豪華寝台列車クルーズトレインの泣きどころ

1泊2日で1人35万円、3泊4日で1人70万円。贅沢な海外旅行にも行けてしまう高額な国内旅行ツアーが、今、予約が取れないほどの人気です。

この国内旅行ツアーの正体は、豪華寝台列車列車で観光するクルーズトレインの旅。JR九州の「ななつ星in九州」に続いて、2017年には「トランスイート四季島」「トワイライトエクスプレス瑞風」の2列車の運行が開始されました。

トランスイート四季島(撮影:中嶋 茂夫)

しかし、あまりの人気ゆえJR各社の販売分は抽選販売。しかも、その抽選倍率が10倍を超えていて、乗りたくても乗れない状況が続いています。

ですから、このように大人気で予約が取れないクルーズトレインが、もし、列車運行できなくなるなどのトラブルがあると、それは一大事に発展します。

なぜなら、列車自体が特別な仕様で1編成しかなく、通勤・修学列車のように他の列車や路線、車両にお客様を振り返ることができないからです。そして、せっかく大難関を突破して手に入れたプラチナチケットが、泡となってしまいます。

実際、過去には、「ななつ星in九州」が、運休や途中打ち切りをした事例があります。途中打ち切りの場合は、お客様の救出用に並走している専用バスにお客様は乗り換えて最終目的地に到着しました。

最近では、2017年7月2日に「トランスイート四季島」が車両故障により最終到着駅の上野駅に3時間遅れで到着しました。7月4日には「トワイライトエクスプレス瑞風」が大雨のため、和田山駅で列車からバスに乗り換えて、お客様は最終目的地に向かいました。さらに7月5日には、同じく「瑞風」が、大雨のため2泊3日コースを運休しました。

まさに、1編成しかない列車ゆえの泣きどころでしょう。

運休や途中打ち切りの場合の料金の対応はどうなる?

では、クルーズトレインの遅延や運休で、旅行代金の払い戻しはいったいどうなるのでしょうか?

通常の特急であれば、2時間以上遅れると、特急料金が全額払い戻しになり特急料金は実質無料になります。

しかし、クルーズトレインの運営形体は「列車」ではなく、「旅行ツアー」です。ですから、申し込み時の旅行ツアーの定款により、払い戻し料金が決定します。

通常の特急列車は、乗客を決まった時刻に普通列車よりも速く目的地まで送り届けることに価値を見出しています。特急料金という特別料金を支払うことで、普通列車よりも速達性や快適性の対価を乗客は鉄道会社から提供してもらいます。

一方、クルーズトレインは、博多発・博多行き、上野発・上野行き、京都発・新大阪行きの行き先表示を見るとわかる通り、最終目的地に速く到着することが目的ではありません。クルーズトレインは、クルーズトレインという旅行ツアーの価値をお客様に十分に提供できたかどうかが重要になります。

ですので、クルーズトレインの途中打ち切りや運休の場合の払い戻し金額は、クルーズトレインの旅行の価値を、お客様が十分に受け取ることができたかどうかが焦点になるでしょう。

クルーズトレインの払い戻しルールを見てみよう

クルーズトレインでの旅行は、運賃や特急料金、寝台料金を支払って列車に乗車するのではなく、旅行ツアーの形で、お客様は申し込みます。たとえば「ななつ星」はJR九州、「瑞風」は日本旅行、「四季島」はびゅうトラベルサービスが旅行取扱業者になります。

旅行会社各社には、「旅行条件書」という旅行社と申込者に対する契約書があり、そこには、クルーズトレインの運行が中止になったり、途中で打ち切りになった場合の条件が書かれています。

ツアーが事前に中止になった場合は、全額払い戻しという単純な条件でわかりやすいのですが、問題は運行途中で打ち切りになる場合です。

たとえば、7月2日に四季島が車両故障で車内での昼食が中止になった場合は、日帰り温泉入浴(ドリンク付き)とレストランでの天ぷら蕎麦が、代替えでお客様に用意されました。到着駅の上野駅へ急ぐお客様には、郡山駅から東北新幹線の最高クラス「グランクラス」が用意されました。

四季島の旅行主催会社であるびゅうトラベルサービスの旅行条件書には、ツアー開始後に車内での昼食が変更になった場合は、変更補償金として旅行代金の2.0%を払い戻すことが明記されています。

しかし、変更補償金を支払う条件には「運送機関のサービスの変更、中止は除く」と明記されているのです。

つまり、「列車の遅れや途中打ち切りの場合の変更補償金は支払いませんよ。」という旅行条件になっているのです。クルーズトレインは旅行会社主催のツアー旅行のため、意外にも、クルーズトレインの遅延や運休の場合の金銭的な保証はないのです。

料金の払い戻しや代替えでお客様は納得するのか?

旅行条件書には、列車の遅延や運休による旅行内容の変更保証はしないと明記されていますが、これは、お客様の気持ちとしてはかなり微妙なところでしょう。

7月2日の四季島では、車内でのランチが中止になりました。結果、車内での食事は、1日目の夕食1食のみになってしまい、四季島での旅を十分に堪能できたか?と言えば、疑問が残る旅となりました。

しかし、車内クルーの素晴らしいおもてなしが、ランチの中止というトラブルを十分に上回る感動をお客様に与えたことで、その場でのお客様からの大きなクレームは皆無でした。

ただし、プラチナチケットをやっとの思いで手に入れたお客様の「全旅程を無事に乗りたい」という思いは相当なもの。そのようなお客様の気持ちに対応するため、「ななつ星」では運休になったお客様のための予備日が設定されたり、柔軟に旅程変更をしています。

7月2日の四季島の故障では、「この日のお客様が、今後、四季島の抽選に当選するなどの配慮を上に直訴します」という、お客様へのクルーの熱い思いを聞きました。

「瑞風」は運休による予備日の設定はないのですが、「運休になったお客様には今後の抽選に配慮して欲しい。」というクルーの声を聞きました。

旅行条件書では「遅延や運休による変更補償金は出さない」クルーズトレインですが、現場でおもてなしを一所懸命にするクルーのお客様に対する温かい気持ちが、トラブルが起こってもお客様のクレームにならない列車になっていることは、間違いないでしょう。

少々の旅程変更でも気にならない、クルーをはじめとする熱いおもてなし。これこそが、クルーズトレイン最大の魅力なのです。

中嶋 茂夫