「私がいちばん言いたいのは、『40代のみなさんがすべきは、全力でがんばるのではなく、むしろ力を抜いてみる』ということ。疲れ切った自分をこれ以上いじめる必要はない。精神論でただがむしゃらにがんばる必要はない。『幸せな人生』というゴールに最小限の努力でたどり着くために、ムダなものを省く=不要なものを『略す』という考え方を身につけてほしいということなのです」。
著者自身、39歳で課長になった直後に妻が大病を患い、看病と家事、さらに自閉症の長男を筆頭に3人の子育てをしながら経営者にまでのぼりつめた。だからこそ言葉に説得力が感じられる。
毎日18時に退社するために、現場で働き方改革を推進。自身も部下も定時に帰れるように試行錯誤を続け、多くの成果をあげた。ムダな長時間労働や会議を減らし、業務の効率化を徹底して図った。単なる手抜きではない著者独自の「略す」知恵、効率的な仕事術が本書ではいろいろ紹介される。
「『残業は当たり前』という意識を略せ」「ゴールを決めて拙速で行け」「自己流にこだわるな」「自分で考えるより部下に学べ」「長い会議は異常である」「生産性の低い飲み会は略せ」「新聞は読むな、眺めよ」などなど。
どれもなるほどとうなずく。ムダな会議や残業などやめてとっとと帰りたい。しかし、誰もがそう思っていても、なかなかやめられないのが現実だ。
組織人である以上、自分ひとりだけの努力では「略す」のは難しい。仕事の多くはチームワーク。上司や部下の理解を得なければものごとはうまく進まない。だから職場での良好な人間関係が重要になる。著者はそのためのテクニックもいろいろと伝授する。
仕事、家族、人生を見直す
興味深いのは、家族との関係について丸まる1章を割いていることだ。第4章の「仕事を略して家族との時間を増やせ」では、40代になったら家族との付き合いを見直すように力説する。
ワークライフバランス(仕事と家庭の両立)が叫ばれているが、日本はまだまだ仕事優先の考え方が強い。だが、著者は自身の経験に基づき、家族とのきずなや信頼関係があったからこそ仕事に全精力を傾けられたという。
仕事で略した時間を家族に還元し、家族の幸せが仕事へのエネルギーにつながる。そんな好循環が生まれれば理想的だが、そこまでいかなくても、不運にも自分が病気やリストラにあった時に、家族の助けや支えがあれば心強い。
もしこれからも仕事最優先で家庭を顧みないままならば、「50代、60代になって仕事の第一線から外れ、やりがいを見失った挙句、家族にも相手にされないという惨めな状態に陥ってしまう」と著者は警鐘を鳴らす。
いまの行いが、10年後、20年後に結果として現れる。最悪の場合、熟年離婚ということにも・・・。その時になって慌てふためいても遅い。仕事、家族、そして人生を見直す好機を逃さないようにしたい。
佐々木常夫 著(文響社)
1420円(税抜き)
田之上 信