2022年9月7日に行われた、コインチェック株式会社主催のSharely Day・セッションNo.4〜通常のIR・SRの枠にとどまらないステークホルダーとの効果的なリレーションシップとは〜の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイド 執行役員 後藤亘 氏
ファンズ株式会社 取締役CFO 笹嶋靖史 氏
ログミー株式会社 CRO/ログミーFinance統括 秋元洋平 氏
コインチェック株式会社 Sharely事業部長 大島啓司 氏

登壇者紹介

大島啓司氏(以下、大島):セッション4は「通常のIR・SRの枠にとどまらない、ステークホルダーとの効果的なリレーションシップとは」というテーマについてです。僭越ながら、私がファシリテーターを務め、広義のIR・SRについて、いろいろな観点で自由にお話ができればと思います。よろしくお願いします。

はじめに、お三方の自己紹介です。まず、株式会社ミンカブ・ジ・インフォノイド執行役員の後藤さん、お願いします。

後藤亘氏(以下、後藤):ミンカブ・ジ・インフォノイド執行役員の後藤でございます。ミンカブ・ジ・インフォノイドでは、主に株式情報サイトの企画などを統括しており、コンテンツやデータ面の管理などを行っています。そのため、個人投資家の方々にサイトをご利用いただく機会が非常に多いです。本日はそのような経験をもとにお話しできればと考えています。よろしくお願いします。

大島:続きまして、ログミー株式会社CROで「ログミーFinance」統括の秋元さん、お願いします。

秋元洋平氏(以下、秋元):みなさま、はじめまして。秋元と申します。私は決算説明会の書き起こしメディア「ログミーFinance」の立ち上げから今まで、責任者として関わってきました。

「ログミーFinance」は、機関投資家と個人投資家の情報格差をなくすことや、企業のIRの目的である企業価値の向上のため、新たな投資家とのマッチングを目指して運営しているサービスです。多くの発行体や投資家のみなさまとコミュニケーションを取る機会がありますので、その中で得た考え方や、私たちの考え方などをシェアできればと思います。よろしくお願いします。

大島:それでは、ファンズ株式会社取締役CFOの笹嶋さん、お願いします。

笹嶋靖史氏(以下、笹嶋):ファンズ株式会社CFOの笹嶋です。私はCFOに加えて、事業開発も担当しています。

ファンズは上場企業が擬似的な個人向け社債をオンラインで発行できるサービスを提供しています。個人投資家に対して上場企業が組成する投資商品を提供していますので、企業の資金調達だけでなく、マーケティング効果やIR効果、認知向上なども付加価値としてご案内しています。

私自身、外資系証券会社にて10年以上、資本市場に対峙していましたので、そのような経験も踏まえて、本日はお話ができればと思います。よろしくお願いします。

IRとSRについて

大島:さっそくですが、さまざまなバックグラウンドを持つお三方に集まっていただきましたので、幅広くお話ができればと思います。みなさまの自社のサービスやご経験を踏まえて、自由にご回答いただければと思うのですが、このセッションのタイトルにもあるとおり、IRとSRについてお話しできればと思っています。

これまでのセッションでもお話があった、株主総会寄りのシェアホルダーリレーションズ(SR)について、それから、ここではステークホルダーリレーションズの観点でお話ができればと思います。

広義のSRとは、IRとシェアホルダーリレーションズ、またPRに関しても答えがあってないようなものですので、担当者や管理管掌役員の方も「他社ではこれをしているけど、何をすればよいのだろう?」と迷っている方もいると思います。このあたりについて、みなさまならではの知見やご意見をお持ちだと思いますし、視聴者の方も聞きたいところだと思いますので、順番にお話をうかがっていきます。最初に、後藤さんからお願いしてもよろしいでしょうか?

後藤:私は、基本的には個人投資家向けのサービスを統括していますので、発行体側のIRやSR担当の方と直接接することはありません。ただし、ミンカブ・ジ・インフォノイドはIR・SR向けサービスも展開していますので、社内の担当者と意見交換することはあります。

その中で感じるのは、個人投資家の方は非常に勉強熱心な方が多いということです。そのため、究極的には、企業側が自分たちの事業・業績がどのようなものであって、どのようなビジネスを展開していて、何を目指しているかを丁寧に説明していけば、個人投資家は自ら企業を見つけてくれるのではないかと思っています。

我々はデータやニュースといった情報を、猛烈な勢いでひたすら流すようなサイトを構成し、サービスを提供しています。個人投資家のみなさまはそれらをすべてチェックして、その中から「これだ」と思う企業を見つけることに対して、ものすごく熱心です。

上場企業である以上は、規模にかかわらず、適時開示情報伝達システムやWebサービスに必ず決算短信が掲載されますので、「我々はこのような素晴らしい事業を行っています」「ここに向かっています」ということを丁寧に説明すれば、必ず見つけてもらえると感じています。

その中で、決算短信をなるべくわかりやすく書くなどの工夫は大事ですが、基本的には丁寧かつ正直に、一生懸命に事業を展開していると説明することで、自然と見つけてもらえるという、ある意味幸せな状況にあるのではないかと考えています。

大島:ありがとうございます。まさにミンカブ・ジ・インフォノイドのサービスも含めての見解ですね。

秋元さんは「ログミーFinance」を運営する中で、多くの企業の情報を常にご覧になっていると思うのですが、今のお話も踏まえてどのようにお考えでしょうか?

秋元:まず、IRとSRの違いとして、SRはステークホルダーリレーションズですので、大きな、また多くのターゲットを指していると思います。そして、その中の1つとしてIRがあると私は解釈しています。

各社でIRがなかなかうまくいかないのは、IRの多くが数字と事実だけになっており、温度感が感じられないためだと思います。例えば、その数字がどのような因果関係や背景によって導かれたのか、その事実がどのように作られていったのかということを、もう少し丁寧に説明していくと1つのストーリーになると思っています。

そして、そのようなストーリーには温度が発生すると思っています。その時に、ビジョンやミッションを同時に説明してくれると、初めて響きやすくなる状況が作れると思っています。それがまさしくSRだと思っています。

IRとして発信する内容にそのようなストーリー性を持たせることによって、投資家や株主以外の方にも、例えばセールスマーケティングや採用のターゲティングをしている方たちにも響くようなメッセージになると思っています。そのようなエッセンスを入れることによって、IR自体がもっと活性化されるのではないかと考えています。

大島:ありがとうございます。まさにそのとおりですが、その難しさについても後ほどお話ししたいと思います。

笹嶋さんも、ファンズもしくはゴールドマンサックスで、さまざまな規模の企業との接点があったと思うのですが、どのようにお考えですか?

笹嶋:これは非常に深遠な問題で、「その企業がなぜ上場したのか?」という、根源的な問いかけに近いと思っています。企業それぞれにいろいろな上場の背景があると思います。例えば、VC(ベンチャーキャピタル)から言われて上場しなければいけなかった、資金調達のために上場した、もしくは、「別に上場しなくてもよいが、ステータスが欲しいから上場した」という企業もあると思います。

企業は何のために上場したのかを問い直して、例えば、資金調達のためならIRに重きを置くべきですし、認知向上や社会的なステータスを目的としていたのであれば、SRにフォーカスするといった検討をすべきです。いずれにせよ、目的意識をある程度はっきりさせたほうがよいと思っています。

先ほど、秋元さんのお話にもありましたが、IRがうまくいっていないという会社はけっこうあります。各社の「上手なIR」の定義がふわっとしていると感じています。

IRの目的として「単に株価を上げたい」という発想が課題を生んでいると思っています。「株価を上げたい」と言っている会社でも、今の株価が実は割高という時もあります。また、短絡的に株価を上げようとして自社株買いを繰り返す結果、流動性がどんどん落ちてしまい、かえってバリュエーションがつかないこともあります。

まずはIRやSRの目的をきちんと定めた上で、今の状態をチェックする必要があります。そして、それに合った処方箋を出すというステップを踏むのが大事だと思っています。

専門人材の確保について

大島:ありがとうございます。まさにそのとおりですが、例えば笹嶋さんをアドバイザーに迎えられる企業もあれば、そうではない企業もあります。一番よいのは笹嶋さんのような専門人材が内部のCFOにいることですが、そのような人が何人いるのかというリソースの問題もありますし、どのくらい金額がかかるのかといったコストの問題もあります。

ここでみなさまにお聞きしたいのは、社内・社外で人材確保がうまくいっている例はありますか? 言える範囲で構いませんので、秋元さん・後藤さんも含めて、ご意見ありますでしょうか? 例えば「会社名は言えないけど事例はある」「この規模の企業にしてはうまくいっている」「アメリカでうまくいっている事例がある」などのお話が聞ければと思います。

笹嶋:IRの視点に寄ってしまいますが、2つあると思っています。

1つは、人材の属性という観点では、海外企業ではIRが営業に比較的近いです。

海外企業のプロフェッショナルなIR担当者は自社の株式を売っている感覚を持っている気がします。「自分の会社を買うべきポイントは、市場のニッチな部分でのトップシェア、安定的な収益性、事業の成長性の3点です」などと簡潔にわかりやすく説明して買ってもらうようなマインドがあると思っています。一方で、日本では特に大企業に起こりがちなのですが、売り込むというよりは、説明しつくすという感覚で、すべての項目をまんべんなく説明してしまい、結局のところ投資家にとって魅力がわからないということが発生している気がします。

2点目は、専門人材の確保という観点では、経営陣や取締役の方々がIRの重要性を認識していることが大事だと思っています。これはSRでも同じだと思います。

経営陣が目的意識を持って、きちんと発信していくべきと考えるようになると、「このような市場対話経験がある人が必要だよね」という判断になります。雇うのは難しくても「そのような人をアドバイザリーボードに1名入れよう」となったり、または取締役の構成表でも「金融に強い人を配置しよう」という動きが出たりするため、やはりマネジメントの意識改革から始めるのが非常に大事だと思います。

大島:ありがとうございます。まさにストーリーというところにもつながり、一方で実務的な視点もあると思います。今のご意見に対して、秋元さんはどのように思われますか?

秋元:我々と関わりのある企業において、IRをされる中で積極的に機能しているケースとしては、マーケティングやセールス出身の方が多いという特徴があります。ですので、笹嶋さんがおっしゃったことには同意します。

反対に、うまくいっていない企業の方々のバックグラウンドとしては、バックオフィス系の方が多いということも言えると思います。実際にものを売ることや、自社のプレゼンテーションに関して、得意な方の割合が少ないといった印象がありました。そのあたりの人材配置を戦略的に考えていくと、日本のIRも変わってくるだろうと感じています。

IR活動における企業側のポイントについて

大島:一方で、うまくいっている企業は「もともとの業績がよい」「プロダクトがよい」といった本質的な問題もあるのかもしれません。数多くの企業を見てきた後藤さんならではのご意見をおうかがいしたいです。

後藤:私は、機関投資家だから触れられるような特別な資料のようなものではなく、一般の個人投資家と変わらないレベルの誰でも見ることができるデータや開示資料などを通じて、各企業を見ています。その中で、日本とアメリカの企業の開示資料を見ていると、基本的には日本の制度はよくできていると感じています。しかし反対に、開示資料の書き方については「この点ではアメリカのほうがいいな」と思うところもあります。

日本は、事業内容と業績を伝えることについては非常によくできているのですが、株主還元で何をしているのかという部分では、アメリカ企業と比べると分量が少ないと感じます。例えば配当による還元などは、この10年ほどで日本企業も全体的に高水準になってきていると思いますが、米国企業の開示資料などを見ていると、物量的には業績のほうが多く書かれているのですが、熱量的な観点では、株主に対してどれだけ還元できたのかという部分に関して、業績と同じくらいの比重で書いているという印象を強く受けます。

日本企業の開示資料は今でも素晴らしいものが多いですが、さらに株主還元について書き加えるとよりよくなると思います。開示資料を読んだ投資家とのコミュニケーションについては、すべての企業がすぐに対応できるものなので、それを実践していくとさらによい結果になるのではないかと感じています。

大島:ありがとうございます。数多くの企業をご覧になっている点を含めてのご意見ですね。

後藤さんのお考えを踏まえて、笹島さんにもお聞きしたいと思います。笹嶋さんもファンズのお客さまで上場したばかり、または規模が大きくないものの知名度があって今後伸びていくような企業を見てきていると思います。

配当前にグロースしていく、あるいは配当を後にするといったモデルがアメリカにもあると思います。このような企業に対して、どの程度まで書けるのか、書けないのか? また、「嘘を書いてもよいけど毎回書くの?」といった話があると思います。これまでの経験を含め、どのようにお考えですか?

笹嶋:こちらについては、会社の規模やステータスによって、伝えるメッセージは大きく異なると思います。

いわゆるスモールキャップ、ミッドキャップと言われるような時価総額500億円を切る会社だと、基本的には個人投資家にいかに買ってもらえるかが重要になってきます。この領域はWebマーケティングや個人向けマーケティングに近いアプローチかなと思っています。

一方で、時価総額1,000億円を超えてくるラージキャップ企業になると、機関投資家に伝わる言葉で説明しなくてはならないため、ステージによって大きくパターンが変わってくると言えると思います。

ファンズのお客さまに関してお話ししますと、これから成長していく企業が多いですのでエクイティストーリーをきちんと描けるかが大切になります。今後どのように事業を伸ばしていくのか、どのような未来を描けるのかを訴求していくのは大変重要です。

ただ、この規模の企業群にとっての最大の課題は流動性だと思います。マーケットで売買されなければ適正な株価が付かないため、素晴らしいストーリーがあってもなかなか評価がされない状態となってしまいます。

投資家の目に触れるところで、きちんと売買がされる状態にすれば、おのずと業績に伴って適正な株価が付き、結果として時価総額が500億円に達すると、今度は機関投資家が買いやすくなります。

大株主が株式の6割から7割持っている場合、株価が一度下がってしまうとアクションの取りようがなくなってしまいますので、早いタイミングから流動性を上げる施策にフォーカスしたほうがよいと思っています。

大島:秋元さんは、御社のサイトに記事掲載している企業で、これまで知名度がなかった企業が「ログミーFinance」を使ってグロースし、例えば2年くらいのお付き合いの中で、いつの間にか大きくなっていたというケースはありますか?

「あのお客さまを育てました」とまでは言わないものの、長く事業を見ている中で、御社で記事掲載される企業にそのようなところはありましたか? それとも、現実にはそうでもなかったりするのでしょうか?

秋元:我々は、お客さまの業績と株価の推移について、そこまで深くは追いかけていないため、因果関係までは見えていません。しかし、Webマーケティングの視点で言うと、コーポレートサイトに来られる方のページビューと、我々の記事を見られた方のページビューでは、10倍近くも多いというお話をよく聞きます。それに関しては一定の評価をいただいています。

これはお客さまの独自の調査では、我々の記事が公開されてから1週間くらいで、出来高が上がっているという事実がありました。やはりWebマーケティングとしてしっかり情報を出していきながら、露出を高め、インフレーションを増やしていくことは重要だと考えています。

Webマーケティングについて

大島: Webマーケティングという観点では、多くの方がミンカブ・ジ・インフォノイドの運営する「みんかぶ」や「株探」を思い浮かべると思います。

あくまでも中立性があるものと思いますが、後藤さんがWebマーケティングを伸ばそうとした時、あるいは、ある企業が一度「株探」を離れてしまった時に、何かしらの手段を講じることがあると思います。

もちろん「ログミーFinance」を使うといった選択もありますし、IRやSRのステークホルダーリレーションズでWebマーケティングが外されることはないと思いますが、そのようなWebメディアを除いた上で、何が一番必要で、何をすればよいのかということを考えるのは難しいと思います。そのあたりは、どのようにお考えですか?

後藤:どのような企業でも年4回は決算発表が必ずあります。つまり投資家とコミュニケーションを取る機会が4回もあるわけですので、その4回を、どのように活用するのかが大切だと考えています。

四半期ごとの発表では煩雑すぎて大変だという見方もあるかもしれません。しかし、コミュニケーションの機会と捉えると、3ヶ月に1回はかえって少ないとさえ感じてしまう面もあります。はじめに投資するきっかけは業績がよかったから、ということが多いかもしれません。仮に業績面でアピールできる要素が少なかったとしても、投資家に資料を見てもらえる機会にはなるわけですので、その機会を最大限に活用するために何をすればよいのか考えることは、とても大切なことだと思います。

当社がみんかぶや株探で提供している決算情報や、あるいは他社から提供されている上場企業情報などはすべてチェックするという熱心な投資家の方は多いです。そのため、決算発表という必ず存在する機会を最大限活かすのがよいと思います。

大島:Webマーケティングについてのお話がありましたが、今回のSharely Dayのようなオンラインセミナーなどはぴったりではないかと思います。その一方で、オンラインセミナーは若い投資家へのリーチはよいですが、高齢の投資家にはリーチしづらいと思います。

若い投資家が増えてきたと言っても、比率や投資額を見ると、正確ではありませんが、過去の情報ですと8割が定年退職された方や高齢者です。だいぶ若手にシフトしたと言っても、資産を持っている、株に馴染みがあるといった20代は少なく、やはり高齢者の層が厚いというのが現状です。

株式投資をしている60代、70代、80代というのは、今どきはスマートフォンも使いますし、Webマーケティングも見ることが可能ですが、実際、本当にオンラインを使っているかというのが気になります。また、オフラインの導線は大事なのかということについて、みなさまの意見をお聞きしたいと思います。笹嶋さんはどのような考えですか?

笹嶋:従前は、証券会社の営業マンが投資家の自宅を訪ねて「この銘柄が買いですよ」という話を通じて販売していたと聞いています。しかし、最近では、先ほどのWebマーケティングの文脈にも通じますが、投資系インフルエンサーの影響力が大きくなっていると感じます。

個人ブログやInstagramでいろいろな知識を配信されている方もいます。その意味では企業側もインフルエンサーが取り上げやすいような仕組み・材料を提供することも、大切になってきているのではないかと思います。タイアップの難しいインフルエンサーもいると思いますが、注目して取り上げてもらえる材料を、積極的にご案内していくことは大事だと思います。

手前味噌になりますが、私のファンズでの事例を出すと、おもしろい案件が出ると個人投資家は結構注目してくれます。「こんな銘柄があったのか」「商品は知っていたのに、会社名は知らなかった」と企業情報を調べたりするケースも多く、結果として1割から2割の方が株を買ったケースもありました。

やはり、興味を持ってもらうきっかけをいかに作るかというのが、スモールキャップ、ミッドキャップにおいては特に大事だと思います。

大島:秋元さんは、オンラインのサービスを提供されていますが、これまで長く業界を見てきた立場として、オフラインや投資層の高齢化といったあたりについては、どのように思いますか?

秋元:まずは企業として、どのような投資家を獲得していきたいかというターゲティングを明確にするべきだと思っています。例えば、対個人投資家という観点でも、現役世代が多いのか、それとも高齢者が多いのかを把握した上で、手段を考えるのがよいのではと思います。

そういった手段として、オンラインとオフラインのどちらが有効なのかという点が1つあります。また、オフラインについてですが、コロナ禍前までは、我々もオフラインで個人投資家向けのIRセミナーをたくさん開いてきましたが、やはり熱量の高い方がたくさんいらっしゃいます。

彼らは、笹嶋さんが先ほどおっしゃっていたような、インフルエンサー的な役割も担っています。熱量が高いため、セミナーの満足度が高いと「Twitter」ですぐにシェアしてくれます。彼らの中には数千人のフォロワーがいるケースもありますので、どんどん情報が拡散していくかたちとなります。

オフラインはマーケティングにおける1つの仕掛けであり武器としつつも、現状としてはオンラインを軸に戦略を考えていくことが1つの解ではないかと思います。

質疑応答:スモールキャップ、ミドルキャップ企業のIRについて

大島:今の話題に関する質問がきていますので、読み上げます。「スモールキャップ、ミドルキャップの企業は、事実や実績を伝えることを真摯に行い、マーケティングを活かして、ストーリーも生み出すということがIRでは比較的重要になるのでしょうか?」という質問です。

言えないところもあると思いますが、うまく取り組めている企業や業種、規模などを教えてください。また、「このような会社が中立的なものを行っている」というように、何か思いつくことはありますか? 後藤さんはいかがですか?

後藤:決算短信と同時に、決算説明会の資料など、より詳細な説明資料を出している会社もあれば、出していない会社もあります。やはり出している会社のほうが目立ちますし、資料がよく読まれている印象があります。

私も決算短信を山のように読みますが、できのよい資料が付随していると、そちらのほうを最新のものだけではなく、過去のものまで遡って読みます。ですので、そのようなプラスアルファの資料を提供する方法があると思います。

大島:笹嶋さまは何かありますか?

笹嶋:完全に当てはまるものはないのですが、「うまいな」と思ったのは我々のお客さまでもあるユーグレナさんです。彼らは夢、つまり将来のビジョンとして「バイオ燃料を作ること」があり、そのための開発費としてファイナンスを行っています。

その結果、企業の時価総額対比では非常に多数の個人株主を有しています。当然、株主優待の健康食品がもらえるなど、理由は他にもあるとは思いますが、企業から投資家に対して「パッションを伝えられている」という点では、戦略がうまく働いている事例ではないかと思います。

大島:確かに時価総額に対して個人株主数が多いですよね。当社も株主総会のビジネスを行っているのですが、昨年は日本で「バーチャルオンリー総会」が実施できるようになった際に、国内で開く臨時総会の第1号になりました。狙ったかどうかは別として、全体的なストーリーとしては、ある意味リレーションシップとなっています。

秋元さまも株主総会をこれまで数多く見ていると思うのですが、何か思いつくことはありますか?

秋元:「このコンテンツ素敵だな」と思ったのは、上場した際にfreeeさんが作成した動画が、非常に魅力的で印象に残っています。動画には、会社のミッション・ビジョンからユーザーボイスまで入っていて、財務状況や直近のマーケット情報、業績も網羅した上で、ストーリーがきちんとできあがっていました。登場人物も多く、非常によい動画だったと思います。検索すれば出てくると思うので、みなさまにも一度見てもらいたいと思います。

もう1社「うまいな」と感じたのはサイボウズです。「サイボウズだからできるのだろう」という話になるかもしれませんが、ファンコミュニティを作って、ファンマーケティングを行っているところがうまいと思います。

株主総会なども1つのファンコミュニティの場としてうまく活用しています。株主を登壇させて、意見を言わせて、それらをいろいろと吸い取ってサービスに反映していくところや、株主に対しても「自分たちのサービスをよいと思うなら、みんなに広めてね」という要求を積極的に行っているのが「うまいな」と思います。

大島:そのとおりですね。みなさまも、今お話に出てきた企業名がわかると思います。もちろん「CMを放送しているから」という点もありますが、ストーリーや商品をについて「知らないよね」とはなりません。

例えば、freeeはGoogle出身の方が立ち上げており、ユーグレナのトップは東大を出て起業しています。やはりトップの学歴は関係しているのでしょうか? それとも、必ずしも学歴などは関係ないと思いますか?

もしかすると、トップがそのような思考でなければ、担当者として優秀な方が入社しても続かなかったり、今出てきたようなサービスを使ってもらえなかったり、そのような何かがある気がします。ここにいるみなさまのサービスも普及しないということもあるかもしれません。

秋元:回答になるかどうかわかりませんが、先ほどお話ししたように、サイボウズがなぜ株主総会でそのようなことを行い始めたかと言いますと、経営層が「また株主総会だ」と思うこと自体が「イヤだ、つまらない」と言ったところから始まっています。

みなさまにとっても、株主総会はどちらかというと義務として実施しなければいけないこと、「チャンチャンで終わらせたい」というところがあると思います。サイボウズでは「そのような既成概念にとらわれずに、もっと株主総会というものをポジティブに、何かよいものとして使える方法はないか」という発想によって、今のかたちになったようです。そのような柔軟性やポジティブ思考が、非常に重要なのかもしれないと感じています。

笹嶋:おっしゃるとおりです。サイボウズのほかに、スノーピークも当てはまりますね。トップが株主のことを「説明しなくてはならない上の人」ではなく、どちらかといえば「会社を応援してくれる仲間」であり、積極的に意見を聞きたいというスタンスでいます。むしろ「そのような人たちに知ってほしい!」というパッションが非常に強いのです。そのようなマインドセットが非常に大事なのかもしれません。

大島:たしかにそうですね。先ほどのインフルエンサーのようなファン作りもそうですが、「営業がうまい」「マーケ出身」という条件が、結果的には認知につながっています。認知を高めるためにいろいろなサービスがあり、あとは「どう使うか?」ということですよね。

質疑応答:IR・SR活動の具体的な取り組み方について

大島:もう1問、違う観点での質問です。今回のSRのステークホルダーの活動やIRの活動では、当然ながら大抵は費用が発生します。内製化できればよいのですが、なかなか難しいと思います。そのようなときにパフォーマンスを可視化すると、「株価が上がったけれど、偶然ではないか」と捉えられたり、「株価が上がったけれど、一瞬なら意味がない」と言われたりします。

また、可視化が難しい背景として、例えばある社長が「利益にならないから、そのようなものはダメですよ」といって対応しなければ、結局何もできなかったり、活動もできなかったりすると思います。

これを推進させるためには、ここにいるみなさまのサービスを使ったり、活用したり、オプションを選択するなど、具体的にはどのように取り組めばよいのでしょうか? アメリカのフォースマジュールの事例など、何か知見があれば教えてください。

笹嶋:最初にお話ししたように、私はやはり経営陣の方々、あるいはアドバイザリーボードのような方々が「それが極めて大事なんだよ」ということを啓蒙するのが本当に大事だと思っています。株価はIR活動だけのものではないので、そのコストを可視化することはできませんが、だからといってKPIを株価に置いてしまうと実現は難しくなります。

スモールキャップ、ミドルキャップであれば「流動性をここまで引き上げるためには、このような手を打っていきましょう」というアクションプランを作り、そのために必要な経費を提示することが大事です。

また、1,000万円の費用をかけた結果、200億円の会社が300億円のバリュエーションになるのであれば、それは費用対効果は非常に高かったといえます。

マーケットからディスカウントして見られているという判断であれば、適正な株価形成のための、必要なアクション費用だと経営陣に説明して、それを理解してもらうことが必要だと思っています。

大島:未来は見えませんが、ストーリーは作らなければ進まないということですね。後藤さんはそのようなときに備えて、いろいろな企業や経営者を見たり、分析したりしていると思うのですが、うまくいっている企業はどのように取り組んでいるのですか? 例えば、先ほどお話ししていたように、社外取締役にアドバイザーを入れているのでしょうか?また、アドバイザーの数は限られるので、取り合いになることはあるのでしょうか? どのようなことが必要なのかを簡潔に教えてください。

後藤:SR・IR部門と直接接しているわけではないため言えることは限られますが、私の経験した範囲でお話しします。1つは、かつて私が所属していた新聞社で見聞きしたことです。元記者で、企業の広報やIR部門に転職した方がけっこういるのですが、その後にうまくいっているかどうかは「人による」としか言いようがありません。

ただ、取材や、何かを発信した経験を持っている方を、IRやSRに取り入れる企業は、ある程度あると捉えています。

また、先ほどの繰り返しになりますが、すべての企業に用意された手段である決算発表に伴う資料だけは、誰かしらが絶対に必ず何かを書く場になっています。そのため、「これをいかに活かすか」というところは考えられると常に思っています。

大島:今回のテーマは、このメンバーで話しても、他の方が加わって一生話したとしても、答えは出ないと思います。そのような答えがないところを、うまくお話しできたのではないでしょうか。

今回は、たまたまご縁があって登壇が実現しました。当然、当社と「ログミーFinance」で連携したり、ミンカブ・ジ・インフォノイドと連携したり、ファンズとも今準備を進めたりしています。

しかし、そのような狭い観点ではなく広義のSRの観点で、縁あって今回見ていただいた視聴者のみなさまにも啓蒙できていればと思います。別に「アメリカに追いつけ、追い越せ」ということではありませんが、すべてのベンダー、企業、株主が幸せになれることが、おそらく登壇者のみなさま、そして当社を含めた登壇者にとっても幸せだと思います。

ご挨拶

大島:最後にみなさまから一言ずつ感想をお願いします。もちろん自社サービスのお話でもけっこうです。

笹嶋:私の個人的なミッションは「日本の資本市場を機能させて、国内の成長産業にきちんとお金が回る仕組みを作る」だと思っています。それがファンズであれ、いろいろな会社のお手伝いであれ、さまざまな取り組みで実現していきたいなと思っています。何かあればいつでもご連絡ください。

後藤:私どもは、個人投資家の方々に情報を提供することで、みなさまに本当に幸せになってもらいたい、投資で成功してもらいたいと思い、日々サービスを提供しています。そのためにも、上場企業にはよいサービス、よい事業を展開して、それが必ず伝わるようなかたちで投資家の方々とコミュニケーションを取り続けていただきたいということだけを願っています。本日はありがとうございました。

秋元:今まさしく国が「貯蓄から投資へ」というメッセージを出していると思いますが、その役割を大きく担っているのが、今日ご参加のみなさまで、非常に社会的意義が高いポジションについておられると思っています。

「IRの費用効果は何なの?」、あるいは「やりたいことができない」というように難しいことが非常に多くあると思います。しかし、必ず取り組んでいかなければならいことで、そこに大義はあると思っています。一緒にこの業界を盛り上げていきたいと思っていますので、引き続きよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました。

大島:ありがとうございました。ご視聴者の方々、ご登壇者の方々、みなさま本当にお疲れさまでした。ありがとうございました。引き続き、ぜひよろしくお願いいたします。

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