「レンジエクステンダーEV」ではマツダが世界をリードするかもしれません。レンジエクステンダーとは発電機としてエンジンを搭載したEVカーのこと。バッテリーのみの弱点を克服しつつ、往年のロータリーエンジンを発電機として搭載した「MX-30 e-skyactive R-EV(以下、MX-30 R-EV)」が欧州で先行して登場します。元ロータリーエンジン車ユーザーであり、レビュワーとして国産はじめ多くのEVを長距離で試した経験のある私なりの展望を考えてみました。

【EV市場巻き返し】ロータリーエンジンの真骨頂、発電機として見事に復活

米テスラ社や中国系企業がしのぎを削るBEV業界。自動運転技術でも販売された車から常にフィードバックされる仕組みを持つテスラの強みは完全自動運転への大きな足掛かりとなっています。

そんな中、日本の自動車メーカーは、正直EVではかなり出遅れている印象。販売台数が伸びないので価格は下がらず、充電設備も拡充しないという悪循環に陥っています。

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欧米ではすでに150kW級急速充電器が一般的ですが、国内では3月にようやく新東名浜松SA下り線に新設されるなどやや遅れています。

画像元:e-mobility Power公式サイト

国産BEV自体も150kW充電に対応しているものがないため、現状では外国産BEV優位の状況。そんな設備が整わない中だからこそレンジエクステンダーが重宝するわけです。

さらに素晴らしいのはロータリーエンジンの特徴が発電に最適なこと。通常のエンジンよりはるかにコンパクトなサイズで同等の発電力が得られます。エンジンとして使われていた頃は特別な税が課されるなど小さい排気量の恩恵を受けにくかったロータリーエンジンですが、ここへ来て一気に真骨頂を見せる時が来たのかもしれません。

画像元:マツダプレスキット

【EV市場巻き返し】死角のなくなった完璧なMX-30 R-EV

MX-30 R-EVモデルは見た目こそMX-30 EVモデルと変わりませんが、発電パーツが加わったことで安心感は段違いです。元々のMX-30 EVモデルは35.5kWhというBEVとしてはやや小さめなバッテリー容量が長距離走行に不向きでした。

画像元:マツダプレスキット

実際、私も東京から愛知へ遠出する際にしっかりと試してみましたが、道中2回は充電が必要でした。運転アシストを含めた車としての完成度は高いだけに残念な結果です。その弱点を見事に補ったMX-30 R-EVモデルはバッテリーこそさらに小さい17.8kWhになったものの、短距離と長距離でしっかりと役割が分かれたので環境負荷と実用性のバランスは完璧になったと言えます。

具体的には、街乗りではバッテリー+モーターだけで走り、長距離走行の時だけ発電機を使うといった具合です。これによって最大航続可能距離は600kmとなるので、充電設備が整備しきれていない場所へ遠出する際も安心して使えるというわけです。

筆者撮影

さらに今後、世界市場でも継続して売れそうだと感じるのはロータリーエンジンのポテンシャル。現在地域によって詳細は異なるものの、ガソリン車の販売の禁止が予定されています(下記参照)。

<特定の地域におけるガソリン車に関する政策の例>

  • ヨーロッパ…ノルウェーは2025年までに新規のガソリン車とディーゼル車の販売を禁止。フランスとイギリスは2040年までに、オランダとアイルランドは2030年までに同様の禁止を計画
  • アジア…中国は2035年までにすべての新車が「エコカー」(電気自動車やハイブリッド車)であることを目指している。インドも2030年までにすべての新車が電気自動車になることを目指している
  • アメリカ…カリフォルニア州は2035年までに新車としてのガソリン車の販売を禁止

販売禁止後もこれまでに販売されたガソリン車は残るため、ガソリンの販売自体は継続されると考えられます。でもその先はどうでしょうか?通常のレンジエクステンダーでは以前として発電中にガソリンを燃焼させるのでCO2は排出します。

しかしロータリーエンジンではなんと水素も使えるんです。この特性を活かせば、あるところまではガソリンを使って、供給網が普及したら水素に切り替える、という運用が可能になるんです。

【EV市場巻き返し】国産車の未来はロータリーEVにかかっている?

すでにRX-8 Hydrogen REというモデルでデュアルフューエル(ガソリンと水素両方が使える)は実現しているため、このR-EVでのデュアルフューエル化もかなり現実的です。

画像元:マツダプレスキット

そしてこれができるのはロータリーエンジンの技術を持つマツダだけ。EVの技術では遅れをとっていますが、この技術は世界中どこの自動車企業も実現できていません。これなら競争力を失わずに世界市場で戦っていけるでしょう。

国産車の海外での販売不振が続く中、マツダの方向性には大いに期待しています。デザイン性にいち早く注目し、低価格帯から高価格帯まで全く同じ品質を実現。さらに運転アシストと体感のシームレスな連携もまさに「人馬一体」というレベルです。

こうした取り組みが低価格帯の車を購入した層をファンに昇華させ、ライフステージにそってずっとマツダ車に乗り続けるというサイクルが生まれています。この動きが世界中に広がるかも、と期待させてくれた発表でした。

参考資料

木村 ヒデノリ