1998年5月、松井証券(当時は松井證券)が国内で初めて本格的な株式のインターネット取引を開始しました。その後もオンライン証券(ネット証券)事業に参入する企業は増え、競争激化により価格競争が進みました。結果、株式の売買手数料が大きく値下がりしただけではなく、金融商品の品揃えも格段に増えています。ネット証券の誕生により日本の個人投資家の投資や資産形成の選択肢は飛躍的に増したといえるでしょう。
さらに、ブロードバンドやスマートフォンの普及が進んだことにより、株式投資を始める際のハードルが低くなったばかりか、その取引にあたっての使い勝手(ユーザーエクスペリエンス)も大きく変わろうとしています。今回はそうした取り組みを進める「次世代証券」とも呼ばれる2社、スマートフォンで証券取引アプリを提供する株式会社One Tap BUY(ワンタップバイ、以下OTB)と、テーマ投資の関連銘柄に簡単に投資ができる株式会社FOLIO(フォリオ)について見ていきます。
株式投資をどこから始めてよいかわからない-マンガとテーマ投資をきっかけに
初めて株式投資をする人なら最初の「とっかかり」をつかめずにいるということも多いのではないでしょうか。今回紹介する2社では、そうしたきっかけを提供するための工夫がなされています。
OTBはスマホからニューヨーク証券取引所やNASDAQ(ナスダック)に上場している米国を代表する30銘柄を小額から簡単に取引できることを売りにした“スマホ証券”です。同社は株式投資初心者向けに、投資対象となる企業を理解するためのマンガを提供しています。OTBで投資できる銘柄は日本でもよく知られた企業が中心ですが、マンガで説明することで、企業の成り立ちや事業の内容がより頭に入ってきやすくなっています。
OTBによるアマゾンを紹介するマンガ
一方のフォリオは、2017年4月4日に第一種金融商品取引業及び投資運用業者として関東財務局に登録されました。同社は今後ネット証券としてスタートを切ることになります(注1)。
同社は近日中にテーマ投資に関連する日本株10銘柄をまとめて購入できるサービスを提供する予定です。つまり、利用者は投資テーマに沿った10銘柄で構成されるポートフォリオへ投資をすることになります。どの「企業」や「銘柄」に投資をしようかと悩んだ挙句、結局投資を始めることができなかった投資初心者でも「テーマ」ならばより身近で、投資に対するハードルも低く感じられるはずです。
注1:「第一種金融商品取引業ならびに投資運用業の登録完了のお知らせ」
【参考】
>>「元ゴールドマン債券トレーダーが創業! 新ネット証券「FOLIO(フォリオ)」社長に聞く」
>>「Fintech(フィンテック)の新潮流。FIBC2017で見えてきたもの」
「まとまったお金がないと投資なんて無理でしょ」という不安はとりあえず必要なし
OTBで取引できる米国株は私たちにとって身近な企業、たとえばアップル、グーグル、フェイスブック、コカ・コーラなどであり、各社の世界における成長を享受できる良い投資機会といえるでしょう。
また、フォリオが準備をしているテーマ投資も「京都」や「自動運転」、「ドローン」を始めとして、私たちが日ごろ興味のある内容から株式市場で熱量が高まった投資テーマを取り扱っていくようです。「テーマには興味があるけれども、どの企業に投資をすればよいかわからない」という方には非常に便利な機能といえます。
ただ、その一方で「投資を始めるのにはまとまった資金が必要では」と考える人も多いのではないでしょうか。この2社では、こうした資金面でのハードルを低くする試みもなされています。
OTBは最小1,000円から取引ができますし(注2)、フォリオは10銘柄のポートフォリオを10万円から投資できるようにする計画のようです。こうした取り組みによって、より多くの人が投資に参加できる準備が整いつつあるといえるでしょう。
ただし、証券会社として見た場合、最低発注金額が低いことはすなわち、1回当たりの手数料が少ないということを意味します。どれだけ多くの投資家に投資を始めてもらえるかが、ビジネスモデルを確立する上では極めて重要になると言えます。
注2:OTB「前代未聞!外国株式を1,000円で。2017年1月よりOne Tap BUYで1,000円投資スタート!」
次世代証券には大手証券会社や通信会社も注目
このように、日本の個人投資家のすそ野をこれまで以上に広げようとする次世代ネット証券には、メガバンクのフィナンシャルグループ傘下の大手会社や異業種である大手通信会社も事業機会を逃すまいと投資をしています。
たとえばOTBには、みずほフィナンシャルグループ(8411)傘下のみずほ証券やソフトバンクグループ(9984)も出資をしています(注3)。
また、フォリオはEコマース大手の楽天(4755)グループのFinTech事業部から組成されたRakuten FinTech Fundやシリコンバレーの著名ベンチャーキャピタルのDCM Venturesなどから大型の出資を受けており、今後の展開に多くの期待が集まっていることが分かります(注4)。
注3:OTB「第三者割当増資により総額15億円の資金調達を実施」
注4:フォリオ「FOLIO、シリーズAラウンドで18億円の第三者割当増資を実施。 日本初のテーマ投資型オンライン証券の誕生へ。」
まとめ
いかがでしたでしょうか。日本にオンライン証券(ネット証券)が誕生して早くも20年近くが経とうとしています。この間、ブロードバンドや移動通信インフラの普及と高速化、また高速演算処理が可能なスマートフォンの普及が進み、株式投資における利用者の使い勝手は大きく変わろうとしています。
既存の証券会社だけではなく、Eコマースや通信事業者など異業種からの参入も盛んです。今後は、使い勝手の改善だけではなく、貯蓄から資産形成(投資)までをシームレス(一気通貫)に実現するプレーヤーが新規の投資家を掘り出し、育成していく時代に突入していくのかもしれません。
LIMO編集部