山梨県はなぜ危機感を持ったのか
山梨県金融広報委員会は2017年6月12日、金融の知識や判断力(リテラシー)を深めてもらうためのホームページ(HP)「山梨 金融リテラシー」を開設しました。
金融広報委員会は各道府県にあり、日本銀行の地域の支店が事務局を務め、中立・公正な立場から、暮らしに身近な金融に関する幅広い広報・学習支援活動を行なっています。山梨県金融広報委員会は日銀甲府支店と県内金融機関の団体などが参加して活動を行っています。
山梨県金融広報委員会が「金融リテラシー」を打ち出したHPをあえて設立した背景には、金融広報中央委員会が実施した「金融リテラシー調査」の結果があるようです。
同調査は2016年2~3月に全国2万5000人を対象に行われました。結果は都道府県別に分析することができます。山梨県は、「金融リテラシーに関する設問の正答率」が全国最下位でした。一方で、振り込め詐欺などの「金融トラブル経験者の割合」は全国トップというものでした。
この深刻な状況を受けて、金融に関する知識を高め、金融トラブルによる被害を防いでもらうためにHPを立ち上げたそうです。HPには調査結果の解説のほか、「金融リテラシークイズ」などのコンテンツも用意されています。
金融リテラシーが低いほど、金融トラブル経験者が多くなる
金融リテラシー調査は、日本の18 歳以上の個人の金融リテラシーの現状を把握するために実施したアンケート調査です。全国18~79歳の25,000人を対象に、インターネットによるアンケート調査を実施したもので、かなり大規模です。
調査では、金融広報中央委員会が作成した「金融リテラシー・マップ」の8分野と言われる、「家計管理」、「生活設計」、「金融取引の基本」、「金融・経済の基礎」、「保険」、「ローン・クレジット」、「資産形成」、「外部の知見活用」について、正誤問題と「行動特性・考え方等」に関する問題とが組み合わされています。
前述した都道府県別の順位は、正誤問題の正答率をもとにしています。その結果を見ると、ワースト(最下位)は山梨県、以下、下位2位・沖縄県、下位3位・山形県、下位4位・青森県、下位5位(同率)鳥取県・長崎県となっています。
逆に上位から見ると、金融リテラシーが高い(正答率が高い)都道府県のトップは奈良県、2位・香川県、3位京都府、4位岡山県、5位・鹿児島県となっています。
特徴的なのは、山梨県をはじめ、正答率が低い県ほど金融トラブル経験者の割合が相対的に高くなっていることです。「知らないからだまされる」という傾向が現れています。
老後の備えまでしっかりできている人は少ない
「私は振り込め詐欺にだまされたりしない」と自信のある人もいるでしょう。ただし、金融リテラシーは金融トラブルを防ぐことだけが目的ではありません。
たとえば一般社会人であれば、「環境変化等を踏まえ、必要に応じライフプランや資金計画、保有資産の見直しを検討しつつ、自分の老後を展望したライフプランの実現に向け着実に取り組んでいる」(「金融リテラシー・マップ」より抜粋)などの生活設計も大切です。
「金融リテラシー調査」によれば、50代の人で、老後の生活費について必要額を認識していない人が約5割、資金計画を策定していない人が6割。また、公的年金の受取金額を認識していない人が6割にも達しています。多くの人が老後への備えが十分でないことに加え、そのリスクを認識していないと言えます。
金融広報中央委員会では、金融リテラシーについて「生活スキルとして最低限身に付けるべき」ものとしています。同委員会のHP「知るぽると」では、「金融リテラシー調査」の内容のほか、「金融リテラシー・マップ」「生活設計診断」などのコンテンツもあり、小学生から高齢者まで、年齢層別に、どのような金融リテラシーが必要かを示しています。
「金融のことはさっぱりわからない」という人はもちろんのこと、「金融リテラシーには自信がある」という人も、確認してみるといいでしょう。
下原 一晃