投信1編集部によるこの記事の注目点
- セミコン・チャイナ2017の主な出展企業は、前工程ではファンドリーのSMICやXMC、HLMC、大型メモリー工場の建設を計画する湖北省武漢市のYMTC(長江ストレージ、長江存儲科技)、後工程ではOSAT(半導体の組立・検査の受託)のJCET(長電科技)や富通微電子、華天微電子など。中国企業だけで各工程をカバーする幅広い展示内容だった。
- 中国の半導体製造が大きく変わる可能性を秘めているのが、政府主導によるDRAMやNANDフラッシュへの製造参入計画であり、その最有力候補はYMTC。
- 今のところ日米韓台のメモリー企業のいずれとも提携関係は結べていない武漢メモリーPJの現状は、「パンをこねているだけで、どんなパンを作るか決まっていない。いつまでたってもオーブンに入れられず、コネコネしてるだけ」という状態。
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ジャパンの規模を超えるセミコン・チャイナ
半導体製造装置・材料の業界団体のSEMIが主催するセミコン・チャイナ展示会が、2017年3月14日から3日間、中国の上海市で開催された。先端半導体の国産化を推進する国家政策と2兆円超の金融ファンドの後押しで、最近は中国の半導体業界が活気を帯びている。そんな実態を目の当たりにした展示会場とカンファレンスの様子を現地からレポートする。
セミコン・チャイナは毎年開催規模を更新し続け、今年は過去最大規模の開催となった。出展ブースは3000小間(計6万m²)、出展企業は900社。7万人近くが来場した。開催前のSEMIの予想では「6万人超」だったが、実際はこれを大きく上回ったことからも、中国の勢いを感じる。会場内で出会った業界関係者のほとんどが、「今までにない人の入りだ。どのブースでも商談をしている人が多く、忙しそうだった」と答えていたのが印象的だった。
展示会場は例年どおり5館に分かれていたが、今年はそれでも足りなくなり、屋外に巨大なテントスペースが用意された。会場内を1日かけて取材して回ると、スマホの万歩計が優に1万歩を超える歩数をカウントし、いいダイエットになったと個人的に喜んでいた。
中国企業の展示がバージョンアップ
主な出展企業は、前工程ではファンドリーのSMICやXMC、HLMC、大型メモリー工場の建設を計画する湖北省武漢市のYMTC(長江ストレージ、長江存儲科技)、後工程ではOSAT(半導体の組立・検査の受託)のJCET(長電科技)や富通微電子、華天微電子などが出展した。
製造装置では、16年にセブンスター(七星華創電子股)と北方微電子が合併したノーラ(NAURA、北方華創微電子装備)など、PVDやCVD、拡散炉、エッチャー、洗浄装置などが展示・紹介された。部材では、シリコンインゴットとウエハー製造企業や薬液・ガスメーカーなど多種多様。中国企業だけで各工程をカバーする幅広い展示内容だった。
中国の半導体政策を解説したカンファレンス
注目したカンファレンスは「中国IC産業と技術、投資」のセッション。国家IC産業ファンドの丁文武総裁や清華大学微電子学研究所の魏少軍所長、半導体の国産技術開発プロジェクト(02号項目)メンバーで北京経済技術開発区の梁勝主任、装置と材料開発分野の中心人物である中国科学院微電子研究所の葉甜春所長などが各分野の動向を紹介した。中国政府が半導体産業に対して本気だという印象を強く受けた。
コネコネ状態のままの武漢メモリーPJ
中国の半導体製造が大きく変わる可能性を秘めているのが、政府主導によるDRAMやNANDフラッシュへの製造参入計画だ。その最大有力候補の企業がYMTC。スパンションから技術供与を受けたXMCの技術をベースに立ち上げが予定されているが、実際はYMTCに出資する清華紫光グループや中国ファンドらのウルトラCで海外メモリー企業との技術提携や合弁事業化が画策されている。
しかし、米国政府が中国に先端半導体技術を供与することに否定的なスタンスであることから、今のところ日米韓台のメモリー企業のいずれとも提携関係は結べていない。パートナーが決まらなければ、製品の仕様やプロセスが定まらず、プロセスがはっきりしなければ製造装置の選定もできない。このような具体的なゴールの姿が見定まっていない今の武漢メモリーPJの状態を、筆者は「パンをこねているだけで、どんなパンを作るか決まっていない。いつまでたってもオーブンに入れられず、コネコネしてるだけの状態」と業界関係者に説明している。今回、XMCのブースや半導体産業ファンドの知人に質問をぶつけてみたが、残念ながらまだ「パンこね状態」のまま、大きな進展は見られなかった。
中国ファンドは装置メーカーの買収も狙う
中国の半導体製造の国産化が進めば、中国政府は次の段階で装置や部材の国産化を推進してくることが予測される。一部の海外の装置・パーツ・部材メーカーは、中国の半導体工場の生産量が増えたら、中国で現地生産する必要が生じるだろうと考えている。しかも、中国政府がSMICなどの中国企業に対して、一定の割合で国産の装置や材料の使用をなかば強制してくる可能性も考えられる。実際に、中国ファンドリーの購買担当者から、こういった趣旨の話を聞いているという日系企業の営業マンもいる。
そうなると、日本企業の独資(100%出資)での現地生産では不十分で、中国企業との合弁や技術提携などのような、よりハードルの高い投資判断が求められる可能性もある。日本企業は保守的なスタンスの企業が多いが、米国企業にはすでに大胆な戦略をとっている企業が複数いる。中国ファンドに株式を売却したり、中国企業と技術提携して中国企業ブランドでの販売を前提に技術提携を進めている企業もある。
技術力をつけ始めた中国企業たち
半導体自体の製造では、中国企業は海外トップ企業と比べて技術的に2世代以上の差をつけられている。装置や部材はさらに技術的なキャッチアップが難しい。しかし、一部の装置や部材では着々と国産化が進んでいる。スパッタリング工程で使われるターゲット材料のKFMI(江豊電子材料)、CMP工程で使用するスラリー(研磨剤)のアンジー(安集微電子)、エッチング液や配線層で使われるめっき液のシンヤン(新陽半導体材料)などが中国のトップランナー企業だ。
また、ウエハー搬送用ロボットアームやFOUP(フープ)を製造するシンソンロボット(新松机器人)や、中国初の300mm口径のシリコンインゴット量産化プロジェクトのジンセミ(新昇半導体科技)向けに引き上げ装置を納入した晶盛機電、中国初の半導体製造用ガス(Cl2とHCl)を量産する巨化グループ傘下のブリテック(博瑞電子科技)など、セミコン・チャイナでは注目に値する多数の展示が行われた。これらの企業のブースでヒアリングしたところ、半数の企業はすでに商用生産をしており、残り半数はこれから顧客企業の認定をとって正式に量産が始まるところだという。
中国の装置・部材企業を取材して回ると、多くの中国企業が「日本には技術力があり、中国には潜在市場がある」と答える。発展を始めた中国の半導体製造は、高い技術力を持つ日本企業との協業が不可欠だ。これからの中国の先端半導体製造の本格化を目前にし、中国はビジネスチャンスが多いものの、スタートさせるためのハードルもまた高いという印象を受けた。それもメモリーPJの「パンこね状態」が完了しさえすれば、堰を切ったように半導体業界のサプライヤー企業が中国進出を加速することになるだろう。
電子デバイス産業新聞 上海支局長 黒政典善
投信1編集部からのコメント
東芝メモリ問題で揺れる日本。NANDの技術および量産で韓国メーカーに大きく水をあけられた日本は、中国にもそのポジションを脅かされつつあるということが垣間見えます。日本の半導体産業が改めて何で生きていくのかを考えさせられるレポートでした。
電子デバイス産業新聞×投信1編集部
電子デバイス産業新聞