「空気が読めない行動は困る」「行間を読み取って」、こういった言葉をよく耳にしませんか。一体何をすればよいのかと悩んでしまうような抽象的な言葉でもあります。今回は東証1部上場企業の部長経験もある50代のビジネスマンに、空気を読む力の必要性や若手に対する思いなどを聞きました。
若手が空気を読めないのは仕方ない!?
――ビジネスマン、特に若手に空気を読む力は必要でしょうか。
「必要ないですね。若手は無理に空気を読まなくたっていい」
――断言ですね。でも空気を読めない行動をする部下や指示通りのことしかしない部下は困りませんか?
「まず、空気を読むというのは顔色を伺ったり媚びたりすることではありません。仕事を円滑に進めたり足りない点を補うために、見えないものを形にする、あるいは最適なタイミングを見極めることだと私は思っています。でも、これって情報量の裏返しなんですよ。
やる気のあるなしは別として、若いうちは情報の絶対量が足りないですから、読めないことがあるのは当然なんです」
――情報量というのは?
「知識や経験、人間関係などの掛け合わせです。だから人によって濃さが違います。無理に読もうとすると、単なる想像というか妄想になってしまいます」
――経験の数だけでなく情報量の差を埋めようと努力する人と、そうでない人でも差がつきそうですね。上司の立場からすれば辛抱強さも求められてくると思いますが。
「初めは失敗しても構わないと思っています。失敗も本人にとっては情報の蓄積になりますから。それから、紅白戦、オープン戦、公式戦とステップを踏ませるようにします。一戦一戦で結果を積み重ねることで、レギュラーに定着し、やがてエースと呼ばれるようになってほしい。
だから私は、若手のうちは要領が悪く感じられても確認しながら、時にしくじりながら経験を積んで、情報量を増やすことに努めるほうが重要だと思います。
もちろん、初めてのことでも下調べできることはすべきです。たとえば、初めてお会いするお客様なら会社概要やお客様の経歴などをわかる範囲で調べるとか。まあ、これとて赤っ恥をかいてその必要性を学ぶこともあるわけですが…」
空気を読めない発言を繰り返す人の心理
――では、会議や取引の現場における発言で「空気を読め」と怒られるケースはどうでしょう。「今それ言う?」「そこまで言っちゃう?」とびっくりするような発言に驚くことはありませんか。
「それも結局は情報量だと思うんですよ。たとえば、人前で絶対意見を変えられない人が相手だったとしても、それはその人となりを知らなければわからないですし。教えてもらってないことや知りえなかったことで失敗してもどうしようもないでしょう?」
――でも、いわゆる空気を読めない発言を繰り返す人もいるわけで…。
「そういう人って『俺は知ってるぜ、わかってるぜ』といったひけらかす気持ちや、『ねじ伏せてやる』というような気持ちが見え隠れしていませんか? これは若手に限らずベテランにもありがちです。自分を押し出すことに夢中で空気というより『場』そのものを大切にできていないんですね」
できるビジネスマンは空気を読んでいるのか
――空気が読めない=気が利かないと考えて悩んでいる若手がいるかもしれません。
「ちょっと気の利く同僚を見て焦る気持ちはわかります。彼らはよく周囲を見ていて、それが情報量の差になっているんでしょうね。良い点は見習うといいと思います。でも、10年20年先を考えたとき周囲に気を遣いすぎるタイプの空気の読み方ばかりしているのは好ましくありません。周りに合わせることしかできずに自分の意見がない人になる危険性があります。
できるビジネスマンをめざすなら、しつこいようですが若手が今できることは情報量を増やすことです。業務に関する知識だけでなく、話し方、あいさつ、プレゼンの方法も磨く。接待や飲み会にはコミュニケーションのヒントが転がっているかもしれません。いろんな場面を学びにしてほしい。
情報が蓄積されてくると一つのゴールを目指すのにも様々なパターンが想像できるようになります。明示されていない情報や背景も含めて吟味して、そこから最善の方法を選ぶ。それが空気や行間を読むことの本質だと思います」
――できるビジネスマンになるには、やはり空気が読めるほうがいいんでしょうか。
「ビジネスマンに求められる空気を読む力というのは、その場の雰囲気に迎合する力ではなく、課題を解決するために見えないものを可視化したり最適なタイミングを見極める力です。
私が見てきた限り、仕事ができるビジネスマンが空気を読むのは、ビジネス上自分にも相手にも最善だと判断したプランをできるだけ障害なく実行しようとするときです。そのために彼らはとても勉強しています。
もし空気を読むのなら、その力はぜひお客様の課題を解決するために使ってほしいですね」
――本日はありがとうございました。
LIMO編集部