いよいよ追い詰められてきた東芝

「東芝問題」が発覚してから既に3回目の夏を迎えようとしています。

2015年に不正会計問題が発覚した当初は、東芝が”解体”に向かうという見方は少数派でした。しかし、2016年末に米原子力発電プロジェクトにおける巨額損失の可能性が明らかにされてからは、解体どころか“崩壊”に向かうという見方すら目にするようになっています。

ちなみに筆者の理解では、”解体”は半導体から原子力、パソコンまでを手掛ける総合電機メーカーとしてのビジネスモデルの終焉を意味する一方で、”崩壊”は上場廃止から破たん(倒産)の可能性まで、幾分の幅があると思われます。

そして、決算発表を8月10日に延期した6月23日以降は、”崩壊”のうち少なくとも「上場廃止」のリスクはかなり高まってきたのではないかと見ています。

そのように考えるのは、東芝は過去3年間で5回も有価証券報告書の提出期限が守れなかったとういう経緯から見て、8月10日の締切りが守られる確証が現時点では得られないためです。

また、仮に8月10日に決算を発表できたとしても、2018年3月期末までに2兆円超で半導体事業(東芝メモリ)を売却できず、2年連続の債務超過となった場合には、よほどの超法規的な措置が取られない限り上場廃止が避けられないからです。

実際、売却できない可能性も高まっていると感じられます。連日、メディアで東芝メモリの売却交渉に関する憶測記事が報じられているように、事態は益々混迷を深めているからです。

東芝は産業革新機構、ベインキャピタル、日本政策投資銀行からなるコンソーシアムに売却したい意向ではあるものの、東芝とウエスタンデジタルが訴訟合戦にまで至っているため、コンソーシアム内での意見調整が進まないことがこの混乱の背景です。

それでも時価総額は1兆円を維持

このように上場廃止リスクは明らかに高まっていますが、東芝の株価は意外に堅調です。

決算の延期と東証1部から2部への指定替えが発表された6月23日以降、株価は連日下落していますが、それでもこの間の下落率は2割弱に過ぎず、時価総額も1.1兆円と1兆円の大台をキープしています。また、問題発覚以降の過去3年間の安値158円(2016年2月)に対して約7割も高い水準にあります。

では、なぜ株価は意外に底堅いのか。その疑問に対する1つの示唆(ヒント)を、文藝春秋2017年7月号における村上世彰氏と池上彰氏の対談『年金GPIFは「物言う株主」になれ』のなかに見出すことができます。

復活を信じる元村上ファンドの村上世彰氏

今回の対談における村上世彰氏の東芝株に対する見方をまとめると、以下のようになります。

・村上氏の元部下たちが作ったファンド(エフィシモ・キャピタル・マネージメント)を含め、現在の東芝株の50%以上をファンドが保有している可能性がある。

・東芝は半導体事業を売却して債務超過を解消することさえできれば、“ピッカピカの優良企業”であるため、これらのファンドは東芝が上場廃止になるリスクを取っても買う価値があると見ている。

・すべてのファンドが東芝に半導体を売れと言っているわけではないと思われる。たとえば、現在の株主が増資したり、産業革新機構が一定の株を引き受けたりすれば債務超過は解消可能である。

・かつて、西武鉄道の上場廃止後にファンド(サーベラス)が買収したが、再上場後にファンドは利益を出している。同様のことを今回もファンドは狙っている可能性がある。

なお、以上のコメントはあくまでも雑誌における村上氏の発言を筆者が要約したものであり、また、以下に述べるように筆者はその内容が全て正しいとは考えていません。

また、現在は直接関わってはいないものの、元部下たちが設立したエフィシモが既に東芝の筆頭株主になっていることを考慮すると、同氏の発言にはある程度の「ポジショントーク」が含まれているかもしれず、そのあたりは割り引いて考える必要があるかもしれません。

「村上説」に死角はないのか

上場廃止イコール破綻ではないなど、上にまとめた村上氏の意見は示唆に富みます。ただし、復活の可能性を示唆する「村上説」にもリスクはあると筆者は考えます。その理由は以下の3点です。

第1は、東芝メモリを2兆円超で売却できたとしても、半導体、米国原子力事業を除いた「新生東芝」が十分な財務体質を回復できない可能性が残ることです。

ちなみに対談では、売却益は1兆数千億円と述べられていますが、6月23日の会見において東芝は、2兆円超で売却できた場合の売却益は約7,000億円と述べています。

対談はこの会見前に行われているため、6月23日の会社側の発言は考慮されていなかったと見られますが、この差異がかなり大きいことには留意すべきでしょう。

なお、会計上の利益と税務上の繰り越し欠損金を考慮した実際の利益には差異があることや、キャッシュフローとしては2兆円のキャッシュインが見込まれるため、有利子負債が大きく減少するという同氏の見方には違和感はありません。

第2は、対談では触れられていませんでしたが、メモリ半導体、ウエスチングハウスを切り離しても、なお、米国の液化天然ガス(LNG)関連事業で最大約1兆円の損失発生リスクを抱えていることです。

なお、この損失は単年度で一気に計上されるものではなく、約20年にわたって最大で累計約1兆円となる可能性があるものですが、こうした負担を新生東芝が負わされることにも留意が必要であると思います。

第3は、新生東芝発足後も、人員削減に伴い多額のリストラ費用の計上を迫られる可能性が残ることです。

米原子力発電事業、メモリ半導体、東芝メディカル、家電事業などを売却後の新生東芝の売上高は3.65兆円と、東芝問題発覚直前の2015年3月期の6.65兆円に比べ約3兆円も減少する見通しです。

この間に人員削減は行われてきたものの、これだけの大幅な規模縮小に見合ったコスト削減が行われているかは、今後精査が必要であると考えられます。

まとめ

上場廃止のリスクを考慮しても、長期的に、つまりコーポレートガバナンスを強化し、事業再編や資本政策を再構築するプロセスを経た後に再上場することができれば投資妙味があるという村上氏の考え方は、同氏の長年のファンド運営者としての経験をもとにした見方であるため、十分に傾聴に価すると考えられます。

もちろん、復活の条件にはコーポレートガバナンスの再構築という難題も控えていますが、そのことが新生東芝としての復活の議論には欠かせない視点であるとも感じられます。この隘路の先には、日本の株式市場活性化の可能性も秘められていることに留意しながら、今後も東芝問題を考えていきたいと思います。

和泉 美治