突然の解散モード入りで買われた「選挙関連銘柄」
2017年9月25日、安倍総理大臣は28日に召集される臨時国会の冒頭に衆議院を解散することを正式に表明し、10月22日に衆議院選挙が行われる見通しとなりました。
こうしたニュースで気になるのは、投票所に置かれる投票用紙の読み取り装置や投票箱などの関連製品を扱う「選挙関連銘柄」の動きですが、既に株式市場では1週間前からこれらの銘柄は動意づいていました。
訪米直前の安倍首相が9月18日、記者団に対し衆議院の解散を行うことを検討していると表明した翌日19日の選挙関連銘柄の上昇率は以下の通りです。
- ムサシ(7521)+8%上昇
- グローリー(6457):+1%上昇
- インテージホールディングス(4326):+6%上昇
- イムラ封筒(3955):+15%上昇
今後、これらの選挙関連銘柄がどのような動きを示すか興味深いところですが、まずは各社の事業内容について少し詳しく見てみたいと思います。
ムサシは選挙関連銘柄の老舗
ムサシの選挙関連事業の歴史は古く、1965年に投票用紙計数機の開発を始めたところからスタートしています。その後、1978年には自動開披投票箱の開発に着手、1988年には選挙の「入口から出口まで」の各種機材を整備・構築しています。
現在では、選挙機器(自書式投票用紙読み取り分類機など)、選挙業務管理ソフト、開く投票用紙※、のぼりなどの告知用品、候補者が着けるタスキなどの表示物、さらに選挙スタッフの派遣や機材のレンタルなどのサポートサービスを手掛けています。
※ 折って投票箱に入れても自然に開く投票用紙。開票作業の手間と時間を短縮できる。
同社の選挙システム機材の業績は金融汎用事業と合わせて開示されており、両者を合わせたセグメント売上高は62億円(構成比17%)、セグメント営業利益は9億円(同84%)となっています。なお、単体ベースでは選挙システム機材の売上高は開示されており、2017年3月期の実績は40億円(単体売上高の約12%)でした。
また、2018年3月期予想については、セグメント別の営業利益は開示されていないものの、全社の営業利益は自社開発品「選挙機材」の減収により減益が予想されています。
ただし、会社予想には当然ながら今回の衆議院選挙の影響は織り込まれていないと推察されるため、今後、業績予想が上方修正されるかが注目されます。
グローリーにとって選挙関連はマイナーな事業
グローリーは、硬貨・紙幣処理機で国内において高いシェアを確保していますが、自書式投票用紙分類機などの選挙関連製品も手掛けています。ただし、選挙関連事業が含まれる「その他」セグメントの売上高は全社の1%に留まるため、選挙による業績への影響は軽微なものになりそうです。
同社は2012年に貨幣処理機の販売などを手掛ける英タラリス社を買収し、グローバル展開に注力しています。また、国内では人手不足に対応するためにコンビニ専用の釣銭機を開発するなど、成熟した国内市場でも成長を目指しています。
インテージは選挙運動に関するリサーチサービスを提供
インテージは、1960年に市場調査の専門機関として創業して以来、マーケティングリサーチを主力の事業とし成長し、現在はシステムソリューション事業やヘルスケア領域の情報サービスなどにも事業領域を拡大しています。
同社の決算開示資料には選挙関連に限った情報は見られませんが、2013年にはインターネットを利用した選挙運動の解禁に伴い、選挙運動に関する新たなリサーチサービスの研究を開始したことを発表しています。
イムラ封筒は「窓封筒」特需で上方修正?
イムラ封筒は1950年創業の封筒事業のトップ企業です。少し古いデータですが、2011年度には国内市場で約67%のシェアを確保しています。
選挙になると投票用紙引換券が窓付きの封筒に入れられて選挙管理委員会から送付されますが、こうした封筒も同社が手掛けています。また、同社は封筒を製造販売するだけではなく、顧客である企業や自治体に代わり同社が封書を送付するメーリングサービス事業も行っています。
そのため、国内で高いシェアを確保している同社は、今回の選挙による特需の享受が期待できる可能性が高いと考えられます。
そもそも選挙関連資金の源は税金
このように、選挙の恩恵を受ける企業は少なくありませんが、そこで使われるお金は当然ながら私たちの税金から出るものです。
ちなみに、前回の「アベノミクス解散」による衆院選(2014年12月14日に施行)での支出額は、総務省の「平成27年度行政事業レビューシート(衆議院議員総選挙に必要な経費)」によると、総額で561億円でした。
内訳は、国から地方自治体への委託費用が525億円、各放送事業者向けに支払われる政見・経歴放送の実施などに関連する費用が8,100万円、各新聞社に支払われる選挙に関する新聞広告費などの費用が15.5億円、日本郵便に支払われる候補者無料はがきの発行に関する費用が15.8億円などとなっています。
これ以外に、各政党が政党交付金(これも税金からです)から支出する選挙費用や、警察の選挙運動取締費用なども考慮すると、総選挙が行われるとおおよそ600億円強の税金が使われることになります。
まとめ
今回の総選挙については、「大義なき解散」、「税金の無駄使い」などの批判も見受けられます。とはいえ、既に決まってしまった以上は、選挙にお金がかかるのは民主主義を維持するためのコストと割り切り、600億円強のお金が有効に使われることに期待するしかありません。
また、選挙関連銘柄は選挙期間中だけの一時的な注目銘柄であることも忘れてはいけません。当然ながら、選挙関連費用がうなぎ上りに上昇することはあり得ない(あってはいけない)ため、これらの銘柄の業績が選挙だけによって持続的に改善することはないからです。
LIMO編集部