戦後最少の465議席をめぐる総選挙がスタート

いよいよ総選挙ですね。

今回は小選挙区289、比例代表176となり、戦後最も少ない議席数をめぐっての戦いになります。本年7月16日に施行した改正公職選挙法に基づき、小選挙区は青森、岩手、三重、奈良、熊本、鹿児島の各県で1議席ずつ、比例区は東北、北関東、近畿、九州の各ブロックで1議席ずつ減少した結果です。

平成32年の人口見込みに基づいた試算によると、最大の有権者数を有する東京22区と、最小の鳥取1区の格差は、改正前の2.176倍から1.999倍に。最高裁が「合理的」と判断する2倍未満の格差が実現したことになります。

選挙のたびに飛び交う「〇増×減」。今回は、「0増6減」をめざしての変更でした。選挙区割りも変わり、今回は26カ所で新たな選挙区に分割され、10カ所で分割の境界が変更されます。逆に分割されていた9カ所が、行政区通りの区割りに戻されました。

これらの変更は、一票の格差を是正するためのものです。

「選挙制度ってコロコロ変わるから、わけわかんない」とぼやく方のために、今さら聞けないことも含めて、一票の格差問題についておさらいしてみました。

昭和39年以来、判例3倍、学説2倍まで合憲の時代が続く

一票の格差訴訟の法的根拠は、憲法14条1項にあります。選挙区によって当選に必要な得票数に差があることは、法の下の平等に反するということで、昭和37年、越山康弁護士が提訴したのが始まりでした。

越山弁護士は、羽織はかま、口ひげの弁護士として知られ、一票の格差問題に取り組むために弁護士になったと言われています。

最初の提訴は昭和39年、4.9倍で合憲(参院選)との判断に終わります。以来、参院選は6.59倍・違憲(平成8年)、衆院選は4.40倍・違憲(昭和60年)、3.18倍・違憲状態(平成5年)の判断が出ています。

このことから判例は、衆院選3倍、参院選5倍とされ、2倍とする学説との対比で語られる時代が続きました。

新たな弁護士グループの参入により、20年ぶりに判例変更

大きく動いたのは、平成23年です。2.302倍が違憲状態と判断され、約20年ぶりに判例が変更されたのです。背景には、升永英俊氏らビジネス分野の弁護士が新たに取り組みをスタートしたことがあります。

一票の格差ではなく、一票の不平等だと表現を変え、一票に満たない参政権しかもたない国民が多数いるなど統治論に基づいた主張を繰り広げました。また国民審査で、合憲だとする裁判官にNOを記す運動なども展開します。

升永弁護士は当初、最前線を退いたあと一人でコツコツと一票の不平等問題に取り組むつもりだったようです。その思いを知った久保利英明弁護士が「すぐやろう」と背中を押し、本腰を入れた取り組みがスタートしました。

久保利弁護士は「あの優柔不断な商法でさえ、株主の投票権は株数に基づき平等なのに、国政への投票権だけ不平等だ」とジョークをまじえて、選挙制度の不合理を説明します。

さらに伊藤真弁護士の参加で機動力を持った活動となり、現在に至っています。

一方の越山弁護士は平成21年に他界したあと、越山氏の志を受け継いだ山口邦明弁護士が中心になって活動を続けています。

地方切り捨てにつながるという根強い不安

裁判所を動かし、政治を動かした一票の格差・不平等問題ですが、経済界にも大きな反対はなく、むしろ賛意を表す声も多数挙がっています。ところが、一般の国民に目に向けると今一つ関心が薄いのが実情です。

大きな反対運動はないようですが、個々には躊躇する声が少なからず聞こえてきます。最も多いのは、地方の切り捨てにつながるのではないかという声です。地方からだけでなく、利益を享受できるはずの都市部の人たちからも聞こえてきます。

これに対して、伊藤弁護士は「国会議員は、地方の代表ではなく、国全体の代表だから、地方選出の議員が少なくても地方切り捨てにはならない」と答えます。

国会議員が国のために働くことに反対する人はいません。しかし、現実に目を向けると、現状、国会議員は地元の利益を代弁する存在であり、地元を最優先している観が否めません。国会議員が国のために働くという意識が醸成されないうちは、地方切り捨てにつながるという不安は払しょくしきれないようです。

ところで、この活動に参加する法曹人の間でちょっとした話題になったのが、裁判所への提出文書(『上告理由書』 平成28年11月21日)です。裁判経験のある人なら、その異色さに少なからず驚くのではないでしょうか。

発光ダイオード訴訟をはじめとした数々の実績で知られる升永弁護士の手になるものだけに、一読の価値アリです。

間宮 書子