投信1編集部による本記事の注目点

  •  中国政府は2030年を1つの節目と考え発展目標を設定していますが、製造装置のムーブイン(設備導入)はずっと右肩上がりを続けるとは限らないと予想されます。
  •  中国の半導体工場の装置導入計画を投資案件ごとに積み上げていくと、2020年はどうしても前年水準に届かず、いったん右肩上がりがストップします。
  •  一言でいうと「単純な右肩上がり」ではなく、「鋸(のこぎり)の刃のようなジグザグな成長」になると考えられます。

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電子デバイス産業新聞の2017年7月6日号1面に、「中国、半導体大国へ前進~300mm工場投資20件が進行」という記事を書いた。業界記者になって十数年経つが、読者からの反響が最も大きな記事となった。

中国政府が国策として進める「先端半導体と装置・材料の国産化戦略」が工場建設という具体的なかたちとなって進行し、業界関係者の関心事となっているからだろう。しかも、こうした工場計画が20案件も同時進行している。半導体工場の新設がめっきり少なくなった日本や既存企業の拡張に限定される韓国や台湾などと比べて、中国は戦国時代の到来を思わせる群雄割拠の様相を呈している。

中国の半導体製造は今後も長期にわたり拡大を続けていくだろう。中国政府は2030年を1つの節目と考え、発展目標を設定している。しかし、製造装置のムーブイン(設備導入)はずっと右肩上がりを続けるとは限らないと私は予想している。中国を今後の重要マーケットと考えている企業は注意が必要だろう。

“爆投資”を始めた中国

世界の半導体装置市場に関するデータを見てみると、中国市場の急成長ぶりがよく分かる。2013年の半導体工場投資は318億米ドル(約3.4兆円)。これが17年は491億米ドル(約5.3兆円)に拡大する。この4年間で世界の半導体装置市場は1.5倍に増加した。しかし、日米欧市場に限定すると13年は105億米ドル(約1.1兆円)。17年は135億米ドル(約1.4兆円)で、4年間で30%弱しか増えていない。

中国の装置市場が急成長を続ける

これに対して、台湾は13年の105億米ドル(約1.1兆円)から、17年は127億米ドル(約1.3兆円)に約20%増加した。台湾は4年間ずっと世界最大の導入国(地域)だった。台湾(TSMCやUMCなど)だけで、日米欧の装置導入量とほぼ等しい規模がある。

韓国は13年の52億米ドル(約5700億円)から、17年は130億米ドル(約1.4兆円)へ2.5倍増。寡占化市場となったDRAMやNANDなどのメモリーは過去にないほどの高値が続き、世界の70%のメモリーを製造する韓国勢(サムスンやSKハイニックス)の設備投資額が17年は半端なく大きい。17年は韓国が台湾を抜いてトップに躍り出るメモリアルイヤーとなる。

中国市場に目を向けると、13年はSMIC(中芯国際集成電路)の北京300mm工場やホワリー(華力微電子)の上海300mm工場、サムスン西安(3D-NAND製造)の300mm工場が装置を導入するなど、中国の装置市場は33億米ドル(約3600億円)の規模に成長した。14年に中国政府は半導体国産化戦略を打ち出した。翌年は半導体業界を専門とする金融ファンドが運用を開始し、17年の装置市場額は70億米ドル(約7600億円)に拡大。13年と比較するとおよそ倍の規模に大化けした。中国の設備投資の勢いは止まることを知らず、18年は110億米ドル(約1.2兆円、前年比1.6倍)に増加する見通しだ。

20年に装置市場は前年割れ

半導体産業が成熟した日本や韓国、台湾では、世界金融危機のような突出した経済のマイナス成長でも起きないかぎり、装置導入量が前年割れするようなことは起きないだろう。中国は1999年から200mmウエハー対応の半導体製造を始め、すでに20年弱が経過した。すでに半導体製造は産業として定着し、不安定な初期のステージを越えた。しかし、中国の装置市場は20年に大きく落ちることが予測されるのだ。

中国の半導体工場の装置導入計画を投資案件ごとに積み上げていくと、20年はどうしても前年水準に届かず、いったん右肩上がりがストップする。足元の投資計画は具体的になっているが、ちょっと先の20年ともなると、各社ともまだムーブイン計画が明確になっていないため、ボトムアップ式で装置導入量を予想すると、20年の数字が低めに算出されてしまう傾向は確かにある。しかし、前年割れが予測される理由は、どうもそれだけではない中国独自の特殊事情が深く関係している。

18年、19年と伸びて、20年に前年割れの予測

「右肩上がり」でなく「鋸(のこぎり)上がり」

中国の半導体製造は28nmプロセスでの量産や14nmプロセスでの開発レベルに到達した。しかし、3D-NANDや10nm以下(1桁台)の微細化技術においては、中国はまだこれから参加する段階にある。YMTC(長江ストレージ=長江存儲科技有限公司)やチャンシンIC(イノトロン=睿力集成電路)は数カ月以内に300mm工場を立ち上げ、最初の製造装置の搬入を開始する。両社とも中国企業としては初めて先端メモリーを生産する予定だ。

YMTCは64層の3D-NAND、チャンシンICは19nmのDRAM(DDR4)を生産する。生産実績のない企業が試作品を作り出しても、いきなり顧客の認定は取れない。ましてや試作品もない現段階では顧客企業すら決まっていない。試作品の完成と顧客認定を取得して商業生産を始めるには、およそ2年の時間がかかるのではないだろうか。

中国の巨大メモリープロジェクトと呼ばれる2工場は数年内にそれぞれ月産能力10万枚の工場立ち上げを計画しているが、18~19年に初期の装置を導入した後、製造装置を追加導入する可能性は極めて低い。顧客がつかなければフル稼働までに時間がかかるので、次期投資までにどうしてもブランクが生じてしまう。

また、「自己資金でなく、中国政府の資金支援を受けて製造装置を購入できるので、最初の段階で必要以上の製造装置を導入してしまう企業が多い」(装置メーカーの営業)。政府のお金でドカンとまとめ買いしてしまえば、翌年分を前倒しで手配してしまった格好になる。中国では半導体工場の新設が18~19年に集中しているので、立ち上げた工場の拡張が継続できなければ、20年は装置導入量が大きく落ち込む可能性が高いのだ。これが中国独自の特殊事情というわけだ

YMTCの前進となった武漢メモリープロジェクト開業式典(16年3月末開催)

「18年、19年と伸びて、20年に落ち込む」(中国の半導体材料メーカーのマーケティング担当)。そして1~2年のブランクを経て、顧客向けの安定供給が始まる段階でまた装置の発注が起きる。中国の半導体装置市場はしばらく、このように成長していくことが予測される。つまり、「単純な右肩上がり」ではなく「鋸(のこぎり)の刃のようなジグザグな成長」になると考えられる。

思い返せば、中国で初めて200mm半導体工場の投資が集中した2000年代の前半にも同じような現象があった。20年ごろの前年割れと“鋸”の2点について、注意が必要だ。

電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善

投信1編集部からのコメント

本記事では、記者が数値を積み上げて結論を出していますが、受注の見通しは時間とともに変化するという点には留意したいところです。記事内でも装置メーカーの営業のコメントとして、「自己資金でなく、中国政府の資金支援を受けて製造装置を購入できるので、最初の段階で必要以上の製造装置を導入してしまう企業が多い」と述べられていますが、こうした受注トレンドにおけるノイズがさらに見通しを難しくしていると思われます。

とはいえ、中国が半導体に対して長期的な戦略で取り組んでいることが、他の国や地域の半導体メーカーにとって脅威であることには変わりありません。また、製造装置業界での存在感も今後さらに増していくでしょう。サイクルは死んでいないという視点の中で、中国勢には注視していきたいと思います。

電子デバイス産業新聞×投信1編集部

電子デバイス産業新聞