたところです。とてもシンプルに言うと、年間1万円払う顧客が100万人いるという計算になります。なので、日本の人口を考えると、(日本市場での売上が)10倍にはなると思います。
ですが、100倍にはならない。なので、グローバル市場に展開していこうと思っています。
機関投資家:「kintone」の売上を10倍近い1,000億円まで伸ばせるというと、成長の中心は海外、日本のどちらになると考えていますか?
青野:10倍までは日本で行けると思っています。
機関投資家:顧客数をどんどん増やして伸ばすんですね?
青野:「kintone」の販売のみによる成長です。
機関投資家:なるほど。現在の日本国内の「kintone」の顧客数を教えてください。
青野:現在、導入社数は約28,000社ですので、日本の人口を考えると、10倍まではできると思います。
機関投資家:なるほど。ユーザーごとの課金制ですか?
青野:そうです。
機関投資家:とてもおもしろいですね。
新市場への参入や投資におけるKPIの設定について
機関投資家:そうすると、「kintone」だけを見ても大きなチャンスがありますが、「Garoon」など他の製品も十分に訴求力を発揮できる可能性がありますね。
日本国内だけで売上が10倍になる可能性があって、優れたソフトウェアもあり、顧客から支持されている。同時に海外にも多額の投資をしていて、特にアメリカ市場を開拓しようとしています。投資期間もかなりの年数になっています。
個人的には、アメリカ市場も含めて新市場への参入や投資に抵抗はありません。ただ投資に対して、何らかの期限やKPIは想定していますか? 例えば、アメリカで「kintone」の売上が5年で一定額に達しない場合、あるいは5年以内に一定の顧客数に達しない場合、撤退を考えるといったKPIはありますか? それとも投資を続けますか?
青野:期限は設けていません。自分が生きている限りこの課題に取り組み続けたいと思っていて、それが私の夢でもあります。
これまでアメリカ市場で成功した日本のソフトウェア会社はありません。アメリカ市場は、本当にハイレベルで競争が激しいです。競合が世界中から集まってくる。達成不可能と言っても良いようなミッションで、宝くじを買うようなものです。でも当たりを引くには、宝くじを買うしかない。
この5年間くらい、USにかなりの投資をしてきました。結果は残念ながら、USでの顧客はまだ850社くらいです。
林:明確なデッドラインを引いているわけではないが、日本側の事業が出している収益の範囲、安全な範囲内で投資をしています。それが1つと、結果としてチャレンジをし続けていたからこそ、今回リコーさんのようなグローバル企業と一緒にチャレンジする機会に恵まれたと理解しています。
機関投資家:ご自身が現役の間は投資をしたいというお気持ちはわかります。でも一歩下がって「もう少し違う市場開拓戦略をとるべきではないか」と考えてみるお気持ちはありますか? そういった角度からアメリカへの熱意を分析したことはありますか?
5年間投資を続けていて顧客数は850社ですが、これまでとは違うアプローチは検討なさいましたか? 検討したのであれば、ここ2、3年の間にアメリカ戦略をどのように変えてきたか具体的に教えてください。
青野:リコーさんとの提携によって、戦略が大きく変わりました。リコーさんは、世界中で販売できるネットワークを持っています。同社は今まで複合機を販売していましたが、これからはデジタルサービスを提供する企業に変革するというのが大きなミッションです。同社が「kintone」を販売するというのは、山下会長と大山社長がリーダーシップを取って進めています。
林:直近5年で言うと、USへの投資金額の約半分は、マーケティングやプロモーションの費用でしたが、リコーさんと組むことでリコーの顧客にアプローチできるようになり、マーケティングやプロモーションの費用が大きく下がると想定しています。
機関投資家:リコーさんとの協業で、アメリカの営業活動はどちらが担当しますか? 既存顧客や新規顧客に対して「kintone」の提案や販売を担当するのは、サイボウズ、リコーのどちらでしょうか?
青野:今は、我々からリコーさんのセールス担当の人たちに「kintone」販売の教育をしているところです。それを経て、リコーさんのセールス担当が彼らの顧客へ直接アプローチをしていくことになります。
機関投資家:そうですか。おっしゃるとおり、サイボウズの営業、マーケティングコストが大幅に下がりますね。
青野:そうなってほしいですね(笑)。
機関投資家:サイボウズにとっては間違いなく朗報ですね。ただアメリカでのリコーの実力はご存知ですか? 非常に強力で強固なネットワークがあるんでしょうか? アメリカではよく知られた企業ですか? それとも知名度はあまりないのでしょうか?
青野:複合機の販売でいうと、アメリカでも高いシェアを持っているのではないかと思います。コピー機を置かない会社はほぼないので、サイボウズとしては十分な顧客が存在していると思っています。僕たちのアメリカでのシェアは、0.01パーセントもないくらいですが。
機関投資家:わかりました。
サイボウズとリコーの協業の詳細について
機関投資家:機密事項かもしれませんが、今回の協業では「kintone」が売れるたびに、リコーにかなり大きなコミッションを支払っているのではないかと推測しています。それともリコーが無償でやっているのでしょうか? どのような取り決めなのか、正確な割合までは必要ありませんが、大まかにでも教えていただけると助かります。
青野:基本、サイボウズからOEMで提供するかたちを取っています。なので、ライセンスの売上をリコーさんとサイボウズでシェアします。
リコーさんが販売する「kintone」は、製品名が「RICOH kintone plus」と言って、リコーさんのブランドの製品になっています。
機関投資家:なるほど。売上のシェアは50パーセントずつですか?
青野:それは言えません。トップシークレットですから。
機関投資家:でも半分以上は入ってきますか?
青野:わからないですね(笑)。
機関投資家:そうですか。大丈夫です。
国内の他企業との協業予定について
機関投資家:今後数年間で、他の日本の大企業と同様の協業を立ち上げる予定はありますか? それとも今後5年間はリコーとお付き合いをして、進捗やどれだけの売上につながるかを見ていきますか? 今のところ、どのような計画なのか教えてください。
青野:日本に関しては、さまざまなパートナーと組んでいくので、リコーさんと組むこともあれば、富士フイルムビジネスイノベーションさんや大塚商会さんなど、さまざまなパートナーと活動していきます。海外に関しては、リコーさんを中心に当面は進めていきますが、アジアでは富士フイルムビジネスイノベーションさんと組んでおり、リコーさんだけではないです。
機関投資家:そうですか。
国内の競合製品について
機関投資家:競合製品についてですが、日本で「kintone」の競合にあたるのはどんな製品ですか? 同じような製品はありますか?
青野:「Salesforce」や「Microsoft Power Apps」と比較されることが多いですが、サイボウズの製品のほうが簡単であるという特徴があります。
機関投資家:つまり「kintone」の場合、ITの知識はほとんど必要ないということですね。「kintone」をインストールして使いたい人がいたら、「Microsoft Power Apps」や「Salesforce」を使いたい人と同じレベルのIT専門知識は必要ない?
青野:そうです。例えば東京都は大きな顧客の1つで、5,000名の「kintone」開発者を育成していますが、ほとんどはIT知識がない方ばかりです。
機関投資家:では、この5,000人が東京都の職員なのですね。
青野:そうです。すごいですよね。
林:アメリカと違って、日本はエンジニアが企業に在籍している比率が低いため、そういう意味で「kintone」は日本で広く受け入れられていると思います。
アメリカにおける競合と戦略について
機関投資家:アメリカでも「Salesforce」や「Microsoft Power Apps」など競合他社は同じですか? それともさらに数が多いですか?
青野:アメリカ市場には、「Airtable」や「Smartsheet」など、さらに多くのプレーヤーがいます。強力なライバルがたくさんいます。
機関投資家:アメリカでは、「kintone」と競合製品を差別化するためにマーケティングの手法を変えていますか? それとも、リコー頼みなんでしょうか?
どのくらい積極的に「kintone」のポジショニングを変えて、マーケティングに工夫を凝らしているかうかがいたいです。
青野:基本的には同じ戦略で、パートナー企業が「kintone」の周辺でビジネスをするというエコシステムモデルをアメリカで作っていく予定です。なので、リコーさんが「kintone」を販売した後、その周辺で新しいビジネスが生まれると思っています。「kintone」の拡張機能を作るパートナー企業が生まれたり、「kintone」の教育を手掛けるパートナー企業が生まれたり。
機関投資家:「kintone」「Garoon」をはじめ、全製品がクラウド化されていますか?
青野:そうです。
機関投資家:オンプレミスではないということですね。
青野:いいえ、オンプレミスではありません。
機関投資家:そうですか。
研究開発について
機関投資家:研究開発に関してですが、「kintone」は継続的に改善・強化していますか? もしくはすでに十分に効率的で、これ以上追加・改善することはないと感じていますか? 製品開発に対する考え方を教えてください。
青野:1つ重要なのは、データセンターです。今は日本とアメリカだけですが、ヨーロッパやアジアでも必要だと思っています。世界のさまざまなところでデータセンターを運用できる体制を作っていく必要があります。特にヨーロッパはGDPRという厳しい規制があります。
エンジニアの採用について
機関投資家:ソフトウェアエンジニアに求める条件についてですが、日本ではエンジニアの人材不足が深刻です。サイボウズでは、どのように対処していますか? 十分に優秀な人材を確保できているのか、それとも苦戦しているのかどちらでしょうか? 海外からも採用していますか?
青野:今は、まだ日本人が中心ですが、社内のいくつかのプロジェクトでは、英語を公用語とした開発チームができています。人材確保のためにも、英語で開発を手がけられるチームを目指しています。
林:最近では、日本で働きたい海外エンジニアも増えています。
青野:実際に採用した方はアメリカ在住でしたが、日本に移住したいと希望し、サイボウズへ応募してくれました。台湾をはじめ、さまざまな所で採用実績があります。
新卒採用について
機関投資家:新卒採用人数も多いですか?
青野:新卒採用は日本拠点だけです。今年は46名が入社しました。
機関投資家:なるほど。新卒採用者は、みなさん技術系の専攻ですか?
青野:(技術系とビジネス系の割合は)半分ずつくらいです。
機関投資家:一般的に新卒採用の場合、学生はサイボウズのような時価総額が小規模から中規模で急成長しているIT企業への入社に前向きだと感じていますか? それとも未だにMUFG(三菱UFJフィナンシャル・グループ)や第一生命など、大手の銀行や保険会社、商社の方を希望していますか? スタートアップについて、学生の志向に変化はありましたか?
林:昔ほどはなくなってきたと思います。
青野:ただ、サイボウズの企業規模が大きくなってきたとは思います。
林:我々自身もスタートアップじゃない感じですね。
機関投資家:そうですか。
5年後、10年後の展望について
機関投資家:本当に良いものを作って売るのが最大の目的であって、財務データにあまりこだわっていないとおっしゃいましたが、全体的に見ると、売上の成長は目を見張るものがあります。ただ利益の変動は非常に激しいですね。
今後5年、10年先も売上は順調に伸びていくと予想していますか? 今後も常に利益は増減を繰り返すか、それともほぼ減少していくと思いますか? 5年、10年先の会社の展望をどうお考えですか?
青野:今のビジネスモデルであれば、売上は積み上がっていくと思いますし、利益はコントロールをしていこうと思っています。
今年の第1四半期決算はまだ発表していないですが、月次で売上速報は出しており、おそらく20パーセントくらいの営業利益率になると思います。リコーさんと組んだことで、USでのマーケティングコストが下がっています。
林:投資家のみなさまに説明しづらい話ではありますが、単年度の利益に重きを置いていません。積み上がっていく売上を見ながら、常に適切な投資をタイムリーにできているかということが、SaaSビジネス、いわゆるサブスクリプションビジネスにおいて大切だと思っています。なので、予測値が変動するケースが多々あるのは、そういうところに起因しています。
青野:エコシステムを重視するビジネス戦略なので、私たちが営業人員を大量に採用することはしないです。そこが、「Salesforce」や他の日系SaaS企業との大きな違いだと思います。
林:逆にいうと、日本のSaaSビジネス企業で、ここまでパートナーネットワークを緻密に築いている企業も少ないのではないかと思います。
投資のイメージモデルについて
機関投資家:年次の営業利益の成長よりも売上高の成長を重視していることから、ある程度の収益性を維持した上で、余剰利益をアメリカなどに再投資するモデルだと考えて良いですか? つまり利幅が30パーセントから40パーセント以上に爆発的に上振れすることはなく、一定の水準で安定させて残りは投資に回すモデルでしょうか?
青野:そのとおりです。
機関投資家:そうすると、何らかの理由で買収や「kintone」への投資を増やす必要があれば、その資金はすべて自社のキャッシュで賄うことになりますか? つまり株式を発行して株主から資金調達したり、社債を発行したりしない、というのは妥当な解釈でしょうか?
青野:調達の可能性はありますし、今年1月にはリコーさんへ自社株を売却し45億円ほどのキャッシュを得ています。
機関投資家:でも売却したのは自社株であって、新株発行ではなかったんですよね?
青野:はい、そのとおりです。でも、新しい株式を発行する可能性もあると思います。
林:ただ、銀行との関係が良好で、我々のビジネスモデルもしっかり理解していただいているので、おそらくデットで賄える領域もかなりあると思います。なので、株式で調達しなくてはならないケースがどのくらいの確率で発生するかわからないですが、デットで調達する余力はそれなりにあると言えます。
自己株式について
機関投資家:もう1つ目に留まったのが自己株式です。13パーセントというのは、かなり多いですね。消却の可能性も視野に入れていますか?
青野: 今は考えていないし、将来はわかりません。
機関投資家:自己株式を消却すれば、バランスシートの改善、収益や利益の大幅な向上を簡単に実現できますし、広告費を削減する必要もありません。
半分売却して、もう半分をM&A用に残しておくとか? 13パーセントはやや高すぎるように感じます。通常、自己株比率は5パーセントから6パーセント程度です。単なるアイデアですが、(消却すれば)とても簡単に投資家に喜んでもらえますよ。
青野:今までも自己株式をどうするか議論してきましたが、今回のリコーさんとの件で初めて使うチャンスが生まれました。なので、リコーさんからの提案は私たちにとってとてもありがたかったです。
機関投資家:13パーセントはちょっと高い気がします。通常、多くの企業、特に歴史が浅く急成長しているネットビジネスでは、予備的に平均で4パーセントから6パーセント程度の自己株式を保有していますが、サイボウズはそれをはるかに上回っています。手っ取り早く株主還元を強化して株価を上げられますし、間違いなくポジティブな反応が返ってくるでしょう。
いずれにせよ、みなさんが議論すべきことで、あくまでも一案に過ぎません。
優秀な人材の採用について
機関投資家:先ほど少しソフトウェアエンジニアの話とデータセンターの運用の検討を開始したいという話が出ました。ソフトウェアエンジニアは引く手あまたで、人材の争奪戦が繰り広げられていますが、サイボウズではどのように優秀な人材を集めますか?
青野:まずはお金でしょうか(笑)。1つ言えるのは、日本に住みたいという外国人にとっては良い企業だと思います。
林:今サイボウズで働いているエンジニアの人たちの繋がりなどリファラル採用のかたちで、サイボウズ製品の開発はおもしろいと思ってくれる人がジョインしてくれる印象もあります。
青野:定着率も高く、離職率が低いのも特徴の1つです。直近の離職率は5パーセントくらいです。
機関投資家:サイボウズのビジネスにとっても、優秀な人材の確保は重要ですよね。
離職率について
機関投資家:2005年頃に離職率が急上昇して、その後、急低下しています。この時期は何があったんでしょうか? 世界金融危機の影響ですか? 単なるサイクルなのか、それとも別の理由でしょうか?
青野:2005年は、私が社長になった年です。そこから社員の働き方を多様化し、短い時間で働きたい人も働けるようになり、働く場所も自由に選べるようになりました。
サイボウズ独自の制度について
機関投資家:参考までにサイボウズの全社的な制度のうち、日本ではあまり目にしない独自の制度を3つ教えてください。他の日本企業にはない、またはごく少数の企業にしかない制度という意味です。人事制度など、とてもサイボウズらしいと感じられるものがあれば。
青野:たくさんありますが、複業ができるのは特徴です。会社の承認も基本的には不要です。
林:私も、学校法人での勤務や他社でのアドバイザリーを務めています。
機関投資家:サイボウズで働きながら、セールスフォース・ドットコムでも働けるんですか?
林:事業にマイナスの影響を及ぼす可能性のある複業には細心の注意を払っています。
青野:いろんな業界で複業をしている人がいて、農業をする人もいれば、大学で働く人もいたり、ラーメン屋を営む人もいます。これが、僕たちのエコシステム戦略とマッチします。
機関投資家:複業の時間配分は個人に委ねられていますか? それとも例えば10パーセント、20パーセントなど、会社が大まかな配分を決めていますか?
青野:いいえ、決まった数字はありません。サイボウズで週2日働くメンバーもいれば、週3日働くメンバーもいるなど、さまざまな働き方をしています。
機関投資家:最後にもう1つユニークな人事制度を挙げてください。
青野:退職しても6年以内であれば、面接テスト無しに再入社できる制度もあります。
機関投資家:本日はお時間をいただき、誠にありがとうございました。