労働市場は「売り手市場」に

2017年5月末に厚生労働省が発表した有効求人倍率が1.48倍となったことが話題となっています。

ざっくり言うと、有効求人倍率とは仕事を探している1人あたりに求人が何件あるかを示す指標です。1倍を超えれば仕事の数が応募する人の数を上回ることになり、働く人にとっては「売り手市場」、つまり、仕事が見つけやすくなるということになります。

なお、この1.48倍という水準は、1974年2月(1.53倍)以来43年ぶりの高水準です。また、平成バブル期のピークだった1990年7月(1.46倍)の水準を上回る高い水準です。リーマンショック翌年の2009年は年間ベースで0.47倍にまで低下していたことを考慮すると、隔世の感を禁じえません。

朝の連ドラ「ひよっこ」の時代の有効求人倍率は?

もちろん、仕事はあっても給料が安い、長時間労働を強いられるといった様々な理由から、この1.48倍という数値をそのままポジティブには受け止められない方も少なくないと思います。

とはいえ、有効求人倍率が低いよりは高いほうがいいでしょう。そのことは、現在放送中のNHK連続テレビ小説「ひよっこ」からも理解できるのではないでしょうか。

主役の有村架純さんが演じる「みね子」の勤め先であった向島電機は、1965年に東京五輪直後の「昭和40年不況」のあおりを受けて倒産してしまいます。倒産後にみね子は新たな職場をすぐに見つけることができず、苦労して失踪してしまった父親の縁を辿り、やっとのことで「すずふり亭」という赤坂の洋食屋に職を得ています。

1965年の有効求人倍率は0.64倍と極めて低い水準でした。笑顔を絶やさないみね子ですが、そこには労働市場がひっ迫している今では考えられない大変な苦労があったのです。

人手不足が企業にとって深刻な問題に

「ひよっこ」の時代に大変だったのはみね子(労働者)でしたが、今、大変なのは雇用する側、つまり企業です。

人手不足が長期化することで、仕事(需要)はあっても、生産(供給)ができないという事態になるため、最悪の場合、「人手不足倒産」に陥る企業も現れるかもしれないという話を耳にするほどです。

このため、企業は働く人から選んでもらうために、単に賃上げをするだけではなく働きやすい環境を整えるための投資(省人化投資)が求められています。「働き方改革」に関する話題が最近多く聞かれるのも、こうした労働市場のひっ迫が背景にあることは言うまでもありません。

ファミリーマートの実態と取り組み

こうした観点で興味深かったのが、6月14日にNHKの朝のニュースで報じられたユニー・ファミリーマートホールディングス(8028)傘下のコンビニエンスストア、ファミリーマートの業務改革への取り組みです。

そこでは、時給を上げても人手不足が容易に解消されない原因は「仕事が忙しすぎることにある」と同社の経営陣が捉え、この問題の解消に向けてトップダウンで様々な取り組みが行われていることが紹介されていました。

実際コンビニへ行くと、店員さんは接客だけではなく、商品の入れ替え、清掃、発注業務、ポスターの張り替え、値札の交換など、いつも忙しそうです。また、消費者としては便利になってありがたいものの、次から次へと新しいサービスが導入されるため、その対応に忙殺されている店員さんが気の毒に見えてしまうこともあります。

今回の番組では、そうした大変そうな姿に見られてしまうことが採用が進まない理由の1つであることも紹介されていました。NHKという公共放送を通して、ファミリーマートが等身大の実態を示し、会社全体として改善に取り組む姿勢を示したことは大いに注目できる動きであると感じられました。

気になる富士電機の「タバコサーバー」

このニュースを見ながら、最近行われた富士電機(6504)の事業説明会で、コンビニを魅力ある店舗とするための商材を増やす取り組みを強化する方針が示されたことを思い出しました。

同社は「セブンカフェ」のコーヒーマシンやショーケースなどを手掛けていますが、今後は自動釣銭機、ハイボールディスペンサー、IHSS加熱調理機、さらにタバコサーバーなどの新製品の売り込みを強化していく考えです。

ちなみに、「タバコサーバー」は、まだ世の中には出回っていない商材ですが、これも省人化のための有力な製品となりそうです。

コンビニでは約200種類のタバコが売られていますが、いつも店員さんは「あれ」とか「これ」と指差されたタバコを探し求めて動きまわっています。こうした手間を省くために「タバコサーバー」を設置し、そこでタバコを指定して、決済はレジで行うというシステムを現在提案中とのことです。

まとめ

高水準の有効求人倍率が続くかどうかは景気次第であり、この先景気が冷え込めば低下していくことも考えられます。とはいえ、人口減により生産労働人口が減少していくという構造的な要因は厳然として存在するため、高止まりする可能性のほうが高いのではないかと考えられます。

労働市場のひっ迫が「働き方改革」の触媒となり、そこから新たなビジネスチャンスが生まれる可能性に今後も注目していきたいと思います。

LIMO編集部