米ドル下落、新興国株しっかりの1週間

先週(2017年5月15日-19日)の世界の株式市場は、日米欧の株式市場が軟調となりましたが、新興国株はおおむねしっかりの展開でした。主要市場の週間騰落率は、現地通貨ベースで上海総合が+0.2%、米S&P500が▲0.4%、独DAXが▲1.0%、TOPIXが▲1.3%となりました。

トランプ米大統領のロシアとの疑惑である「ロシアゲート」に注目が集まりましたが、市場の動きは次のように整理できるでしょう。

第一に、米国景気の先行きに警戒を示す材料が散見されました。米国では4月の鉱工業生産指数と5月のフィラデルフィア連銀製造業景気指数はしっかりでしたが、4月の住宅着工件数、5月のニューヨーク連銀製造業景気指数が予想を下回り、さらにフォードのリストラ観測などが持ち上がりました。

第二に、この基調に重ねてロシアゲートが注目を集めたため、今後の米国の経済政策に対して不透明感が強まりました。米株の下落率はさほどではありませんが、VIX指数(いわゆる恐怖指数)が反発し、米国の長期金利が急落しています。また米ドルも対円で▲1.8%下落、対ユーロで▲2.5%下落しました。ユーロドル相場はトランプラリー以前の水準まで戻ったことになります。

第三に、米国発のこの動きは世界的なリスクオフにはつながりませんでした。原油価格はOPECを中心とした生産調整の継続期待で上昇し、商品市況は全体としてしっかりでした。株式市場でも英国をはじめ、インドネシア、ベトナム、インド、タイなどの新興国株は上昇していますし、日欧の株価も“ドルベース”で見れば小幅ながら上昇しています。個別銘柄でも、エヌビディアが続伸し、テンセント、ウォルマート、ディアが決算を好感してしっかり上げています。

なお、ブラジル株は大統領の汚職隠蔽指示疑惑などから急落しています。しかしこれが他の市場に悪影響を広げませんでした。

アウトルック:米予算教書、G7を睨む週に

今週(2017年5月22日-26日)は、米国の予算と通商政策のゆくえを探る週になりそうです。23日に予定される予算教書が、減税効果、財政見通しの面で多くの議員を納得させる内容かが問われることでしょう。また26-27日のG7首脳会議において、通商政策や為替についてトランプ大統領と他国との協議がどうなるかも気になります。25日のOPEC会合も目が離せません。

経済指標の面では欧州が自律的成長を続けているのか、米国の景気は足元一進一退なのかが気がかりです。EUの5月の製造業購買担当者景気指数、サービス部門購買担当者景気指数、ドイツの5月IFO企業景況感指数、6月のGfK消費者信頼感調査、米国の4月耐久財受注などに注目が集まりそうです。

マクロ面ではトランプ政権のゆくえなど不確定要因が残りますが、先週の決算銘柄であるアプライド・マテリアルズ(AMAT)、ホーム・デポ(HD)、ウォルマート(WMT)、ディア(DE)などには見るべき点が多かったと思います。世界景気がしっかりしている限り、米国の政治リスクは残るものの、世界株の熱量は低下せず、欧州株や新興国株を中心に引き続きしっかり推移する展開を予想できそうです。

椎名 則夫