かつて世界の海を支配した英国
8月30日から9月1日までの3日間、英国のメイ首相が来日していました。タラップを降り立った時に来ていた赤と白のスーツは、おそらく日の丸を意識したものでしょう。心遣いがしのばれて、好印象を掻き立ててくれました。
2日目の共同会見には、ダークブルーのスーツでの登場でした。胸元にのぞく、銀色のネックレスとの取り合わせがあまりにさりげなくて、しばし魅入られてしまいました。
ブルーといえば、海。七つの海を制覇した大英帝国を思い起こさせます。
古来、海洋国であった英国は1588年、スペインの無敵艦隊を破ったアルマダの海戦を機に、海の覇権を手中に収めます。東インド会社でアジアの海を支配し、ネルソン提督はナポレオンの侵攻をうち払い、世界の海に君臨した大英帝国です。
その強大な海軍力も今はなく、近年は経済力の衰退を告げるニュースに接することが多くなっています。それでも世界の海では、現在もなお、ある面で英国が支配的な地位を維持していることをご存じでしょうか。
海をまたぐ海運業は、複数の国で形成されている
日本もかつては海運国に位置づけられ、領海と排他的経済水域を含めた面積では世界のトップ10に入るそうです。しかし近年は、海運についてワクワク感のあるニュースは影をひそめています。もっとも、世界的に見ても海運業自体が衰退傾向にあるようなのでしかたないのかもしれません。
英国も例外ではないのですが、海運業内では重要な位置にあることに変わりありません。なぜなら、海運業を運営するための法律は英国法に準拠したものだからです。つまり、世界の海運業の大部分は、英国法で動いているのです。
海は1つの国を越えて存在していますから、海についてのビジネスもまた1国を越えて形成されることがほとんどです。したがって法律もまた、1国の法律には治まりきれません。
例を挙げると、傭船契約です。海運業は、船舶の所有者である船主企業が、運航会社に貸し出す形で運営されるのが通例になっています。
よくリベリア船籍や、パナマ船籍の船という言葉が出てくるのは、税金などのコストが低い国を選んで船舶の籍を置いているためのようです。日本企業が運航する船舶の多くも、こうした形が採用されていることが多いようです。もちろん米国や英国、その他の運航企業も同様です。
そこには傭船契約を締結するための法律が必要です。ほかにも、船舶を築造する資金や、運航上の船舶破損・海賊による積荷の強奪などの事故や事件もあります。船主企業がユーレイだったなどの問題も報道されていますし、いたましい海難事故も忘れることができません。
法律を必要とする場面はかぎりなく発生しています。
世界の海運業者は、金融をめざしてロンドンへ
海に関係するさまざまな問題を解決する国際法のような役目をしているのは、英国法です。英国法の考えに基づいて、英語を使って解決されていきます。
やや極論ですが、日本の海運企業同士の問題であっても、英国法に基づいて、英語で解決されるケースが多いといっても過言ではない世界のようです。実際、日本をはじめ世界中の国の海運企業は、英国・ロンドンに支店を置いています。
世界中の海運業者がロンドンをめざした理由は、金融があったからと言われています。多額の資金を要する海運業への資金調達、事故を手当する保険が英国では早くから整えられていたことが大きいようです。あのロイズ保険組合のルーツが海事保険であったことは、よく知られているところです。
ロマンのあるビジネスを求めて、海に漕ぎ出す
海運ビジネスのサポートには、もちろん日本人弁護士も活躍しています。ただし、一部に若手の台頭が報告されてはいるものの、大半は大家に位置づけられ、高齢化傾向にあります。しかも、少数です。海運業へ向ける視線を象徴しているようで、いささか寂しさを禁じ得ません。
生命は、海から生まれたと言われています。そのせいか、海にロマンを感じる人は少なくありません。まして海洋国家の国民であれば、なおさらです。
現在、我が国のビジネス界ではさまざまな方面から閉塞感が伝えられています。この機会に、ロマンのあるビジネスを求めて、海に漕ぎ出してみるのも閉塞感を打開する一手かもしれません。そういえば大航海時代は、陸路にあった危険を回避しようとして海路を求めたのがきっかけだと習った記憶があります。
参考:海事Q&A・FJK法律事務所、海上運送(ドライシッピング)・TMI総合法律事務所など
間宮 書子