炭素繊維複合材料事業は減益観測だが

7月下旬から8月上旬にかけては、2018年3月期第1四半期決算(4-6月期)の発表ラッシュとなります。それに先立つ7月6日付の日本経済新聞で、筆者がカバーするケミカル系素材の代表的企業である東レ(3402)の業績観測記事が報じられました(同社の決算発表は8月7日予定)。

その内容は、2018年3月期第1四半期決算の営業利益が炭素繊維複合材料事業の減益などにより、前年同期比▲7%減益になるというものです。にもかかわらず、その日の同社株価の大引け値は前日比+3.2円と堅調でした。

炭素繊維複合材料事業の不振は2017年3月期から続いており、市場の見方はもともと楽観的ではなかったとも解釈できるでしょう。また、航空機需要は堅調であるものの、サプライチェーンでのプリプレグ(中間加工品)の在庫調整が続いていることで、同事業の業績が減益になるという説明は前期から変わっていません。

課題はいつ在庫調整が終わるのかで、風力発電ブレード材料、自動車部品、圧縮天然ガスタンクなど、いわゆる産業用需要が引き続き好調に需要拡大を続けるのかという点です。筆者は、どちらかというと楽観的な見方ではあります。

2018年3月期第1四半期はそれほどネガティブではない?

7月6日付の記事をもう少し細かく見てみましょう。それによると、東レの2018年3月期第1四半期の業績見通しは、売上高は前年同期比+6.7%増収の5,100億円となるものの、営業利益は同▲7%減益の380億円になりそうだという内容です。

減益の主因は炭素繊維複合材料セグメントの減益、合成樹脂、繊維などの収益性の悪化とされ、特に炭素繊維複合材料はプリプレグの在庫調整の影響で出荷が伸び悩んでいることが大きいとしています。具体的には、炭素繊維複合材料セグメントの営業利益は前年同期の97.6億円から数十億円減益になるとされています。

ただし、第1四半期の営業利益見通し380億円は上期(4-9月期)会社予想の49%に相当します。そのため、ほぼ会社予想並みと考えれば上記の観測記事自体はポジティブでもネガティブでもない中立と考えてもいいのではないかと思われます。

炭素繊維事業のピークは2016年3月期、現在は短期的な調整期か

図表1は東レの炭素繊維複合材料セグメントの売上高と営業利益の推移を表したものです。ここから分かるように、汎用品を手掛けるZoltek社の買収効果もあって2016年3月期に売上高361億円、営業利益率19.4%のピークを記録しました。

続く2017年3月期の同セグメントの営業利益は前期比▲33.6%減益の240億円となり、その傾向が足元でも続いていることになります。

2018年3月期における炭素繊維複合材料セグメントの会社予想営業利益は240億円(上期110億円、下期130億円)ですが、第1四半期で上期(4-9月期)予想の70%近くを確保できたと筆者は推定しています。

とすると、同セグメントの業績のボトムは2017年3月期の下期(10-3月期)であったことになり、サプライチェーンでの在庫調整も最悪期を過ぎ、また、航空宇宙以外の産業用用途も回復してきたと考えてもいいのではないでしょうか。

出所:東レ決算資料より筆者作成(注:2018年3月期は会社予想ベース)

東レの株価動向は?

2016年年初以降の東レの株価を見ると、850円から1,000円のボックス相場が続いています。

ラージトウ(汎用品)に強いZoltek社を買収したほか、ボーイング、エアバス向けの1次構造材料として大量に炭素繊維が使われる期待から2015年までは堅調な株価が続いていましたが、その後の航空機向け複合材料の在庫調整の影響が株価低迷の原因と考えていいでしょう。

また、現状の原油市況低迷は、炭素繊維複合材料の需要先である天然ガス圧縮タンク、自動車向け構造材料・部品などへの需要シフトにブレーキをかける可能性はあると推測されます。

しかし、新興国市場における旺盛な航空機需要、洋上風力発電などの再生エネルギー需要、そして電気自動車(EV)への大転換期における自動車構造材の材料転換など、炭素繊維複合材料への中長期的な成長シナリオはいまだ健在です。短期的な調整による株価低迷をむしろ新規投資のチャンスと考えてもいいかもしれません。

石原 耕一