分社化の目的は第一義的には建業法対策
2017年4月18日、経営再建中の東芝がメモリ事業に加え、インフラ、エネルギーなどの主要事業を分社化する方向で調整に入ったと複数のメディアが報じています。
現時点では会社側からの正式発表はありません。ただ、3月14日に2017年3月期第3四半期決算の2度目の延期を決定した際の「今後の東芝の姿について」という説明資料に、国土交通省の「建設業法(以下、建業法)」の許認可を維持するために分社化を進める方針が示されていました、そのため、今回の報道に大きなサプライズはありません。
ちなみに建業法は、建設業を営む事業者に対して、主任技術者および監理技術者の設置や財産的基礎(健全な財務基盤)を有することを求める法律です(それがなければ、工事が途中で中断したり下請け企業への支払いが滞るなどの懸念があるため)。
また、建業法に関連する事業規模は、メモリ半導体や米国原子力事業などを除いた「新生東芝」の約25%、つまり1兆円程度であり、現在の許認可の期限は2017年12月までとなっています。
周知の通り、東芝は米国の原子力事業における多額の損失により債務超過状態に陥っており、メモリ事業の売却が年内に完了しなければ「財産的基礎」が不十分とみなされ、許認可を継続して取得することができないことになります。
分社化の狙いはそうした事態を回避するためです。具体的には、累積損失をホールディングカンパニー(持ち株会社)に集中させ、そこにぶらさがる建設業を営むカンパニーの純資産を国交省の審査基準に見合った状態とすることで、建業法の認可を継続して得ることです。よって、今回の分社化の第一義的な目的は、建業法対策であると捉えられます。
上場廃止時のリスクヘッジの可能性も
とはいえ、上記の3月14日付けの説明会資料では、分社を行う理由として、
- 自律した事業体としてガバナンス・リスク管理を深化するため
- コーポレートが東芝グループの企業価値最大化と経営管理強化に特化するため
という2つの大きな理由が挙げられていたことにも注意が必要です。
分社化の第一義的な目的は建業法対策ですが、それだけではなく、各事業の自律性を高めて経営スピードを速めることや、ガバナンス強化を図ることで経営再建を確かなものにするという目的も、当然そこには含まれていると考えられます。
さらに深読みすれば、万が一、東芝が上場廃止となっても、各カンパニーがそれによる混乱に大きく影響されずに事業が継続的に運営されることや、分社化されたほうが事業再編をスムーズに行うことが可能になるため、非上場会社になった場合の新たなスポンサー探しが容易になるという点も考慮されているのかもしれません。
東芝は、東証から特設注意市場銘柄に指定されており、内部管理体制が改善し、上場維持の適格性があるのかどうかの審査の途上にあります。
4月11日に2017年3月期第3四半期決算を、監査法人からの「意見不表明」という異例の形での発表を行ったこともあり、東証には「なぜ東芝に対してそこまで寛容なのか」という世間からの批判も出ており、予断を許されない状況にあります。
このように、分社化は上場廃止となった時のリスクヘッジの可能性もあると考えられます。
ホールディングカンパニー制(HD制)は万能薬ではない
最後に、今回の分社化の報道に関して、HD制への移行が必ずしも経営改革のための万能薬ではないことを指摘しておきたいと思います。
2000年代には、今回の東芝と同様にガバナンスや経営の自律性を高めるためにHD制へ移行する動きが広がりました。しかし、その後そうした制度を廃止した企業もありました。具体的には、富士電機(6504)やSCSK(9719)などです。
いずれも、HD制に移行したことで自律意識が高まるなどの一定の成果はあったものの、グループとしての求心力が低下したり、事業間の連携や人材交流が進まなかったりというマイナス面が大きかったことでHD制は廃止されています。
東芝の場合、新たに分社化されるのは社会インフラ、エネルギー、メモリ以外の電子デバイス、ICTソリューションの4カンパニーですが、HD制への移行後にカンパニー間の連携が十分に図れるのかが気になるところです。
いずれにせよ、東芝メモリの売却に成功し、分社化により建業法の問題などがクリアされたとしても、「新生東芝」には依然として乗り越えるべき課題が残ることになりそうです。
和泉 美治