クラウドファンディングとは、多くの投資家から出資を募り、企業やプロジェクトに資金を供給するという投資形態です。投資をする個人にとっては小額からの投資が可能で、企業にとっては銀行からの借り入れが困難であっても資金調達が可能であるというメリットがあります。
現在、政府は「成長戦略」の一環としてクラウドファンディングの環境整備を進めています。今回は、経済成長という観点からクラウドファンディングについて考えてみたいと思います。
経済成長を決定する要因は何か
日本のGDPは、ここ20年低い成長率で推移しています。まず最初に、経済成長はどのような要因で決定されるかについて見てみましょう。
経済全体の生産量の増加率(GDP成長率)について、その内訳を分析することで成長の要因を明らかにする「成長会計」という考え方があります。これに基づけば、経済成長は「人口・資本・技術水準」の3つの要因によって決定されます(注)。
人口、とりわけ労働人口が増加すると、全体の生産量も増加します。また、設備投資により機械などの資本が導入されれば、やはり生産量は増えます。技術進歩により生産効率が改善することによっても生産量は増大します。技術進歩・イノベーションは、何も新しいテクノロジーの開発といったことに限りません。生産方法の効率化といった仕組みの改善もイノベーションに含まれます。
日本について成長会計分析を行ってみると、以下のグラフのようになります。ここでの潜在成長率とは、仮に今存在する生産に必要な要素(資本・労働力)がフル稼働したときのGDP成長率で、中長期的に経済がどの程度成長できるかを示す指標になります。
日本の潜在成長率は一貫して低下していますが、その理由は労働寄与度と資本寄与度が減少しているからであると分かります。特に労働投入についてはマイナス寄与(潜在成長率を引き下げる方向に働く)が続いています。
この背景には人口減少があることは言うまでもありません。資本についても、バブル崩壊以降の企業の設備投資抑制により寄与度が減少しています。このように見ると、日本の経済成長は技術進歩(TFP)に支えられていることが分かります。
労働人口の減少は、少子高齢化が続く日本においては避けられません。また、近年の高い企業収益にもかかわらず、企業は設備投資に対して慎重な姿勢を崩していないとの指摘もあります(このことは資本の増加を低める方向に働きます)。よって、日本が今後経済成長を目指すとき、「技術革新」が鍵を握るといえます。
注:生産を行う上で必要な要素(生産要素)は「労働」と「資本」です。生産量の増加率について、この2つの増減で説明できる部分とできない部分(全要素生産性、TFP=Total Factor Productivity)に分けて分析を行うのが成長会計です。このTFPが技術進歩を表すと一般には考えられています。
技術革新を促すには
では、企業の技術革新(イノベーション)を進めるために必要なことは何でしょうか。
様々な対策が考えられますが、その中の1つに「リスクマネーの供給を促すこと」があります。リスクマネーの定義の仕方は1つではありませんが、「リスクをとって企業等に提供するお金」と考えて問題ないと思います。
企業にとって、新しい技術を開発したりイノベーションを起こしたりすることは大きなリスクを伴います。なぜなら、多額な研究・開発費が必要なのにも関わらず、必ずそれが成功する保証はないからです。そうしたリスクを伴う事業・プロジェクトに多くの資金が集まる環境が整えば、企業はイノベーションを起こしやすくなると考えられます。
しかし、このリスクマネーの供給促進は容易ではありません。投資家からすれば、多額のお金をつぎ込んで「リターンを生まないかもしれない投資」を行うインセンティブはないでしょう。
クラウドファンディングの可能性
そこで、今クラウドファンディングが注目されているのです。クラウドファンディングは小額からの投資が可能な一方、多数の投資家から資金を募るので結果的にまとまった資金を企業に提供できます。
よって、投資家が背負うリスクを分散できると同時に、銀行ではリスクが大きすぎてできない資金の供給を、企業側が享受できることになります。ベンチャー企業等の主要な資金調達手段として期待されています。
冒頭に述べたように、政府は成長戦略の一環としてクラウドファンディングを位置付けています。2013年の「日本再興戦略2013」では、資金調達多様化の手段としてクラウドファンディングの枠組みを検討することが明記されました。
また、金融庁は新興企業へのリスクマネー供給を促進するため、2014 年に金融商品取引法等を改正し、クラウドファンディングの環境を整備しています。
クラウドファンディングの市場規模は急成長を続けています。visualizing.infoによる日本の主要クラウドファンディング10 社の調査では、2015年9月は47.2億円であったのに対し、2016年11月には86.5億円となっており、今後も拡大が予想されます。
クラウドファンディングの成功事例として有名なものに、Pebble Watchがあります。当時Allert社のCEOだったMigicovskyは、携帯電話の様々な機能を手首で使えるようにした新たな製品(いわゆるウェアラブル端末)を構想し、製品化を目指しました。
そこで資金調達にクラウドファンディングを用いたところ、28時間で100万ドルの募金に成功しました。こうして製品化されたPebble Watchは、27万台の販売実績により、ウェアラブル市場での成功を収めたのです。
日本においても、クラウドファンディングが盛んになり、リスクマネーの供給が増えることで、生産効率を改善させるような技術進歩・イノベーションが実現すれば、経済成長がもたらされる可能性は大いにあるでしょう。
以上、投資型クラウドファンディングを通じて世界のお金の流れを変えるクラウドクレジットでした。
参考文献
金融庁(2014)「金融商品取引法等の一部を改正する法律(平成26年法律第44号)に係る説明資料」
保井俊之(2013)「リスクマネー供給によるオープンイノベーションの加速」、独立行政法人経済産業研究所
経済産業省(2016)『通商白書2016』
首相官邸ホームページ「日本再興戦略」
三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2017)『日本経済の中期見通し(2016~2030年度) ~人口減少による需要不足と供給制約に直面する日本経済~』
visializing.info
クラウドクレジットブログ(2015)『クラウドファンディングの成功事例』
クラウドクレジット