『ライフ・シフト 100年時代の人生戦略』がベストセラーに
「人生100年時代」が話題となっています。ロンドン・ビジネススクールのリンダ・グラットン教授と共著者による『LIFE SHIFT(ライフ・シフト) 100年時代の人生戦略』(2016年)がベストセラーになったことがきっかけです。
誰しもが”長生きリスク”を意識するなかで、「100年」という区切りのよい単位でこの問題を取り上げたことが多くの人々の心を捉えたのではないでしょうか。
ちなみに、本書は平均寿命が100歳に延びることを前提にしていると誤解されがちですが、実際は、「先進国で2007年以降に生まれた人の半分が100歳まで生きる」という予測を元に議論が進められています。
いずれにせよ、100年という“目標値”を掲げられると、現在30歳の人は、人生の30%、50歳の人は半分が過ぎたという現在の自分の立ち位置を容易にイメージすることができます。そういう意味で本書のタイトルは秀逸と言えるでしょう。
すでに日本では70歳以上でも働くことは当たり前に
本書では、かつては当たり前とされた「教育・仕事・引退」という単純なライフステージを辿る考えを捨て、多様な仕事ステージを生きる人生戦略へとシフトすべきことが説かれています。
ただ、グラットン教授に言われるまでもなく、日本では60歳で引退し、その後は仕事をしないという生き方は既に少数派となっています。総務省が行った「就業構造基本調査」によると、60歳以上の有業者および無業だが就業を希望する人の割合は以下のように高水準です。
- 60~64歳:男性で約83%、女性で約58%
- 65~69歳:男性で約62%、女性で約39%
- 70~74歳:男性で約44%、女性で約25%
好む、好まざるにかかわらず、これが日本の現実なのです。
これは、年金では不十分というお金の問題に加え、健康年齢の上昇、そして人間は人や社会との関わりから幸福感を得るという本来的な性質があることによるのではないかと推察されます。
100歳まで生きる(生きられる)のかはともかく、平均余命は60歳で男性が約24年、女性で約29年、70歳では男性が15年、女性が20年もあるのです。
それだけの余命を考慮すれば、「ただ何もしないで生きていく」ということは考えにくく、お金のためだけではなく社会との関わりを持ち続けることや、生きる張り合いを作るために仕事を求めるのは自然なことと考えられます。
60歳を越えて高年収を目指すのは非現実的、ではどうする?
ところで、日本の平均寿命が50歳を越えたのは、戦後2年目の昭和22年(1947年)からであったことはご存じでしょうか。
それまでは、人生50年が一般的でした。このため、50歳まで生きられたら、お金や出世競争などにあせくせとせずに「生前成仏」したつもりで社会のために生きよ、という考えがありました。
この考えを現在に当てはめると、84歳までは生前成仏はできないということになります。とはいえ、その年齢に達していなくても、60歳を越えてからは生前成仏したつもりで生きる、という考えを持つのも一案かもしれません。
文字通り出家して本格的に修行に励むのはレアケースかもしれませんが、そうでなくても、働くのはお金や出世など自分の欲のためではなく、社会のためと考えるのです。
たとえば若い世代が「1,000万円プレーヤー」を目指すように高年収を求めるのは現実的ではありません。しかし、人手不足が続くことを考慮すれば高齢者の職場は今後も増えていくと考えられます。
大学生や高校生と一緒にコンビニやファミレスで働きながら、人手不足の解消に貢献し、時々は彼等の悩みを聞いてあげてメンターとしての役割も果たす。そうすれば、たとえそれほど賃金は高くはない単純労働でも、社会に役立つ立派な仕事であるということになります。
このように、生前成仏の考えを持つことができれば、長生きリスクに対して過度な懸念を感じずにいられるのではないでしょうか。
LIMO編集部