ある日、突然、夫から「離婚したい」と切り出されたA子さん

40歳代後半に差し掛かったある日、A子さんは20年以上連れ添った50歳代半ばの夫から突然、離婚を切り出されました。

「えっ!」 その申し出はあまりに唐突で、A子さんは思わず絶句。大ゲンカをしたわけでもなく、深刻な行き違いがあったわけでもありません。何が原因かもわからないまま、ただただびっくりしているA子さんを尻目に夫は「僕たち、もう夫婦としては無理だし」と勝手に決めつけ、「いつ出て行ってくれる?」と催促がましく迫ります。

共働きながら、子供は欲しいと不妊治療にも通い、それなりに努力してきたつもりのA子さん。忙しくても、家事のほとんどは引き受けてきたし、夫の同僚や仲間が家に来るといえば、手料理の準備もし、休日もアウトドア派の夫の過ごしたいように協力してきたつもりなのに、一体なぜ?

いまさら感はありましたが、改めて、夫の郵便物やSNS、スマホ等の写真をチェックしてみると・・・。ようやく事態が呑み込めてきました。

なんと夫は仕事で知り合ったA子さんより20歳ほども若い女性とすっかりいい仲になっており、同僚と釣りに行くといっては週末に姿を消していた理由も、その彼女と一緒に海に出ていたからでした。女性とクルージングを楽しむ夫。魚をさばいて食べる笑顔の二人。そんな写真の数々を目にして、温厚なA子さんもさすがに体がわなわなとふるえました。

A子さん側の親族は、体裁を気にするほうでした。それはA子さんも同じで、夫婦の間であまりごたごたしたくない、というのが基本的な考え方。だから、「離婚してくれ」と言われても、裁判までして争うのはどうかな、という気持ちがありました。

しかし、出ていくとなると「どこに住む?」「費用はどうする?」とまとまったお金が必要になります。そのお金は誰が工面するのでしょうか?

当然というべきか、夫は不倫を絶対に認めません。だから慰謝料など一銭も払う気がないようです。とはいえ、「はい、わかりました」と家を出るのは納得できかねます。今の住居マンションは夫名義ですが、妻のサポートによってローンも支払えたわけで、家財もしかるべき分与があるはずです。そのことを指摘すると「よくそういう欲深いことがいえるよな」「君も働いて収入があるじゃないか」と話し合いになりません。

ちなみにA子さんはまさか、こんなことになるとは夢にも思わず、これまで、いろいろなおけいこ事に自分の収入をつぎ込んでいました。したがって、預金口座には旅行に行くくらいの金額しかありません。さて、どうしたものでしょう?

まとまったお金ができるまで離婚は引き延ばしたほうがいい!

結論から言うと、まとまったお金がたまるまで、家を出るのは避けたほうがいいです。自宅マンションに住んでいる限り、家賃はかかりません。暴力を振るわれたりしない限りは、今まで通り、住み続けることを考えてみましょう。貯蓄もなく、相手からの財産分与や慰謝料もないまま、家を出てしまうと先々、生活が困窮するのは目に見えています。

自宅にいる間、できる限り貯蓄して、とにかくまとまったお金を作りましょう。目安としてまずは300万円が目標です。

300万円あれば、100万円は一人暮らしを始める時の住居資金、もう100万円は病気やリストラにあった時に備える貯蓄、もう100万円は積み立て投資や高配当株狙いなどの資産運用や英語能力を磨く、あるいは収入アップにつながりそうな資格試験準備に使うことができます。この「投資」部分の100万円をしっかり実りあるものにして、50歳以降の生活設計につなげます。

それと夫に不倫の疑いが濃厚なら、できる限り証拠を集めましょう。それを持って弁護士に相談に行き、その女性に慰謝料請求をすることを検討しましょう。

また、20年も同居し、家計を折半していた場合、自宅マンションのローンを夫が支払っていたとしても、A子さんにも財産分与の権利を請求できる可能性があります。

弁護士に相談する資料として二人の通帳のコピーや生活費の内訳、家計の状態などが分かるメモ、レシート、領収書などを準備しましょう。すぐ別居してしまってはこうした資料集めは困難です。妻という立場でならできる資料集めをフル活用します。

夫が出ていけとせっついた場合は、「急に言われても・・・」「いろいろ準備もあるから」とのらりくらり交わし続けることです。

関係修復は難しいかもしれませんが、夫の一方的な離婚宣言は家裁の調停で離婚だけでなく、円満調停の対象にもなるので、時間稼ぎや今後の身の振り方を今一度考える一助にしましょう。

貯蓄ゼロ体質からの脱却

それにしてもA子さん、四捨五入すると50歳という年齢で貯蓄ゼロは考え物ですね。「親もローンなしの持ち家に住んでいるし、まだまだ元気。今まで離婚なんて考えたこともなかったので、お金のことは何とかなると思っていた」と自分自身の貯蓄ゼロ体質がどうして醸成されたかを省みます。

そして、「結婚前はまだしも、結婚後にまで自分名義の厚みある貯蓄が必要だとは思っていなかった。これからしっかりと備えたい」というのが目下のA子さんの心境です。

そうです。数年後には50歳代になり、オリンピック景気もいつかはしぼみ、あっという間に60歳台になって、子供も孫もいない老後生活が待ち受けると想像すれば、身も引き締まるというものです。

後日、判明したことですが、なんと夫は生命保険の受取人等の名義もすでにA子さんから親に変更していて、「これは自分のもの」と金目の家財の仕分けも済ませていたそうです。夫は1~2年かけて着々と離婚準備に励んでいたのですね。そして、いよいよ若い女性と再婚するばかりという段階で、離婚を言い出したわけで、そうした動きにまったく気が付かなかったA子さんはうかつというほかありません。

しかし、既婚者であれば、A子さんの例は他人ごとではありません。いつ自分の身に降りかかってもいいように、自分名義の300万円を作ることを考えましょう。

ちなみに、貯蓄はおろか投資の勉強もしてこなかったA子さんは目下、関連知識を磨こうと勉強を始めています。いざという時、必要になるお金について将来設計とともに知識の蓄積と実践あるのみですね!

木村 佳子