「ヘッドハンターから声はかかるんだけど、条件が合わなくて」「紹介してもらったけど会社規模も小さいし、今ひとつピンと来ないんだよね」――年収1千万円のサラリーマン、いわゆる「1千万円プレーヤー」が転職に関してよく口にする言葉です。しかし、こうした人が実際に転職したという話をあまり聞かないのもまた事実ではないでしょうか。
漠然とした不満から転職を考え始める40代の1千万円プレーヤー
40代の1千万円プレーヤーが転職を考え始めるきっかけのほとんどは「会社への不満、将来への不安」。しかし、その多くは非常に漠然としたものだといいます。転職希望者のスカウトに20年あまり携わっている株式会社オフ・ビート代表取締役の北田勝久氏は「もう出世できなさそうだとか、このあたりまでかな、というように先々のことが見えてくることで転職を考えはじめる人が多い」と話します。
もちろん、転職を希望する人の中には「もっとフィールドを広げたい」「やりたいことを実現するための環境がほしい」という人もいますが、やりがいや成長なども含めて明確な目的をもって転職活動を始めるケースはそう多くないといいます。
企業が人材を求める理由。躊躇する1千万円プレーヤー
大手企業に勤める1千万円プレーヤーであれば、ほぼ全員が年収1千万円以上の転職先を希望します。年収を下げてまで転職しようとする人は非常に少ないのです。では、1千万円もらえる仕事というのはどのようなものなのでしょうか。
「転職を希望するサラリーマンで、今の自分の仕事の価値を意識して仕事をしている人は非常に少ない」と北田氏は指摘します。自らのスキルや実力を把握し明確な意志をもって転職に挑むサラリーマンは、驚くべきことに10%にも満たないというのです。これは1千万円プレーヤーでも同じだといいます。そして、こうした1千万円プレーヤーが同じ年収水準で転職に成功するケースはほぼないのだとか。
なぜ企業が求人を出すのかを考えてみれば、その理由は明白です。求人を出す企業には何らかの課題があり、その課題を解決し、さらに成長に導いてくれる人材を求めています。そして年収は、これを成し遂げるための報酬です。ですから「本当にやってくれる人なのか」という点は、企業の人事も役員も転職エージェントも皆がしっかりと見定めようとするところなのです。
「企業は“稼げる人”を求めています。ですから『自分で稼いで会社に貢献する』という感覚がないと、1千万円プレーヤーの転職は難しいといえます」と北田氏は語ります。もちろん、これは直接売り上げを立てるという意味だけではありません。一言でいえば「会社に貢献できる人」が求められているのです。さらに、転職すればまったく新しい環境で自分のポジションを確立していかなければなりません。
これらの点を指摘すると「給料を下げてまで、環境を変えてまでやる意味があるのかな、そもそも期待に応えられるだけの実力があるのかどうか」と二の足を踏み始め「まあ自分がモヤモヤしてるだけだし、奥さんは反対するし、子供の教育費にもお金がかかるし」とあれこれ理由を付けて転職戦線から身を引いてしまう、そんな1千万円プレーヤーは非常に多いのだそうです。
人材スカウトマンが見る「転職に失敗する人」の特徴
口では転職したいというけれど行動しない、土俵に上らない。こうした転職未遂を繰り返す1千万円プレーヤーは「言われたことをこなしてきただけで、戦ってきていないのではないか」と北田氏は疑問を投げかけます。「これまで課題を解決するために自分の意見を述べてきたか? 変えようと努力し、工夫し、働きかけてきたか? そういうことをやってこなかった人は転職先でもうまくいきません」と北田氏は強調します。
では、人材スカウトをするうえで最も対応に苦慮するのはどのようなタイプなのでしょうか。北田氏によれば「自分の中で勝手に判断し、勝手に決めて動く人」そして「今いる環境での努力を放棄してしまっている人」なのだそうです。
逆に、不満や文句をいう人は一見面倒なタイプに思えますが、実は軌道修正がしやすいといいます。「不平や不満という形でもエネルギーが出ているので、それに対して反応もできますし、目線を変える必要がある場合には『それではダメだよ』という意見もいえます」と北田氏はいいます。
まとめにかえて
1千万円プレーヤーが1千万円プレーヤーとして転職に成功するためには「戦う意志」が必要です。しかし、「一瞬年収が下がっても転職先で稼いで会社を儲けさせて、今よりもっと稼げるようになろうと考えられる人は実はそう多くありません」。北田氏はそう指摘します。
戦う意思が明確で稼ぐ力をもった人物は多くの企業では喉から手が出るほど欲しい人材ともいえますが、残念ながら現在の転職市場においてこうした人材は非常に貴重だというのが実情のようです。
LIMO編集部