2023年の年金額は、物価上昇を受けて3年ぶりの増額改定となりました。年金額が増えるのは喜ばしいことですが、ここでの金額は支給される額面であって手取りではない点に注意が必要です。
つまり、年金生活者だとしても、所得税や社会保険料の負担が必要なわけです。
今回は2023年の公的年金の年金額と、年金から天引きされる税金や社会保険料について解説します。
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1. 2023年度の「厚生年金と国民年金」の年金月額例
最初に2023年度の年金額について確認しておきましょう。
1.1 2023年の国民年金(満額)
2023年の国民年金(老齢基礎年金)の月額(満額)は以下のとおりです。
- 67歳以下:6万6250円
- 68歳以上:6万6050円
国民年金は20歳から60歳までに40年間(480月)の保険料をすべて納付すると、上記の満額を受け取れます。
受取額は保険料納付月数によって決まり、480月に満たない人は満額に「保険料納付月数÷480月」を乗じた金額を受け取れます。
たとえば、67歳以下で保険料納付月数が456月であれば、受け取る年金額は6万2937円(6万6250円×456月÷480月)です。
なお、国民年金は10年以上の受給資格期間を満たしていることも受給要件となります。
1.2 2023年の厚生年金
2023年の厚生年金は22万4482円で、この金額は老齢厚生年金と2人分の老齢基礎年金(満額)、つまり妻が専業主婦の夫婦世帯のモデル年金額です。
厚生年金は、収入に応じて保険料と受給額が決まる仕組みです。ここでは賞与を含む月額換算で平均月収が43万9000円で、40年就業した人の給付水準となっています。
2. 年金から天引きされる税金と社会保険料4つ
公的年金は額面どおりの金額を受け取れるわけではなく、税金や社会保険料が天引きされます。ここでは、年金から差し引かれる税金と社会保険料について解説します。
2.1 年金から天引きされるもの1.所得税
年金は税法上の雑所得となり、所得税(2037年までは復興特別所得税も)がかかります。
給与には給与所得控除がありますが、年金には公的年金等控除があります。公的年金等控除は65歳未満の受給者は60万円、65歳以上で110万円です。
基礎控除は48万円なので、65歳以上で公的年金等の受給額が158万円以下なら、所得税はかかりません(合計所得金額2400万円以下)。
公的年金等控除の他に基礎控除、社会保険料控除、人によっては配偶者控除なども差し引けます。
2.2 年金から天引きされるもの2.住民税
65歳以上で老齢もしくは退職を支給事由とする年金があり、年間の受給額が18万円以上の人は住民税が天引きされます(国民健康保険料・後期高齢者医療保険料も同様)。
住民税の公的年金等控除も65歳未満の受給者は60万円、65歳以上で110万円です。基礎控除は43万円なので、65歳以上で公的年金等の受給額が153万円以下なら、住民税はかかりません(公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が1000万円以下)。
各種控除がある人は、年金額が153万円を超えても住民税がかからない場合があります。
2.3 年金から天引きされるもの3.国民健康保険料または後期高齢者医療保険料
社会保険料のうち健康保険料は、75歳未満は国民健康保険料、75歳以降は後期高齢者医療保険料が差し引かれます。
国民健康保険料
国民健康保険は市区町村が運営しており、保険料の算定方法や徴収期限・方法などについて、各市区町村の条例などで定められています。
国民健康保険料は世帯の被保険者ごとに計算した金額を世帯単位で合計し、支払うのは世帯主です。多くの市区町村ではWebサイトに保険料の計算ツールが提供されています。
千葉県松戸市の65歳以上で年金収入180万円の人の場合、年間保険料は7万1840円です。
後期高齢者医療保険料
都道府県単位の後期高齢者医療広域連合が運営しており、保険料の額は都道府県ごとに定められます。2022年・2023年の平均保険料額は7万7663円(月額 6472円)です。
2.4 年金から天引きされるもの4.介護保険料
65歳以上の人は介護保険の第1号被保険者となります。第1号被保険者の保険料は市区町村ごとに条例で決められた基準額をもとに、本人や世帯の所得などにより段階的に設定されています。標準の段階設定は9段階です。
千葉県松戸市の所得段階は18段階で、2022年の年間保険料は1万8840円から18万4800万円の範囲で設定されています。
3. 【年金生活者】税金・社会保険料の実態は年額いくら?
最新のデータから平均的な年金生活者の税金と社会保険料の金額を見ておきましょう。
総務省「家計調査年報(家計収支編)2021年によると、65歳以上の無職世帯の収入と税金・社会保険料は以下のとおりでした。
高齢者無職世帯の実収入に占める税金と社会保険料の占める割合は夫婦世帯、単身者世帯とも10%前後であることがわかりました。また、税金と社会保険料では、やや社会保険料の負担のほうが大きいようです。
ねんきん定期便で年金の見込額を確認したら、基本的に手取りは見込額の約90%前後であると想定できるでしょう。
4. 年金から引かれる税金・社会保険料の負担は大きい
ねんきん定期便に記載されている老齢年金の見込額は額面であるため、実際に受け取る手取りは額面の90%前後と考えられます。
また、社会保険料の負担は少子化の進行で、今後増加していくと予想できます。つまり、将来の手取りはより少なくなると想定しておいたほうがよいでしょう。
将来の長生きリスクに対応するには、健康で収入があるうちに年金の見込額や退職金額などから老後資金の不足分を見積もっておきましょう。
参考資料
- 日本年金機構「令和5年4月分からの年金額等について」
- 国税庁「公的年金等の課税関係」
- 日本年金機構「年金Q&A」
- 千葉県松戸市「令和5年度 国民健康保険料早見表【年金収入のみの場合】」
- 大阪府後期高齢者医療広域連合「後期高齢者医療制度の概要」
- 厚生労働省「後期高齢者医療制度の令和4・5年度の保険料率について」
- 金融広報中央委員会「介護保険制度のしくみ」
- 千葉県松戸市「介護保険料額について」
- 総務省統計局「家計調査年報(家計収支編)2021年総世帯及び単身世帯の家計収支」
松田 聡子