1967年8月8日は、バンコク宣言によりASEAN(東南アジア諸国連合)が発足した日です。今週、ASEANは50周年を迎えました。

日本でも、7月31日、外務省と国土交通省がASEAN地域における「質の高いインフラ投資」の推進やASEAN諸国とのさらなる関係強化に向けて、ASEAN加盟国在京大使等を対象に日本の「質の高いインフラ」を紹介する「シティツアー」を開催しました。

これを機会に、本稿ではASEANの過去と未来について考えてみたいと思います。

設立目的は共産主義に対する防波堤

ASEANは、東南アジアの友好と経済発展、政治的安定を目的として設立された東南アジア初の地域協力機構(本部:ジャカルタ)です。

原加盟国はタイ、インドネシア、シンガポール、フィリピン、マレーシアの5か国です。その後、1984年にブルネイが加盟し、加盟国が順次増加して、現在はベトナム、ミャンマー、ラオス、カンボジアを含む10か国で構成されています。

ちなみに、「東南アジア=ASEAN」というイメージがありますが、東南アジアでは東ティモールは唯一ASEANに加盟していません。

最も重要な設立目的は、政治的結束の強化と域外国との対話強化です。つまり、設立当時は米国とソ連による冷戦で世界が二分されていた時代ですので、ASEANは米国を中心とする自由主義国に属する原加盟国が旧ソ連を中心とする社会主義国家であるベトナムやラオスに対する防波堤として形成されたものなのです。

1980年代〜90年代、政治から経済へ

東西冷戦が落ち着いてきた1980年代から1990年代にかけて、ASEANは政治的な結びつきと言うよりも経済的な結びつきへと変化しました。

まず1980年代、投資・貿易の自由化、輸出指向の開放的経済政策の推進によってシンガポール、マレーシア、タイ、インドネシア等を中心に急速な経済発展を遂げ、ASEANは「世界の成長センター」と呼ばれました。高い経済成長によって世界で最も成功している地域協力機構の一つとも言われました。

1993年には、AFTA(ASEAN自由貿易地域)という自由貿易協定が結ばれ、ASEAN域内で生産されたすべての産品にかかる関税障壁を取り除くことになりました。

ASEAN域内の経済統合

2015年末、AEC(ASEAN経済共同体)が発足しました。これにより、ASEAN域内の経済統合がいっそう進展しました。以降、高い経済成長を実現して世界の「開かれた成長センター」として世界から注目されています。

当初は2020年に発足する予定でしたが、世界的にRCEP(東アジア地域包括的経済連携)といった自由貿易ネットワークが急速に拡大していることを受けて前倒しされました。

AECには4つの戦略目標があります。すなわち、(1)単一市場と単一生産拠点(Single Market and Production Base)、(2)競争力のある経済地域(Competitive Economic Region)、(3)公平な経済発展(Equitable Economic Development)、(4)グローバル経済への統合(Integration into the Global Economy)です。

関税撤廃、インフラ開発、域内格差の是正、アジアの中心として外に開かれた地域統合を目指すことが重要な鍵となっています。

ただ、以下のように、EUとは異なる点もあります。

  • ユーロのような単一通貨を持たずECB(欧州中央銀行)のような中央銀行もないこと
  • 投資やサービス貿易には制限は残り、政府調達も解放されないこと
  • 非熟練労働者の移動は自由化されていないこと

AECは緩い統合というのが一つの特徴なのかもしれません。

将来も日本人にとってASEANはチャンスの地か

2030 年までの世界経済予測によれば、2025 年前後に日本の経済規模はASEANに追い越されてしまう可能性があるそうです(参考:三菱総合研究所『内外経済の中長期展望 2016-2030年度』)。

すでにASEANの人口規模は約6.2億人(2014年)で、世界人口の9%を占めます。ASEANの経済成長は、日本人にとっても一つの大きなチャンスですし、実際に、近年ASEANは日本の外国直接投資の主要な対象地域です。

しかし、このところASEAN各国で仕事をして感じるのは、インドネシア、カンボジア、ミャンマー等、インフラ整備資金を必要とする途上国ほど、政府開発援助や民間投資が急増する中国の存在感が高まってきているということです。

そもそも共産主義に対する防波堤であったはずのASEANですが、もはやそれは昔話です。今後、日本人としてASEANとどう関わっていくのか、長期的な視点からしっかり向き合っていくべきなのかもしれません。

【参考文献】ASEAN-Japan Center発行『ASEAN 情報マップ』(2016年3月改訂)

大場 由幸