AI(人工知能)をエレベーターに活用
2017年8月14日付けの日本経済新聞は、三菱電機の100%子会社である三菱電機ビルテクノサービスが、AIを活用したエレベーターの運行管理サービスを2018年中に開始すると報じています。
既に国内エレベーター各社は稼動中のエレベーターと管理センターを回線で結び、運行状態を監視して異常を検知したりする「遠隔監視サービス」を展開していますが、今回の取り組みはAIを用いることでこのサービスをさらに高度化するものです。
具体的には、保守のためのエレベーターの稼働停止時間を減らしたり、エレベーターの待ち時間を減らしたりすることで顧客満足度を高め、他社との差別化につなげることを狙っています。
エレベーター業界というと地味な印象がありますが、実はAIやIoTのような話題性のある先端技術を活用するなど奥深い業界です。そこで、今回はエレベーター業界について知っておきたい4つのポイントをまとめました。
エレベーターの新設市場はグローバルで約100万台
まずは市場規模ですが、新設の世界市場は約100万台です。このうち中国が約64%と最も大きく、次いで欧州が約12%、アメリカ、アジア、インドがそれぞれ約6%となっています。日本市場は年間約2万台の市場ですので全体の約2%に留まり、このことからエレベーターの新設は海外が圧倒的に多いことがわかります。
一方、今後の見通しですが、2020年の年間市場規模は、2015年対比で約+15%程度の拡大が見込まれています。最も成長が期待できるのは高い経済成長率が見込まれ、エレベーター普及率が低いインド市場です。
また、最大市場の中国も、これまでに比べると伸び率は鈍化しますが、それでも人口1,000人あたりの普及台数が2台と、欧米の10台、日本の8台に比べるとまだ少ないため、約2割程度の拡大の可能性は残っているようです。
主要メーカーは世界で8社
次に主要企業ですが、海外メーカーが4社、日本メーカーが4社となっており、業界のトップは米国のユナイテッドテクノロジー傘下のオーティス・エレベーターです。これにスイスのシンドラー、ドイツのティッセンクルップ、フィンランドのコネが続いています。
一方、日本では、日立製作所(6501)、三菱電機(6503)、東芝(6502)、フジテック(6406)の4社が主要企業となっています。
なお、最大市場の中国では、日本の日立、三菱電機も2位グループとして存在感のあるポジションを確保しています。
保守とリニューアルで稼ぐストック型ビジネス
エレベーター事業は、新設だけではなく、設置済のエレベーターの保守・メンテナンス、さらにモダナイゼーション(古くなった装置のリニューアル)によっても収益を確保するストック型ビジネスであることが特色です。
たとえば、ジャパンエレベーターサービスホールディングス(6544)のように、保守メンテだけを行う独立系のエレベーター会社も存在感を高めていますが、今後も設置後25年超のモダナイゼーションを必要とする機器の増加が見込まれるため、メーカー系も、引き続きストック型ビジネスの“うまみ”を享受できると考えられます。
また、上述したAIの活用も、独立系の保守メンテ会社との差別化のために一段と重要性が高まると考えられます。
世界最速は現時点では日立
2017年6月に、日立が中国に納入する超高層ビル用エレベーターで分速1,260メートルの世界最高速度を達成したと発表しています。これまでのトップは2016年12月に中国に納入した三菱電機でしたが、それを分速30メートル上回ったとしています。
エレベーターのスピード競争がユーザーにとってどれだけのメリットがあるのかと疑問を持たれるかもしれませんが、各社が最速にこだわるのは、世界最速になるとメディアの注目を集め、技術力の高さについて大きな宣伝効果が期待されるためだと推測されます。
このため、今後もこの類のニュースは続くと思われますが、これはあくまでもマーケティング戦略の一環に過ぎないことや、この競争の優劣で形勢が一気に変わるものではないということは頭に入れておきたいものです。
まとめ
普段、何気なく使っているエレベーターですが、そこには先端的な技術が多く含まれており、また、その技術はストック型のビジネスモデルの強化にも活用されています。今後は、この技術が日本だけではなく海外市場でも活かされ、欧米の競合に対する差別化にもつながっていくことを期待したいと思います。
参考資料:三菱電機ビルシステム事業戦略(2015年5月)、日立IRディ・ビルシステム事業ユニット事業戦略(2017年5月)
LIMO編集部