量子コンピュータが株式市場でも話題に

2017年8月17日、日本経済新聞が「量子コンピュータ」の開発を加速するために文部科学省が予算を計上すると報じました。その翌日、18日の東京株式市場では、中堅電子計測機器メーカー・エヌエフ回路設計ブロック(6864)の株価がストップ高で引けています。

日経の紙面では、量子コンピュータの関連企業としてNTT(9432)、NEC(6701)、三菱電機(6503)なども挙げられていました。しかし、これらの企業は市場全体の地合いの悪さからこのニュースには反応せず、小型株のエヌエフ回路設計ブロックの株価だけが2日間で+51%上昇と大きく動きました。

そもそも量子コンピュータとは

ところで、このあまり耳慣れない量子コンピュータとはどのようなものでしょうか。また、その開発によりどのような変化が期待できるのでしょうか。

量子コンピュータは、簡単に言えば「量子現象」によりコンピュータが計算を行うものであり、現在の一般的なコンピュータとは動作原理が根本的に異なります。

一般的なコンピュータ(ノイマン型)が「0」か「1」かというデジタル信号で計算を行うのに対して、量子コンピュータは「0であり、1でもある」とする「重ね合わせの状態」と呼ばれる量子現象を利用することで、並列的に多数の計算を行います。

このため、専門家などによると、通常のノイマン型コンピュータの1億倍という天文学的な処理能力を持つことが可能とされています。

理論的には、スーパーコンピュータを大きく凌ぐ処理能力を備えることが可能となるため、膨大なデータ処理が必要となる大都市における渋滞解消、創薬や新素材の開発における活用が期待されています。

また、短時間で膨大なデータ処理が可能なため、省エネに貢献することも近年注目されている一因です。大型のデータセンターでは莫大な電力が消費されており、クラウド事業を世界的に展開しているグーグルやアマゾンは、自前の発電設備すら必要となっています。

今後、自動運転や様々なIoT技術を活用したサービスが世界的に普及していくことが予想されるなかで、いかに電力消費量を抑制するかが課題となっています。量子コンピュータはこうした点でも貢献が期待されています。

先行する海外メーカー

日本の大学やメーカーでは、20年以上前から量子コンピュータの開発が進められていますが、最初に商用化に成功したのはカナダのベンチャー企業であるD-Wave Systems社です。同社は2011年から販売を開始しており、すでにグーグル、米航空宇宙局(NASA)、ロッキードマーチンなどで採用されています。

また、IBMも昨年から量子コンピュータを操作できるクラウドサービス「IBM Quantum Experience」を無償提供しており、実績を積んでいます。

今回の文部科学省の予算計上のニュースも、こうした海外の動きに触発された可能性が考えられます。

ちなみに日本では、富士通(6702)が、D-Wave Systems社の製品に対応したソフトを開発するカナダ企業と協業し、量子コンピュータを活用したクラウドサービスを今年中に始めるとしています。

また、日立製作所(6501)も、同社のIoTプラットフォームである「Lumada(ルマーダ)」に、将来は量子コンピュータの機能を組み込む考えを示しています。

今後の注目点

量子コンピュータが今後もたらす変化は、IT業界全体に大きな地殻変動を起こすポテンシャルを秘めています。また、この変化は自動車エンジンの発明やインターネットの普及と同じようなパラダイムシフトのきっかけとなる可能性があると言う専門家もいます。

今回の報道ではエヌエフ回路設計ブロックの株価に動きが出ました。しかし、量子コンピュータの開発はこうした小型株1社だけが恩恵を受ける小さなものではありません。今後も近視眼的ではなく、長期的な視点で儲かる企業を探していきたいものです。

LIMO編集部