資産運用関係者が黙して言わない、「S&P500持ってりゃ十分」というフレーズがあります。これは、株式投資をするなら米国のS&P500指数で運用するだけで十分ペイするので、日本株やその他の外国株投資はする必要ないという意味です。

本当にそんなシンプルな運用で十分なリターンが得られるのでしょうか。噂を検証してみました。

S&P500指数は過去30年間で15倍

ブルームバーグのデータを使って、過去30年間の騰落率を調べてみました。図1をご覧いただければ一目瞭然なのですが、確かにS&P500指数は他の主要株価指数と比較して高いリターンを上げています。

この間、S&P500指数は約15倍、DAX指数、FTSE指数は約8倍になりましたが、残念ながら日経平均株価は30年前とほとんど変わっていません。これを年間平均騰落率で表すと、S&P500指数は+9.4%、DAX指数、FTSE指数はそれぞれ+7%程度、日経平均株価はわずか+0.2%となります。

残念ながら、少なくともこの30年間では米国株が大勝し、日本株だけが一人負けということになります。この間、ITバブル崩壊やリーマンショックといった世界的な株価大暴落の原因となった経済イベントがあったにも関わらず、欧米株は着実に上昇しました。

なぜ日本株がダメになったかはここでは言及しませんが、少なくとも欧米においては長期的に株式投資に取り組むことには合理性があったのです。

図1:各主要株価指数推移(現地通貨ベース)

(注)米S&P500指数、日経平均株価、英国FTSE100指数、独DAX指数。現地通貨建て。1987年7月末を100として指数化。期間:1987年7月30日から2017年8月30日まで。ブルームバーグのデータを参照。

日本株は上がらないが、円高が進んだ過去30年

図2はドル/円とユーロ/円の為替レートの動きを示しています。こちらも一目瞭然ですが、30年前と比べ両通貨とも円高が進行しました。ドル/円はこの期間約3割の円高、ユーロ/円は約2割の円高となっています。

現地通貨建ての株価が上昇しても円高が進むと円ベースでは目減りしますので、欧米株に投資する際は円高以上のパフォーマンスが必要です。

ただし、図1で見たようにS&P500指数は15倍にもなっていますので、多少の円高程度では目減りの程度はたかが知れていると言っていいでしょう。図3はその円ベースでの株価推移をグラフ化したものです。

図2:ドル円/ユーロ円 為替レート推移

(注)期間:1987年7月30日から2017年8月30日まで。ブルームバーグのデータを参照。ユーロ導入以前はECUを使用。

 

図3:各主要株価指数推移(円ベース)

(注)米S&P500指数、日経平均株価、英国FTSE100指数、独DAX指数。円建て。1987年7月末を100として指数化。期間:1987年7月30日から2017年8月30日まで。ブルームバーグのデータを参照。

円高の影響を受けてパフォーマンスは幾分マイルドになり、為替変動の副作用で現地通貨建てと比べてリスク値(標準偏差)も上昇しています。

それでもS&P500指数は円ベースで11倍、DAX指数は7倍、FTSE100指数は5倍弱となっていますので、リスク対比の運用効率に目をつぶれば十分すぎるリターンです。

では、これからどうするか

長期的には欧米株は上昇基調で、中でもS&P500指数は図抜けていますので、結論的には「S&P500で十分」と言えなくもありません。しかし注意すべきは、本当に30年間も資金を寝かせられるのかということです。

上の図から明らかなように、S&P500指数でさえITバブル崩壊時にはピークから4割弱下落し、リーマンショック後には5割程度下がっています。

また、底値から元の株価に戻るまでの期間は5~6年ですので、胆力のない投資家はすぐに投げ売りしてしまうでしょう。必ず上がると信じていても、投資した資金が半減評価されると投げ出したくなるのは人間の性なのです。

ここから導ける結論は、(1)流動性に優れ長期的パフォーマンスが良好な投資対象に運用する(たとえばS&P500指数やNYダウ指数)、(2)30年くらい寝かせられる資金を投資する、(3)日々の値動きは無視し投資したことさえ忘れる、といったところでしょう。

指数自体には直接投資できませんので、実際の運用はS&P500指数に連動する投資信託、すなわちETF(上場投信)やインデックスファンドに運用することになります。

30年前にはETFもインデックスファンドもありませんでしたが、現在では海外・国内ETFやインデックスファンドも各金融機関で販売されています。個人投資家にとって、とても便利で投資機会に富んだ世の中になったと言えるでしょう。

太田 創(一般社団法人日本つみたて投資協会 代表理事)