投信1編集による本記事の注目点
- あらゆる分野で活躍が期待されているドローンの国内市場規模は、2020年代に2000億円を突破するとも言われています。
- 現状、ドローンは3次元調査・測量、農薬散布、太陽光発電所のパネル点検などで一部実用化されています。
- ドローンの社会実装により得られる恩恵は大きく、今後の蓄電池、モーター、GPS技術などの発達により機体の性能もますます向上し、さらに期待は高まっていくでしょう。
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農業、建設・土木、インフラ点検、物流、警備・防犯、災害状況把握など、あらゆる分野で活躍が期待されているドローン。その国内市場規模は2020年代に2000億円を突破するとも言われている。一方、本格的な社会実装に向けては越えるべきハードルもある。
すでに一部で実用化
現状、ドローンは3次元調査・測量、農薬散布、太陽光発電所のパネル点検などで一部実用化されている。3次元調査・測量では国主導の建設現場におけるICT化を推進する取り組み「i-Construction」を背景に、土木分野を中心に徐々に採用が広がっている。
i-Constructionは、調査・測量、設計、施工、検査などすべてのプロセスにICTを導入するもので、現在の紙図面を前提としたプロセスより生産性を向上できるものだ。16年度から国土交通省主導で進められており、関連要領やマニュアルが整備されつつある。
このi-Constructionにおいて、ドローンは調査・測量の3次元データを作成する際の写真・動画を撮影するツールとなる。具体的には、ドローンが空中から写真・動画を撮影し、クラウド上でデータ解析および3次元データを作成。そして、ユーザーが3次元データをダウンロードする。国内では国際航業(株)(東京都千代田区)がドローンユーザー向けに3次元空間解析クラウドサービス「KKC-3D」を提供している。
農薬散布はドローンに液剤を搭載し、散布するものだ。液剤タンクの大型化と飛行時間の延長化が進んでいる。例えば、同分野で国内最大シェアを持つ(株)エンルート(埼玉県ふじみ野市)の最新鋭機「AC1500」は液剤タンク容量9~10L、飛行時間約15分を実現する。なお、バッテリーにはリチウムポリマー電池を採用している。
太陽光発電所のパネル点検は、従来は携帯型の赤外線カメラを点検作業者が持ち歩き、パネル1枚1枚を撮影していたものを赤外線カメラ搭載ドローンに置き換えるもの。空中からアプローチするため、地上からの場合と比較して広範囲を撮影できる。また、費用削減や調査時間の大幅な短縮も可能となる。精度面でも人手による場合と遜色ないという。
解決すべき課題
一方、ドローンの本格実用化に向けては解決すべき課題もある。第一に、衝突回避技術の確立が挙げられる。障害物があった場合に自律的に回避して目的地まで辿り着けるかどうかだ。
また、目的地まで誤差なく着地できるかという課題もある。将来的には数cm以内の誤差が求められている。加えて、非GPSエリアに突入した場合に自律飛行できるか。そして、これらを同じ空域で複数のドローンが飛行している状態で可能かどうかが問われる。
こうした課題が払拭されない限り、本格実用化は難しいだろう。例えば、(株)楽天や米アマゾンはドローンを使った宅配サービスを模索しているが、現状では無事に目的地に着くとは限らない。
こうしたなか、国際研究開発法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO、川崎市幸区)は、ドローンに関する数々のプロジェクトを実施している。その内容は、衝突回避技術の開発、特殊環境下での連続稼働が可能な機体の開発、燃料電池搭載ドローンの開発、国際標準化の推進など様々だが、17年度から最も重要となるドローン運行管理システムを開発するプロジェクト「無人航空機の運航管理システムの開発」(17~19年度)がスタートした。
これは都市での安全な荷物配送などの実現に向けて、ドローンをはじめとした無人航空機の運行管理システムを開発し、同システムをベースに実証実験を行うものだ。参加企業は、日本電気(株)(NEC)、(株)日立製作所、(株)エヌ・ティ・ティ・データ、(株)NTTドコモ、(株)楽天、国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構(JAXA)。
テーマは「安心・安全で効率的な物流等のサービスを実現する運行管理システムの研究開発」と「運行管理システムの全体設計に関する研究開発」の2つ。
前者は地図・気象・電波情報などの「情報提供機能」、機体単体の機体情報や飛行計画などの「運行管理機能」、すべての機体の運行管理を統括し、かつ中止・変更指示などを出す「運航管理総合機能」を開発する。特に同一空域の多数のドローンの安全運航サポートを重要項目としている。また、運行管理統合機能は複数の用途・事業者との接続を想定している。
担当は運航管理機能の物流サービスを楽天、通信サービスをNTTドコモが検討。また、運転管理機能統合機能のフライト管理をNEC、空域情報管理をエヌ・ティ・ティ・データ、運航状況管理を日立製作所が開発する。
後者は空域利用・衝突回避アルゴリズム、運航シミュレーションを活用した共通基盤モデルを開発する。運航管理シミュレーターの開発、運航管理コンセプトの策定を経て、運航管理システムアーキテクチャーを設計する。同モデルと実証事業の結果を比較し、システムの精度を高めていく。JAXAが担当する。
計画としては、17年度に運航管理システム設計、運用ルール策定、インターフェース設計、18年度に運航管理システム試作、部分的システム評価、19年度に多数のドローンの運行管理の実証実験をそれぞれ実施する。実証実験は18年度開所予定の「福島ロボットテストフィールド」を活用する。南相馬市~浪江町の13kmの目視外の状況で10台以上のドローンを、物流などの利用シーンで衝突させずに運航させる。
ドローンの社会実装により得られる恩恵は大きい。例えば、宅配サービスでは宅配コストや宅配時間の大幅な短縮が試算されている。そして、今後の蓄電池、モーター、GPS技術などの発達により機体の性能もますます向上し、さらに期待は高まっていくだろう。
電子デバイス産業新聞 編集部 記者 東哲也
投信1編集部からのコメント
ドローンが物流機能の一端を担えるかどうかという現実性については今後さらなる技術的側面の改善が必要ですが、期待はしたいところです。ただし、ドローンを一度でも操縦してみると分かりますが、そもそも気象条件に左右されることや操縦の質をどのように担保するかなどの課題は多いと言えます。
とはいえ、産業用途のようにアドホックで利用されるシーンや、今後のユースケースを想定することはいくらでもできます。そうした中、日本企業はどのような領域でのポジショニングができるかが重要になるでしょう。
電子デバイス産業新聞×投信1編集部
電子デバイス産業新聞