多くのオーラルケア製品を展開しているサンスターグループが20歳~74歳の労働者約25万人の定期健康診断結果と医療機関の診療情報をもとに実施した分析によると、歯の残存数が少ない人ほど医科医療費が増加する傾向が確認できたそうです。特に60歳以上で顕著で、28本の人と19本以下の人とでは約2万円の差がありました(中央値)。

出所:日本歯科医療管理学会雑誌 第56巻第1号

【貯金を増やすために歯を守る】歯が不健康だとなぜ医療費が増える?

「歯が不健康だと体全体に悪影響が出る」という話をなんとなく聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。サンスターの分析結果はこれを裏づけており、「歯が不健康(歯の本数が減る)→疾患にかかりやすくなる→医療費が増える」という因果関係の強い根拠となります。

では、歯を守るためにはどうすればよいのでしょうか。特に注意すべきなのは「歯周病」です。8020推進財団が2018年に発表した「第2回永久歯の抜歯原因調査報告書」によると、歯を失う原因の1位は37%で歯周病が1位。実は虫歯よりもリスクが高くなっています。

出所:第2回永久歯の抜歯原因調査報告書,8020推進財団(2018)を元に筆者作成

歯周病とは、歯と歯ぐきの隙間に細菌が侵入することによる炎症(歯肉炎)、加えて歯を支える骨が溶けてしまう症状(歯周炎)のことを指します。加齢とともに症状のある人が増加する疾患ですが、自覚症状が少ないという特徴もあり、認知度のわりにはあまり警戒されていないというのが実態です。

歯周病が関係すると考えられている全身疾患は多岐に渡ります。具体的には、アルツハイマー型認知症や心血管疾患、糖尿病、肥満、早産・低体重出産などとの関連性がそれぞれ研究されており、 場合によっては命に関わる疾患につながる可能性もあります。

【貯金を増やすために歯を守る】歯周病を予防するには?

それでは、歯周病を予防するためには何をすればよいのでしょうか。今回はサンスターの研究開発統括部 の永谷美幸室長に話を聞きました。

出所:サンスター提供

永谷室長が対策として挙げたのは、「日々のオーラルケア」「禁煙」「バランスのとれた食事」「ストレスをためない」「よい睡眠」の5つです。

まず、基本となるのは「日々のオーラルケア」です。これは「歯科医院での定期ケア」と「毎日のセルフケア」に区分されます。歯周病は自覚症状が乏しいので歯科医の定期ケアはトラブルの早期発見という点で非常に重要です。永谷室長によると「歯石は歯ブラシでは除去できず細菌増殖の温床になるので、歯科医院で除去してもらう必要がある」とのこと。1年に1回以上は定期受診するのが望ましいそうです。

出所:paylessimages/istockphoto.com

毎日のセルフケアは毎食後や寝る前の歯ブラシだけでは不十分です。推奨されているのは、デンタルフロスや歯間ブラシを組み合わせた方法。プラーク除去率が高まり、歯周病のリスクを減らしてくれます。永谷室長が「特に重要」と念を押すのが「寝る前のケア」。寝ている間は口を清潔に保つ機能をもつ唾液の分泌が少なくなります。そのため、念入りに細菌の増殖を抑える必要があるとのことです。

「禁煙」は喫煙が歯周病の最大のリスク因子になっていることから、特に有効な対策といえます。永谷室長によると「喫煙者は非喫煙者に比べて、2~8倍歯周病にかかりやすい」そうです。また、過度な飲酒や肥満、糖尿病なども同じく歯周病の原因になるため、「バランスのとれた食事」も重要です。

「ストレスをためない」は免疫力が低下することに加えて、ストレスによって生じる歯ぎしりが歯周病を悪化させる要因となるためです。「よい睡眠」をとることはストレスの低下にもつながるので、こちらも意識して実践するとよさそうです。

また、女性には特有の歯周病リスクがあります。これは女性ホルモンが関係し、ホルモンバランスの変化で口の中の環境が乱れ、歯周病になりやすくなります。これは妊娠中に加えて、更年期を迎えた際に起こりやすい症状とのことです。

歯周病の認知度は高まっていますが、永谷室長いわく「自分ごととして捉えている方は若い方ほど少ない」とのこと。歯周病は基本的には治らないものなので、若いうちから対策を講じることが重要といえます。今の健康はもちろん、歳を重ねたときの医療費にまで思いを巡らせれば「しっかりケアしなければ」という気持ちは一層高まるかもしれませんね。

参考資料

サンスターリリース「「歯の本数が多く、かみ合わせが良いほど医療費が低い」サンスター、25万人の歯と医療費を分析した論文を日本歯科医療管理学会雑誌で発表」

大蔵 大輔