目次
1 スプレッドとは通貨の売価と買値の「差」のこと
2 「Bid」と「Ask」の意味は、覚えられなければ覚えなくてもいい
3 2Wayクオート(2Wayプライス)は価格の透明性を保つため
4 「スプレッド」の幅はFX会社によって異なる
5 通貨の組み合わせによってもスプレッドは異なる
6 円とのペアでない通貨ペアのスプレッドはどう見ればいいの?
7 FXでは売買が成立した瞬間、赤字からスタートする
8 スプレッドは市場の状況に応じて広がることがある
9 相場が大きく動くときには特に注意
10 スプレッドの安定性でFX会社を選ぶのも一つの方法
11 まとめ
FXを始めるにあたって「よくわからない」という人が多いのが「スプレッド」です。「業界最狭水準のスプレッド、米ドル/円 0.3銭」などと言われても、ピンと来ない人もいるかもしれません。FXのスプレッドがわかると、取引コストや取引の際のリスクも理解できるようになります。もちろん、FX会社選びの判断もしやすくなります。以下で詳しく説明しましょう。
1 スプレッドとは通貨の売価と買値の「差」のこと
テレビのニュースなどで、「外国為替市場では1ドル110円78銭から81銭で取引されています」などと言われることがあります。このとき、画面には「110.78~110.81」と表示されています。
「から」と読まれたり「~」と書かれたりしているので、相場がその間で上下しているような印象を持つかもしれませんがそうではありません。「110.78」は為替市場で金融機関などが「この値段なら買ってもいいよ」と言っている値段(あなたにとっては売値)です。「110.81」は、市場で、金融機関などが「この値段なら売ってもいいよ」と言っている値段(あなたにとっては買値)です。
つまり、ニュースで「○円○銭から○銭」と読んでいるのは、値幅のことではなく、売値と買値の両方を同時に伝えているのです。外国為替の取引では、「私は、買うなら○円○銭、売るなら○円○銭」と買値と売値を同時に提示します。これを「2 Way Quote(ツー・ウェイ・クオート)」、あるいは「2 Way Price(ツ-・ウェイ・プライス)」と言います。
買値(あなたにとっての売値)を「Bid(ビッド)」、売値(あなたにとっての買値)を「Ask(アスク)」または「Offer(オファー)」と言います。そして、この買値と売値の差を「スプレッド(spread)」と言います。spreadとは元々、「広がる、開く」といった意味です。
2 「Bid」と「Ask」の意味は、覚えられなければ覚えなくてもいい
FX初心者の人にとっては、「BidとAskって、どっちが売値でどっちが買値か覚えられない」と感じるかもしれません。結論から言えば、覚えられなければ無理に覚える必要はありません。
上で説明したように、あなたにとっての売値が「Bid」、買値が「Ask」です。ただし、通貨を「売る側」と「買う側」とで、立場が逆になると売買も逆になることから、FXの情報サイトや書籍、雑誌などによっては、Bidを買値、Askを売値と逆に書いてあることもあります。
用語を暗記するより、価格で考えると理解しやすいでしょう。前に書いてあるほうの価格(通常は安いほうの価格)が、あなたが通貨を売る場合のレート、後ろに書いてあるほうの価格(通常は高いほうの価格)が、あなたが通貨を買う場合のレートです。
3 2Wayクオート(2Wayプライス)は価格の透明性を保つため
FX取引には売値や買値の2 Way クオート(2 Way プライス)があると紹介しました。では、そのレートは誰が出しているのでしょうか。答えは、FX会社です。FXには株式市場のような取引所はありません。このため、取引はFX業者と個人投資家との相対(あいたい)取引になります。相対取引とはその名のとおり、FX業者と投資家が直接取引をすることです。店頭取引とも言います。
FX業者はインターバンク市場と呼ばれる、金融機関が通貨を売買する市場に参加している「カバー先」と呼ばれる金融機関と提携し、カバー先のレートを見ながら、自社の顧客にレートを提示します。
そう言われても「なぜ、売値と買値を同時に出すのか」と疑問を持つ人もいるでしょう。答えは価格の透明性を保つためです。
たとえばある金融機関(や投資家)が「米ドルを100万ドル買いたい、いくらで売ってくれるか」と尋ねてきた場合、足元を見て高く売りつけることができます。逆に「米ドルを100万ドル売りたい、いくらで買ってくれるか」と尋ねてきた場合は、値切ることができます。
そうならないように、最初から「買うならいくら、売るならいくら」と両方を示しておくのです。一般的に、その金融機関が売りたい値段(あなたの買値)は買いたい値段(あなたの売値)よりも高くなります。そうでないと、その金融機関は高く買って安く売るので損をすることになります。
4 「スプレッド」の幅はFX会社によって異なる
売値と買値の差がスプレッドですが、その幅について、「スプレッドが広い(狭い)」あるいは「大きい(小さい)」などといって比較します。
スプレッドの幅は、FX会社によって異なります。FX会社はインターバンク市場で直接取引をするわけではなく、カバー先と呼ばれる金融機関と提携し、投資家の注文をつなぎます。当然ながら、カバー先の金融機関には手数料を払わなければなりません。さらにFX会社自身の儲けも乗せなければなりません。それがスプレッドの差です。
図書カードや切手、新幹線の回数券などを買い取って販売する、いわゆる金券ショップでは、さまざまな金券の買い取り価格と販売価格の両方が店頭に明示してあります。「私たちの儲けはその差です(その差しかありません)」と言っているようなもので、非常に明確です。その点では、金券ショップも2Way クオート(2 Way プライス)です。
FX会社では今、売買手数料が無料というところが主流になっています。そのため、FX会社は、おもにスプレッドで儲けを得ています。
FX会社がどれだけ利益(スプレッド)を乗せるかは、それぞれのFX会社の経営判断になります。スプレッドを広くすれば利益も大きくなりますし、急激な相場の変動によりカバー先のレートが悪くなるリスクヘッジになります。ただし、それだと投資家のコストが高くなるため、投資家から敬遠されます。
米ドル/円の場合、2005年ごろにはFX会社のスプレッドは3銭~7銭程度でした。FX会社同士の競争が激しくなると、各社がスプレッドの狭さ(小ささ)を競うようになり、年々スプレッドが狭くなっています。今では1銭以下というところが多く、中には0.3銭というところもあります。
5 通貨の組み合わせによってもスプレッドは異なる
FX会社によってスプレッドが異なると紹介しましたが、さらに、スプレッドは通貨のペアによっても異なります。
たとえば、あるFX会社は、米ドル/円のスプレッドは0.3銭ですが、豪ドル/円のスプレッドは0.7銭、ポンド/円のスプレッドは1.1銭、スイスフラン/円のスプレッドは1.8銭となっています。
このような違いが生じる要因はそれぞれの通貨の流動性の高低に関係しています。米ドルは改めて言うまでもなく世界の基軸通貨であり、インターバンク市場で買い手や売り手が多く、売買数量が十分にあります。つまり流動性が高い通貨です。それに比べれば、南アフリカランドやノルウェークローネ、トルコリラなどは買い手や売り手のプレーヤーが少なく、売買数量も少なくなります。
FX会社は投資家の注文をインターバンク市場につなぎますが、売買が成立するためにはインターバンク市場でそれを引き受けてくれる(カバーしてくれる)金融機関がいなければなりません。すぐにレートが折り合うといいですが、時間がかかるとその間にレートも変わってしまいます。そのリスクに備えるために、FX会社では(インターバンク市場の金融機関も)流動性の低い通貨のスプレッドを広くとっているのです。
米ドル/円のスプレッドが0.3銭のあるFX会社でも、南アフリカンランド/円のスプレッドは1.4銭、ノルウェークローネ/円のスプレッドは2.1銭、トルコリラ/円のスプレッドは7.0銭になっています。ドル/円の0.3銭に比べればかなり大きいですね。
6 円とのペアでない通貨ペアのスプレッドはどう見ればいいの?
FX会社のサイトのほか、比較サイトなどでは、各社の通貨ペアごとのスプレッドが示されています。それを見ると、単位が「銭」と書いてあるのものと「pips」と書いてあるものがあることに気付くでしょう。銭は100分の1円(0.01円)です。100銭=1円です。では「pips(ピップスと読みます)」はどのような単位でしょうか。
pipsは「0.0001通貨」です。米ドルであれば0.0001ドル(0.01セント)、ユーロなら0.0001ユーロ、英ポンドなら0.0001ポンドです。円とのペアでない通貨、たとえばユーロ/米ドルの場合、売値(Bid)が1.11805ドル、買値(Ask)が1.11810ドルなどと表示されます。この場合の差(スプレッド)は0.00005ドル(0.5pips)です。
1pips=0.0001ドルでも小数点以下が長くてわかりにくいのに、スプレッドはさらにその10分の1の単位になるので、よけいにわかりくにいですね。昔は、個人投資家向けFXのレートは、ドル/円であれば1銭まで、ユーロ/ドルであれば0.0001ドル(0.01セント)までしか表示されていませんでした。最近ではそのもう一つ下の桁まで表示されるようになりました。スプレッドも一つ下の桁のレベルまで狭くなったので、「ユーロ/米ドルのスプレッドは0.5pips」といったように表示されているわけです。
ただし、異なる通貨ペアの「pips」は同じではありません。1銭=1pipsでもありません。1銭は0.01円です。米ドルにおける1pipsは0.0001ドルで、1ドル=100円なら、1pips=約0.01円ですが、1ドル=80円なら、1pips=約0.008円になってしまいます。ユーロの1pipsと、英ポンドの1pipsも金額は異なります。
pipsはあくまでも、全体の価格(や値動き)に対する比率を表すものです。ただし、いちいち計算するのが面倒なので、ざっくりと1pips=1銭として、おおまかに比較する方法もあります。
7 FXでは売買が成立した瞬間、赤字からスタートする
スプレッドの大小は、投資家にとってどのような影響があるのでしょうか。まずは取引コストです。FXではスプレッドがあるため、売買が成立した瞬間、赤字からスタートします。
たとえば、スプレッドが0.4銭(0.004円)で、売値(Bid)が1ドル=111.170円、買値(Ask)が1ドル=111.174円だとします。投資家(あなた)がドルを1ドル買うとすると、レートは買値(Ask)のほうなので111.174円です。FXでは反対売買をして決算することになります。外貨を買った場合、決済は「売り」になります。このため、買った瞬間に、「買い」のレートではなく、「売り」のレートで評価されることになります。ですから、相場が動かず、レートに変化がない場合でも、スプレッドの分のコストは必ずかかるのです。
FXは「買い」からだけでなく「売り」からでも取引が始められます。上記のレートで「売り」から始めるとどうなるでしょうか。まず「売り」のレートは、売値(Bid)のほうの1ドル=111.170円です。投資家(あなた)はその値段で売り始めるのですが、取引が成立した瞬間から、評価のレートは「買い」のほうのレートとなり、111.174円となります。いきなり、スプレッド分の0.4銭(0.004円)の赤字からスタートになります。
ところで、一般的な金融商品の売買手数料の場合、取引を始めたときと決済するときの「往復」で2回、手数料がかかるのが普通ですが、スプレッドは売買価格の「差」なので、買いから始めても売りから始めても、コストがかかるのは1回だけです。
ちなみに、FX業者が複数のカバー先から売値、買値それぞれもっとも有利なレートを選んで提示するような方法を取っている場合、まれに、投資家にとって、買値よりも売値が高くなる「マイナススプレッド」が発生することがあります。ただし頻度は少なく、狙って取引できるものではありません。
8 スプレッドは市場の状況に応じて広がることがある
FX会社選びの際には、スプレッドを気にするでしょう。「各社のスプレッド一覧」などの情報を提供しているサイトもあります。もちろん、スプレッドが0.4銭よりは0.3銭のほうが投資家にとって有利なのは確かです。ただし、注意しなければならない点があります。それは、スプレッドは固定されているものではなく、常に変動するということです。
前述したように、スプレッドはインターバンク市場で、FX会社のカバー先となっている金融機関が出すレートに大きな影響を受けます。このため、米ドルなどのように、買い手も売り手も多く、流動性の高い通貨はスプレッドが狭くなります。逆に、トルコリラなどのように、買い手や売り手のプレーヤーが少なく、流動性が低い通貨は、スプレッドが広くなります。
さらに、同じ米ドルでも流動性が高い時間と流動性が低い時間があります。たとえば、1日のうちで流動性が高いのは、ロンドン市場が開く日本の夕方ぐらいからニューヨーク市場が閉まる日本時間の早朝ぐらいの間です。日本時間の午前5時~8時ぐらいまでは、参加者も少なく市場は閑散としています。このほか、英国や米国の祝日、クリスマスなどのときにも参加者が少なくなります。流動性が少ないときには、価格が急に動くことがありリスクも大きくなります。このため、インターバンク市場でFX会社のレートをカバーする金融機関もスプレッドを広くする傾向があります。
スプレッドが広がる場面として、ほかにも、重要な経済指標の発表などがあります。米雇用統計など投資家に注目される経済指標の発表や要人の会見などでは、その内容に応じてレートが大きく変動します。また、その前後でスプレッドも広がる傾向があります。これも、要因はインターバンク市場のプレーヤーである金融機関が価格の変動リスクに備えてスプレッドを広げるためです。
9 相場が大きく動くときには特に注意
投資家にとって、スプレッドが拡大することはコスト以外にもさまざまなリスクをもたらします。年末年始など流動性が低いときに若干スプレッドが広がるのは、取引コストの面では不利ですが対応も可能です。あまり値動きが大きくないので、失敗したとしても比較的に含み損が小さい段階で損切り(決済して損失額を確定させること)ができるからです。
怖いのは、いわゆる暴落などが起こるような大きな事件が起きたときです。2015年1月15日、スイスの中央銀行であるSNB(スイス国立銀行)は突然、2011年9月から維持してきたスイスフランに対するユーロの下限を1.2とし、無制限介入を行うという方針を撤廃することを発表しました。これを受けてユーロは対スイスフランで急落し、約20分間で41%も下落しました。いわゆる「スイスフランショック」です。
インターバンク市場では価格の折り合いが付かずレートが飛ぶ、「値飛び」という現象が起きました。損切りポイントを越えて約定してしまったため、想定していた以上の損をした投資家が数多く出ました。
「値飛び」を起こさなかったFX会社でも、スプレッドが200pips以上にまで広がったところがあります。通常ユーロ/スイスフランのスプレッドは2~4pips程度なので、数十倍までスプレッドが広がったのです。
株式であれば、このような極端な価格変動が起こった場合、「動きが落ち着くまで待つ」。あるいは「損を覚悟で塩漬けにする」といった方法もありますが、FXではそれはできません。なぜなら、スプレッドが拡大すると含み損も増えてしまうからです。
たとえば、スプレッドが200pips広がる場合、利益になる方向に広がればいいですが、逆の場合、200pips分価格が下がるのと同じことになります。このため、200pips以下にストップロス(損切りライン)を置いていた人は皆、通常のスプレッドなら決済されなくてもいいポジションがロスカットに引っかかることになります。
10 スプレッドの安定性でFX会社を選ぶのも一つの方法
FX会社同士のスプレッド競争が激しくなっています。「業界最狭水準のスプレッド」などを売りにしているFX会社もあります。もちろん、スプレッドは狭いほうがいいことは確かですが、米ドル/円を1万ドル取引する場合、スプレッド0.3銭ならコストは30円、0.4銭なら40円です。その差10円で収益がどれほど変わるかは疑問です。
さらに、前述したように、仮にもっとも狭いときのスプレッドが0.3銭でも、市場の動向によりすぐにスプレッドが広がってしまうようなところでは意味がありません。また、米ドル/円のスプレッドは頑張っているものの、他の通貨ペアはそれほどでもないというところもあります。あなたが取引したい通貨のスプレッドがどうなっているか比べるようにしましょう。
気になるスプレッドの変動ですが、FX会社によっては「スプレッド提示率」と言って、ある一定の期間でどのようなスプレッドを提示できたのかを開示しているところもあります。また、重要な経済指標の発表時にどのようなスプレッドになったのかを開示しているところもあるので、参考にするといいでしょう。もちろん、開示しているところは安定性に自信を持っているということでしょう。
11 まとめ
FX会社の多くは売買手数料が無料になっています。なので、投資家にとっての取引コストはスプレッドぐらいしかありません。このため、FX会社を検討する際に「スプレッドの狭い順」などで比べがちですが、いざというときのスプレッドの変動など、レートの安定性にも注意しましょう。
大きなイベントの際などにどれだけスプレッドが広がるかは、実際に口座を開設し取引してみないとわからないので、FX会社選びの判断が難しいところです。複数の口座を開設し、使い勝手を比較してみるのも一つの方法です。
上山 光一