裸一貫でマレーシアへ渡った若者はいかに成功をおさめたのか
マレーシアの大富豪というから華僑の話かと思えば、そうではない。本書の主人公は小西史彦氏。24歳のとき裸一貫でマレーシアにわたった後、ビジネスで大成功をおさめ、マレーシア国王から与えられる民間人として最高位の名誉称号「タンスリ」まで得た経営者である。マレーシアで蚊取り線香を広めた人物、というとピンとくる方もいるかもしれない。
本書は日本から小西氏を訪ねた編集者とのやりとりをもとにした25の人生訓から構成されている。インタビューのきっかけとなるやりとりがあり、それに基づいて小西氏の経験や考え方が語られるという筋立てだ。
なぜマレーシアだったのか。ほぼ無一文からどのようにして成功をおさめるに至ったのか。もちろん、はじめから順風満帆だったわけではない。むしろ苦難の連続だ。実際にすべてをあきらめて日本に帰国せざるを得なくなるほど追い詰められたこともあったという。しかし、それまでの努力や信頼関係が小西氏を救う。そして、自ら考え抜き、行動し、時には戦いながらさまざまな試練を乗り越えていく。
「持たざる者」の戦略を学ぶ
本書で語られるのは、小西氏のビジネスにおける信条やお金に関する哲学、家族との関係まで幅広いが、小西氏は自分が特別なことをしてきたわけではなく、平凡な人間が愚直に生きてきただけだと語る。しかし、誰でもできる当たり前のことを徹底すれば力強く生き抜くことができ、満足できる人生になるともいう。自分の意志で人生の選択をし、数多くの失敗から学び、磨き上げてきた彼ならではの言葉だろう。
一方、読んでいると「昔ながらの考え方ではないのか、今どきの若者にこの手の話が受け入れられるのだろうか」と思うときがあったのも事実だ。ただ、そうした場面では、実際にインタビューを行った編集者も同じように考え、疑問を口にしてくれる。読者自身がインタビューをしているような気持ちになって読み進めていけるので、それぞれのエピソードが頭に残りやすい。
本書は海外で成功した経営者の単なるサクセスストーリーではない。ここで語られる人生訓は「持たざる者」が成功するための戦略とも受け取ることができる。事業を始めて富豪になることを目指している人ももちろんいるだろうが、それだけではない夢や目標がそれぞれにあるはずだ。本書はこれからビジネスの第一線で活躍しようとする若い人々にも、自分の仕事に対する向き合い方を振り返ろうとする中堅以上のビジネスマンにも学びが多い一冊といえるだろう。
著者:小西史彦
出版社:ダイヤモンド社
単行本、304ページ
LIMO編集部