2023年1月20日、厚生労働省から2023年度の年金額の改定が発表されました。

改定後の年金支給が6月に迫り、注目を集めています。

年金額はアップしましたが、受給額の増額率は受給者の年齢によって異なります。

この記事では、2023年度の年金受給額が67歳以下と68歳以上で違う理由について解説します。

年金額の改定方法も紹介しますので、将来の年金額の増減を想定して老後の家計収支を考えてみましょう。

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1. 2023年度の老齢年金受給額の増加率

出所:日本年金機構「令和5年4月分からの年金額等について」

2023年4月から支給される老齢年金受給額の増加率は、67歳以下の人(昭和31年4月2日以後生まれ)と68歳以上の人(昭和31年4月1日以前生まれ)で異なります。

  • 67歳以下の人:2.2%
  • 68歳以上の人:1.9%

例えば、老齢基礎年金の満額(※)は、2022年度の77万7800円(月額6万4816円)から次の通りアップします。

  • 67歳以下の人:79万5000円(月額6万6250円)
  • 68歳以上の人:79万2600円(月額6万6050円)

※20歳から60歳まで40年間(480か月)の年金保険料をすべて納付したときに支給される老齢基礎年金額。

2. 年金額が毎年改定される理由

老齢基礎年金と老齢厚生年金の年金額の計算方法は、次の通りです。

  • 老齢基礎年金:78万900円(平成16年度額)×「改定率」×保険料納付月数/480月
  • 老齢厚生年金(報酬比例部分):平均標準報酬額×5.481/1000×被保険者の月数

平均標準報酬額は、過去の標準報酬に「再評価率」を乗じて現在価値に置き換えて計算します。

「改定率」と「再評価率」は毎年見直しされるため、年金額も毎年改正されます。

3. 【年金】改定率と再評価率の計算方法

新規裁定者とは新規に年金を受け取り始めた67歳以下の人、既裁定者は既に年金を受け取っている68歳以上の人のことです。

改定率と再評価率は同率ですが、新規裁定者と既裁定者の改定率(再評価率)は異なります。

3.1 新規裁定者の改定率(再評価率)

新規裁定者の改定率(再評価率)は、「名目手取り賃金変動率」などに応じて次の通り計算します。

  • 改定率(再評価率)=前年度改定率×名目手取り賃金変動率×マクロ経済スライド調整率

「マクロ経済スライド」とは、賃金や物価の改定率を調整して年金の給付水準を調整する仕組みです。

「現役世代の年金加入者の減少」と「平均余命の伸び」に応じて、年金の給付水準を下げる役割を果たします。

マクロ経済スライドがなければ、新規裁定者の年金額は、原則名目手取り賃金変動率に比例して毎年改定されます。

3.2 既裁定者の改定率(再評価率)

既規裁定者の改定率(再評価率)は、「物価変動率」などに応じて次の通り計算します。

  • 改定率(再評価率)=前年度改定率×物価変動率×マクロ経済スライド調整率

マクロ経済スライドがなければ、既裁定者の年金額は、原則物価変動率に比例して毎年改定されます。

4. 2023年度の年金額改定

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2023年度の年金額は、次の指標に基づいて新規裁定者は2.2%、既裁定者は1.9%アップしました。

  • 物価変動率:2.5%
  • 名目手取り賃金変動率:2.8%
  • マクロ経済スライドによるスライド調整率:▲0.3%
  • 前年度までのマクロ経済スライドの未調整分:▲0.3%

マクロ経済スライド(過去の未調整分を含む)によって、年金額の増加率は0.6%抑えられました。

つまり、年金額はアップしたけれど、年金の給付水準が0.6%引き下げられたということです。

また、新規裁定者の方が既裁定者より年金額の増加率が0.3%高かったのは、名目手取り賃金変動率が物価変動率より0.3%高かったからです。

5. 2022年度以前の年金額

2022年度以前の年金額改定をみると、新規裁定者と既裁定者の年金額の増減率は同じでした。

例えば、2022年度までの老齢基礎年金の満額は新規裁定者も既裁定者も同額で、77万7800円。

新規裁定者と既裁定者の年金額の増減率が同じだった理由は、物価変動率と名目手取り賃金変動率が同率だったからではありません。

「名目手取り賃金変動率が物価変動率を下回った場合、既裁定者の改定率(再評価率)は名目手取り賃金変動率を基に計算」すると決められているからです。

既裁定者は、物価変動率よりも低い名目手取り賃金変動率を基に改定率が計算されるため、実質的には年金額が低くなります。

長年にわたり賃金が上がらない経済状況が続いたため、既裁定者の年金額も抑えられました。

新規裁定者と既裁定者の改定率のイメージ

出所:厚生労働省「令和5年度の年金額改定についてお知らせします」

 

6. 年金額の改定に今後も注目

2023年度の年金額は、67歳以下の人(新規裁定者)と68歳以上の人(既裁定者)で異なります。

新規裁定者の改定率(再評価率)は「名目手取り賃金変動率」を基に計算するのに対し、既裁定者は「物価変動率」が計算基礎となるからです。

ただし、名目手取り賃金変動率が物価変動率を下回った場合、既裁定者の改定率(再評価率)は名目手取り賃金変動率を基に計算され、年金の給付水準が抑えられます。

年金額改定の仕組みを理解し、将来の年金額の予想に役立ててください。

参考資料

西岡 秀泰