2022年5月28日にログミーFinance主催で行われた、第36回 個人投資家向けIRセミナー Zoom ウェビナーの第4部・Sansan株式会社の講演の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:Sansan株式会社 IR室室長 諌山康弘 氏
元・ファンドマネージャー/元・ディーラー 坂本慎太郎(Bコミ) 氏

会社概要

諌山康弘氏(以下、諌山):Sansanの諌山と申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします。私より、グループの概要などについてご説明させていただければと思っています。

Sansan株式会社は2007年に設立されました。5月期決算の会社のため、2022年5月でちょうど15年目を終え、来月から16期目を迎えます。2019年に東証マザーズに上場し、その後、東証1部に鞍替えし、今はプライム市場に上場しています。

売上高の99パーセントは、まだ日本国内に根ざしていますが、株主構成については、外国法人等に29.67パーセントの株式を所有していただいています。幸い、海外の機関投資家にも注目していただいていると捉えています。

ミッションとビジョン

諌山:我々のミッションとビジョンです。我々は「出会いからイノベーションを生み出す」というミッションを掲げています。この背景としては、人と人あるいは企業と企業などの出会いの連鎖から新しいものや新しいことが生まれていると捉えています。したがって、我々は「出会い」に注目し、そこからイノベーティブなサービスを生み出していきたいという思いを込めました。

そして、我々のサービスが広く受け入れられ、ある種当たり前のように使われているような状態を目指したいと考えているため、「ビジネスインフラになる」というビジョンを掲げています。

連結業績(2017年5月期~2021年5月期)

諌山:連結の業績概要です。スライド左側のグラフは連結売上高の推移を示しており、4年平均成長率は35.2パーセントです。我々のサービスのほとんどは、新しい市場を作りながら成長している性質のものになりますので、今は利益を最大化するのではなく、必要な投資を行って売上高を最大化するフェーズであると捉え、事業を推進しています。

直近1年は新型コロナウイルスの影響もあり、成長率はやや鈍化しましたが、足元では25パーセントを超える売上高成長を実現しています。

スライド右側は売上総利益、いわゆる粗利のグラフになります。先ほど「まだ利益は重視していない」とお伝えしましたが、それは営業利益以下のお話であり、粗利に関してはすでに非常に高い利益率を実現しています。

我々のビジネスモデルによるところも大きいですが、事業運営の工夫によって原価を下げ、高い利益率を実現できています。したがって、成長のための投資が終わったタイミングでは高い水準の営業利益率も期待できると思っており、ひいては当期純利益率も高い水準が実現できるのではないかと考えています。

セグメント概要

諌山:セグメント概要です。Sansan/Bill One事業は、企業に対してソリューションを提供し、企業からお金をいただいているBtoBのセグメントです。スライドに小さな円グラフがありますが、創業事業である「Sansan」というサービスが連結売上高の大半を占めています。次に急成長しているのが、クラウド請求書受領サービス「Bill One」です。

もう1つのセグメントのEight事業は、売上高という意味ではBtoBのサービスが中心ですが、サービスの成り立ちという意味ではBtoCということで、まずは個人の方に使っていただくアプリになっています。

セグメント別業績(2021年5月期第1四半期~2022年5月期第3四半期)

諌山:2つのセグメントの業績推移を示したグラフで、それぞれ3ヶ月の実績を並べています。スライド左側がSansan/Bill One事業の業績です。非常に安定的に売上高の成長を実現できています。濃い青のグラフはセグメントの利益です。新しいサービスが立ち上がることで、積極的な投資を行っていますが、それでも堅調に利益が出るフェーズになっています。

一方、スライド右側のEight事業については、「Sansan」に比べてマネタイズを開始した歴が浅いため、規模が小さく、営業赤字の段階ではありますが、売上高の成長は着実に実現できています。それに伴い営業損失も縮小していますので、近い将来での黒字化を目指しています。

カンパニー・ハイライト

諌山:ここから5つの章に分けて、各サービスの特徴を簡単にご紹介します。

「Sansan」:企業の営業活動における課題

諌山:まずは、売上高の大半を占める「Sansan」というサービスについてです。非常にユニークなビジネスモデルで、広大な開拓余地と言いますか、成長余地があるビジネスだと捉えています。

「Sansan」は足元の5月、6月にかけてプロダクトの刷新に取り組んでいます。スライドに記載のとおり、企業の営業活動における課題に向き合うことが刷新の目的です。

具体的には2つの課題があると思っています。1つは、新規営業を行う時の課題です。企業の営業担当の方は、戦略的かつ効率的に新規先を開拓したいと考えていると思いますが、対象となる企業の売上高や業種、地域などさまざまな情報がないと適切なターゲットを選べません。

しかし、そのような細かい情報をすぐに入手できる手段があまりないため、戦略的な営業ができていないという課題が過去にも現在にもあると考えています。

もう1つはコロナ禍で初めて生じた課題ですが、昨今は直接会わずにオンラインでのミーティングなどが中心となっており、新規の営業を1回できたとしても、相手の名刺がもらえないことが起きています。

結果として、オンラインミーティングに参加していた方の正確な役職や部署の情報がもらえず、「誰がキーパーソンかわからない」「誰に声をかけたら2回目、3回目の営業機会につながるのかわからない」という事態が発生し、営業機会の喪失という課題が生じていると捉えています。

これらの課題に対応するため、「Sansan」というサービスのプロダクトを大きく刷新しているところです。

「Sansan」:サービス概要

諌山:「Sansan」について、2点のポイントをご説明します。1点目は、スライド右側の接点データベースの観点です。これまでの「Sansan」は、名刺管理サービスとしてさまざまな機能を提供してきました。

具体的には、利用企業の方が名刺をスキャンすると「Sansan」が独自のテクノロジーとオペレーションを使って正しくデータ化します。そのデータ化された名刺情報、いわゆる接点情報を活用し、営業活動やさまざまな事業機会に使っていただくための機能を「Sansan」というプラットフォームに搭載しています。

しかし、コロナ禍になって、名刺だけではない接点情報の重要性も増してきました。それに対応するため、今後は名刺だけではなく、例えばメールの署名情報や差出人情報、Webサイトの問い合わせ情報も自動でデータベースに取り込めるなど、記録できる接点範囲を大きく増やし、接点データベースとしての機能を拡充させていくことに取り組んでいます。

2点目は、スライド左側の企業データベースの観点です。これまでの「Sansan」では、データ化された名刺情報があれば、その会社の詳細情報は一定の条件下で「Sansan」のプラットフォーム上で確認することができました。今後は接点の有無にかかわらず、あらかじめ100万社以上の情報が「Sansan」の中で確認できるように変えていきます。

これは帝国データバンクと連携することで実現しますが、これにより、先ほどお伝えした新規営業の課題も解決できるものと思っています。

100万社以上の企業データベースと、企業とのあらゆる接点を可視化できる接点データベースの2つの機能を掛け合わせられることが、「Sansan」の非常にユニークなポイントだと思っています。

これまでは名刺管理サービスにとどまっていましたが、今後は営業を強化するDXサービス、ひいては働き方を変えていくようなビジネスデータベースを提供するサービスとして、力強い成長を実現していきたいと考えています。

「Sansan」:ストック売上高・契約件数・契約当たり月次ストック売上高

諌山:今お伝えしたプロダクト刷新前の名刺管理サービス「Sansan」としての実績です。最新の時点が2月末の情報になります。

スライド左側のグラフをご覧ください。非常に安定した売上成長を実現していることが見てとれるかと思います。水色の部分がストック売上高、いわゆる月額の固定売上高と呼ばれるものです。一度この売上高を獲得すると、解約されない限りは翌月以降も同じ金額が着実に積み上がっていきますので、非常に安定成長が見込めるビジネスモデルになっています。

スライド右側のグラフは成長の要因である契約件数と契約当たりの売上高、いわゆる単価を示しています。2つともしっかりと伸びていることが見て取れるかと思います。

坂本慎太郎氏(以下、坂本):コロナ禍でもストック売上高と契約件数が伸び続けていますが、もしコロナ禍にならなかった場合はさらに伸びていたのでしょうか? それとも、コロナ禍は関係ないのでしょうか?

諌山:コロナ禍にならなければ、もう少し伸びていたと捉えています。理由としては、コロナ禍で営業活動に制約が生じたり、利用企業の事業環境の悪化や新規投資を行いづらくなったなど、いろいろな要因があると思いますが、一番は新型コロナウイルス感染症拡大前に比べて、名刺の交換枚数が20パーセントから30パーセントくらい減っていると言われていることです。

それが新規導入の足かせになったというのは、実態としてあると思います。ですので、先ほどお伝えしたプロダクトの刷新を行っています。

「Sansan」:直近12か月平均解約率

諌山:もう1つの成長のための重要なポイントは、スライドで示している解約率になります。いわゆるSaaSと呼ばれるビジネスにおいては、月間の解約率が1パーセント以下であれば一定程度健全だと言われている中で、我々は0.6パーセントという水準を安定的に実現しており、売上高の堅調な成長に寄与しています。

坂本:「新型コロナウイルスの影響で非接触の商談機会が増加し、名刺の枚数が減少した」というお話がありました。そこで解約になるパターンがけっこう多いのではないかと思いましたが、低い解約率が続いています。提案などもずっと行っていたかもしれませんが、社内のデータベース活用の気運が高まったり、手厚いカスタマーサポートがあったからなのでしょうか? 

諌山:まさに今おっしゃっていただいた2つのポイントが、解約率が低い理由です。社内にカスタマーサクセスと言われるサポート部隊があり、日々利用企業の方と伴走させていただき、解約が起きないようにいろいろなソリューションを提供しています。

また、名刺の枚数が減ったとはいえ、マイナス20パーセントから30パーセントにとどまっていますので、もともとのニーズはそこまで大きく落ちていません。

コロナ禍になって利用企業の方から「『Sansan』を導入していてよかった。急なリモートワークになっても、在宅環境からセキュリティの高いデータベースにアクセスできるため、この環境でも事業を運営することができた」という声もいただいています。過去の名刺がきちんと積み上がっていくため、それが解約率の低さに表れていると捉えています。

坂本:「商談で名刺はもらえなかったが、他部署や同じ部署に以前名刺をもらっていた人がいて、データベースを見たら解決した」ということもけっこうあったということですよね。

諌山:おっしゃるとおりです。我々には「接点情報をきちんと資産化・データ化し、それを全社員で共有して活用する」というコンセプトがありますので、今おっしゃっていただいたこともあるかと思います。

「Sansan」:日本国内における潜在市場規模(TAMの考え方)

諌山:「Sansan」というサービスにはどのくらいの成長余地があるのかを示した図です。「Sansan」は83パーセントという圧倒的なトップシェアを占めていますが、このマーケット自体をまだまだ大きくしていくことが必要だと思っています。

日本のビジネスパーソンの中で「Sansan」を使っている人は3パーセントくらいにとどまっていますので、少なくともこの10倍、20倍は十分に目指せるのではないかと捉えています。

ここまでが「Sansan」のご説明でした。

「Bill One」:企業の請求書業務における課題

諌山:続いて、多くの機関投資家の方にも注目され、今急速に成長している「Bill One」という請求書の受領サービスについてご説明します。

請求書業務はまだ紙のやり取りが中心のため、業務に携わっている方は封筒を開け、紙の請求書を取り出し、手で入力しなければならないなど、非効率な業務が山積しています。さらに、紙の請求書を受け取る場合には出社しなければならないため、リモートワークをはじめとした多様な働き方の進展の阻害要因にもなります。

今足元では、請求書に関連したさまざまな法改正や制度改正などが行われており、予定もされています。結果として新しい工数なども発生しているため、非常に多くの課題が残された分野だと捉えています。これに対し、ソリューションを提供しているのが「Bill One」です。

「Bill One」:サービス概要

諌山:「Bill One」は、請求書を受け取る企業に対するソリューションになっています。請求書を発行する業務に対しては、これまで各社がさまざまなソリューションを提供してきました。受け取り側に対するソリューションという意味で、「Bill One」は数少ない非常にユニークなモデルだと思います。

具体的には、「Bill One」を契約すると、当社が代わりにすべての請求書を受け取ります。紙やPDFなどあらゆる形態の請求書を受け取り、正しくデータ化します。したがって、利用企業の方は、当社のサービスにログインするだけで、はじめから正しくデータ化された情報を基に業務を進めることができます。結果として、業務の生産性向上につながり、月次決算が加速化できるサービスになっています。

「Bill One」:MRR・有料契約件数・有料契約当たり月次売上高

諌山:スライド左側のグラフは、月間の売上高を示したものです。「Bill One」のコンセプトが非常に受け入れられ、急成長が続いています。

この業界では、最新の月次実績を12倍し、年換算したものを「ARR」と呼んでいます。まだ実績の締め処理は終わっていませんが、当社はもともと、この5月実績を12倍した額で、10億円以上を目指していました。ところが、非常に速いペースで成長が実現でき、すでに2月の段階で12倍した額が11億円になっています。

その要因を分解したのが、スライド右側のグラフです。契約件数・契約当たりの売上高ともに、非常に成長していることが見て取れると思います。

「Bill One」:導入顧客と潜在市場規模

諌山:スライドは、導入企業の例を簡単に示したものです。請求書を受け取る企業であれば、業種・業態を問わずさまざまな会社がターゲットになります。日本にはターゲットとなる会社が200万社あると考えると、「Bill One」の契約件数は現時点で約700件のため、非常に大きな開拓余地があります。「Bill One」は、当社がとても期待しているビジネスです。

坂本:法改正により「紙で保存してはいけない」などのいろいろな制約が出てきています。したがって、「Bill One」を含めた請求書に関するクラウドサービスに切り替えなければならない、という土壌はあると思います。

法改正に伴い、同じサービスを始めようとしている新しい会社がいくつもあると思いますが、同業他社との競争環境について、御社がどう考えているか教えてください。御社の強みなども含めてお願いします。

諌山:競争環境という意味では、「Sansan」のビジネスに比べると「Bill One」のほうが影響がありますが、受け取り側に対するソリューションは、ここ数年で出てきた新しい市場です。そのため、でき上がった限られた市場の中で、熾烈なシェアの奪い合いをしているのではなく、今は各社が独自の戦略でマーケットを大きくしながら成長していくフェーズだと思います。競合の状況にかかわらず、自社のサービス、契約数をしっかり伸ばしていくことが重要だと思っています。

また、資料の第3章でご説明する予定でしたが、アナログ情報を正しくデジタル化する、要は紙の請求書を正しくデータ化する部分において、当社は非常に強固な優位性を持っていると思います。そのため、競合他社の状況にかかわらず力強い成長をしていけると考えています。

坂本:確かに、それも御社の強みだと思います。実際に私の仕事でも、請求書が電子に変わってきています。インターネットのメールではなく、システムにあげるかたちになっているのが約2割で、今のところ御社だけです。

サービスを使ってみましたが、慣れない方のために、スキャンしたものをそのままアップロードしてもよいかたちになっています。そのあたりは、御社がもともと名刺の部分で培ったOCRなどがうまくかみ合っていると思います。御社の強みについては、このような理解でよいでしょうか?

諌山:まさにおっしゃるとおりです。

当社の強み

諌山:ちょうど当社の強みの話になったため、「Sansan」や「Bill One」に共通する当社の強み、優位性について簡単にご紹介します。

大きく3点挙げており、1点目が、先ほどのお話に出てきたように、アナログ情報をデジタル化する技術、オペレーションです。2点目が、15年間ビジネスを継続してきたことで構築した認知度や信頼性です。そして3点目が、事業運営のノウハウです。

アナログ情報をデータ化する仕組みとテクノロジー

諌山:まず、非常に重要なアナログ情報をデータ化する仕組み、テクノロジーについて簡単に概要をご説明します。

データ化する際にはOCRと呼ばれるテクノロジーを使い、まずは自動でデータ化を始めます。しかし、今世の中にあるどのようなOCR技術を使っても、それだけで100パーセントの精度は出ません。仮に99パーセントの精度が出たとしても、100文字あれば1文字間違えてしまうことになります。

想像に難くないかと思いますが、メールアドレスが1文字間違っていたり、振込金額・口座番号が1文字間違っていたりするだけで、まったく意味のないデータになってしまいます。そのため、いかに99.9パーセント、要は100パーセントの精度を実現するかが重要になってきます。

それを実現する手段は1つしかありません。人の目で確認し、人の手で補正し、入力することが、99.9パーセントの精度を実現するただ1つの方法だと思います。

当社は創業して15年目になりますが、もともとテクノロジーがない段階から、すべて人の力で1個1個、地道に名刺情報のデータ化を続けてきました。その結果、膨大な正しいデータ・正解実績を積み上げることができたため、AIが機械学習し、人が行っていた部分を代替してくれるようになってきました。それがこれまでの歴史です。

ゼロからこの仕組みを作ろうとすると、まずは地道に人の力で膨大なデータ化を行わなければなりません。したがって、15年積み上げてきた我々に急に追いつくのは難しいのではないかというのが、当社の非常に大きな強みになっています。

圧倒的な認知度とSaaS経営における強固なアセット

諌山:途中でも触れましたが、当社は事業を継続してきた結果、認知度を獲得し、「Sansan」で83パーセントという非常に高い市場シェアを確立しています。また、企業の重要なデータ、名刺、接点情報、請求書情報などさまざまなデータを預かっていることから、当社のアセットは信用度という意味でも強みになっていると思います。

さらに、これまでの事業運営で培ったノウハウや築き上げてきた顧客基盤も優位性になっていると捉えています。

当社のサービス展開において着目するポイント

諌山:今お話しした強みなどを武器に、当社はこれまでも新しいビジネスを立ち上げてきました。どのような観点・ポイントでビジネス展開してきたかをご紹介します。

当社が新サービスを展開する上で、着目するポイントは2つあります。1つ目は冒頭のミッションのところでも触れました「出会い」です。人と人、企業と企業のつながりに注目しています。

2つ目は、先ほど触れたばかりですが、アナログ情報をデジタル化することです。紙をはじめとしたアナログな業務フローが残っており、デジタル化、要はDX化を進めることによる大きな効率化の余地があります。この2つが、当社が事業展開する上でのポイントになってきます。

「アナログからデジタル」を軸にしたBtoBサービスの新たな展開

諌山:「Bill One」などがまさに表しているのですが、「Sansan」が大きくなるにつれ、いろいろな機能が増えていっただけでなく、横の領域も広がっていきました。

請求書の領域に展開していったのが、「Bill One」ですが、例えば、契約書の業務においてもDX化を進めるサービスを展開しており、それが「Contract One」です。

「Contract One」:サービス概要

諌山:「Contract One」について簡単にご説明します。これは、契約業務をDX化するサービスです。今、契約書といった業務がどのような環境にあるかというと、例えばいろいろな会社がオンライン上で契約が結べるプラットフォームを提供しています。

例えば「『A』という契約書はこの会社のプラットフォーム上で取り交わし、『B』という契約書は違う会社のプラットフォーム上で取り交わす」というように、契約書情報がいろいろなプラットフォームに分散しています。また、すべてが電子化されているわけではなく、紙の契約書もまだまだ残っており、一元管理が非常に難しい状態です。

「Contract One」というサービスの軸にあるのは、一元管理が可能になる機能です。いろいろな電子契約のサービスを提供している会社と連携しており、それぞれの電子契約で結んだ情報が、「Contract One」の台帳と呼ばれるところに入っています。また紙の契約書は当社の得意分野であり、正しくデジタル化できるため、それも台帳に入ります。その結果、一元管理ができます。

このサービス自体は、今年1月に正式提供を開始したばかりで、まだ実績を伝える段階ではありません。しかし、2月末の段階で50件を超える契約を獲得しており、今後の成長に期待できるビジネスだと捉えています。

「Eight」:サービス概要

諌山:最後に、もう1つのセグメントであるEight事業が、どのようなサービスかご説明します。「Eight」は、個人利用を目的としたアプリです。まずはアプリをダウンロードし、自分の名刺をスマートフォンなどで撮影します。するとそれが自身のページのプロフィール情報になる、いわゆるビジネスSNSとしての機能を備えています。

その後、名刺交換した相手の名刺をスマートフォンで撮影すると、それが正しくデータ化され、名刺管理ができます。「Eight」というアプリは、このような機能を主軸にサービスを展開しています。

「Eight」:売上高・「Eight」ユーザー数

諌山:スライド右側のグラフを見ると、現在300万人を超えるユーザーが登録している状況がわかります。どのように売上を立てているかが、左側のグラフです。個人の方は原則無料で使えるアプリケーションになっていますが、一部課金するBtoCのマネタイズプランがあります。それが登録した名刺一覧をエクセルでダウンロードできる等の有償のプレミアム機能になります。ただ、Eight事業の成長の要は、BtoCの課金で大きく伸ばすよりも、次のスライドでご説明するBtoBに対するマネタイズになります。

「Eight」:マネタイズプラン

諌山:スライドの表は、代表的なマネタイズプランを示しています。例えば、企業の人事部の方に販売する「Eight Career Design」という、ダイレクトリクルーティング・転職サービスのようなものや、「Eight」のアプリケーション内に広告を出稿する「Eight Marketing Solutions」というサービスなどがあります。当社はこれまでにさまざまなサービスを立ち上げてきました。現在、それぞれが伸びている状況です。

実はこの「Eight」も、直近でコンセプトの変更を少し行っています。これまで「Eight」は、「名刺アプリEight」として展開してきました。今後は名刺アプリではなく、「キャリアプロフィールEight」というかたちで、事業を推進していきたいと考えています。

先ほど、プロフィールを作る時に名刺を撮影するとお伝えしたように、「Eight」では、部署異動や役職の変更、転職などで名刺が変わったタイミングで、自身のプロフィールをアップデートすることを推奨しています。その結果、仕事を変えたとしても、生涯を通じて自分のキャリアが管理できることになります。今後は名刺管理だけではなく、キャリアを管理する意味でも多くの方に使ってもらいたいと思っています。

我々は日本のマーケットが非常に大きいと考えていますので、「Eight Career Design」という転職サービスが、将来収益の柱になってくれたらよいという期待を込め、今後ビジネスを展開していきます。

まとめ

諌山:最も規模が大きい「Sansan」は、今後プロダクト刷新によって大きな市場に向き合い、力強い成長を実現していきます。また、請求書受領サービス「Bill One」が急成長しているため、このペースを維持しながらどんどん拡大させていきたいと思っています。そして、これらに共通する強みを「Contract One」に活かし、機会に応じてどんどん新しい領域に広げていきます。

また「Eight」は、BtoBではなくBtoCにタッチできるという「Sansan」や「Bill One」にはないユニークポイントがあります。この事業を伸ばしながら、全体として連結の売上高を成長させていくのが現在の戦略です。

将来的にはビジネスインフラになるというビジョンを達成したいと考えており、そこに向かって事業を推進していきたいと思っています。

質疑応答:「Bill One」の今後の成長について

坂本:「Bill One」のARRが今のところ好調で目標を前倒しするとのことですが、今後の成長についてはいかがでしょうか? 今まで「Sansan」のサービスが大きいため目立ちませんでしたが、けっこうな成長やポテンシャルがあるのではないかと思っています。こちらをもう少し掘り下げてご説明いただけますか?

諫山:我々は5月期決算で、通期の決算発表は7月であるため正確な数値は申し上げにくいのですが、概要をお伝えします。この5月のARRの実績が確定したら、来年5月のARRを今年5月の少なくとも2倍以上にしていきたいと考えています。そのくらいの可能性がある計画を作っていきます。

坂本:営業体制などは聞いてもよろしいですか? こちらはどのような営業をしているのでしょうか? マンパワーあるいはインバウンドのような待つかたちなのでしょうか? 加えてWeb広告のような営業戦略についても、もう少し教えていただきたいです。

諫山:すでに複数の施策を組み合わせています。昨今はテレビCMをはじめとしたマーケティング活動を強化しています。

また、営業体制の拡充も進めてきました。「Bill One」専属の営業部隊があるのですが、去年の7月頃に部内の組織体制を変更し、「Sansan」の営業社員も「Bill One」を販売できるというマルチプロダクトを扱う体制にしました。まだまだ営業リソースは限られており、どんどん増やしている最中であるため、今あるリソースを有効活用できるように取り組んでいます。

坂本:たいていの場合「Bill One」専属の営業担当であれば、とりあえずターゲットが大きな会社からあたるパターンになりますが、「Sansan」の営業担当も「Bill One」を扱えるということは、契約者を中心に全方向で販売ができる状況なのですね。

諫山:そうですね。対応できると思います。ただ、我々もリソースが限られているため、より効率的に動くために規模の大きいミドルからエンタープライズといわれる領域に少しリソースをシフトさせるという戦略も進めています。

質疑応答:「Sansan」のコンセプト刷新の目的や効果について

坂本:「Sansan」のコンセプト刷新について、目的や効果をもう少し詳しく教えてください。

諫山:目的は、コロナ禍になり過去に比べて名刺の交換枚数が減っており、その中で新しく生じている課題などにきちんと対応していくことです。それがスライドにあります接点データベースおよび企業データベースの拡充です。

「Sansan」のデータベースがどのような使われ方をするのかを簡単にお話しします。例えば、なにかの営業活動をして、非常に感触がよく新規契約をしてくれそうだったとします。すると営業社員は、「この会社に受け入れられるのなら、同じような業種で同じような売上規模の会社もサービスを買ってくれるのではないか?」と考えるわけです。

このような場合、今までは調べようがなかったのですが、「Sansan」上でさまざまな条件を指定して検索すると、該当する企業がA社、B社、C社のように一覧で出てきます。ただ、その一覧からいきなり代表電話に電話をしてもなかなか効率が悪いです。

そこで、その企業とどんな接点があったのかという接点データベースもあわせて見ます。自分に接点がなくても、実は隣の部署の人が名刺をもらっていたということがわかれば、名刺をもらった人に「より効果的な営業をするには誰に関わればいいのか?」と聞くことができます。

あるいは、「名刺は持っていないが、総務の方がメールのやり取りをしていた」とします。総務の方に聞くと、実はその会社のサービスの一部をお金を払って使っていたとわかり、そこから営業できるのではないかということになります。

このようなデータを組み合わせることで、今までできていなかった戦略的な営業ができるようになります。これらの機能を前面に出し、結果として、コロナ禍で少し鈍化してしまった成長率を再び力強いものに戻していくことができるという期待を持っています。

質疑応答:「Sansan」の今後の位置付けやグランドデザインについて

坂本:「Bill One」の急成長が目覚ましいですが、当然「Sansan」がベースになるため、先ほどお話にあったように営業担当の方が両方を売ってシナジーが生まれることもあると思います。また、これらはもともとビジネス的にも近い部分があると思います。

コンセプト刷新のお話もありましたが、今後は「Sansan」も利益を出そうと思えば出せる状況で、その未来とリソースは「Bill One」に含めたとのことでした。「Sansan」が今後キャッシュカウのような位置付けになるのかといった、グランドデザインについて教えてください。

諫山:「Sansan」についてはこちらのスライドで触れましたが、日本のビジネスパーソンへの浸透率は非常に低いです。そのため、このビジネス自体をまだまだ大きく伸ばせると考えており、そこに向けてしっかり進んでいきたいと思います。

キャッシュカウというと、成長しないイメージが付いてきてしまうので語弊があるかもしれません。ただ、「Sansan」は来月で16年目を迎え、これまで必要な投資をしっかり行ってきました。売上高は非常に高い水準を実現できているため、「Sansan」だけを見ると利益率は非常に改善しています。

したがって、「Sansan」で出た利益を新しく立ち上げた「Bill One」にシフトすることができます。それでもなおこのセグメントの利益は連結でも黒字になっていることから、利益面でも非常に力強さのあるビジネスフェーズになっているという感覚です。

質疑応答:Eight事業で注力するポイントについて

坂本:Eight事業で、今後注力していくポイントがなにかあれば教えてください。

諫山:途中で少し触れましたが、いろいろなマネタイズプランがあり、今それぞれが伸びています。当面そのトレンドは変わらないと思うのですが、マーケットの大きさを考えると転職市場は魅力的な規模だと思っています。

名刺アプリからキャリアプロフィール「Eight」への転換が上手くいき、進化が進むことで、スライドにあります「Eight Career Design」という採用サービスが柱になればと期待しています。

質疑応答:「Sansan」の販売体制について

坂本:「『Sansan』のパートナー販売は行っているのでしょうか?」というご質問です。

諫山:パートナーの複数社とも連携しており、一部でパートナー販売も行っています。ただ、まだ大半は我々の直販という状況です。

坂本:その体制は基本的に変わらないのでしょうか? リソースをほかに割くのであれば、代理店による販売を増やしてもよいのではないかと思います。いろいろな会社に接点がある代理店、例えば事務機の販売会社など、顧客が多い会社とのさらなる協業はあるのでしょうか?

諫山:今後の販売チャネル拡充という意味では重要なチャネルだと思っており、引き続きいろいろな施策を検討していきたいと思います。ただ、いきなり直販の比率が下がるかというと、まだそのような見通しはありません。当面は営業社員を増やすのが非常に重要な成長戦略であるため、直販がメインになるのではないかと考えています。

質疑応答:「Sansan」におけるデータベースの構築方法について

坂本:「Sansan」の機能について「紙の名刺に書かれた情報は限られていますが、御社が電子データ化する際に、名刺に記入されていない情報についてはどう獲得しているのですか?」というご質問です。

社内で自分たちでデータベースを構築するのでしょうか? あるいは、御社が付随する情報を入れてデータベース化できるような機能になっているのでしょうか?

諫山:名刺情報がデータ化されて、そのデータを活用してさまざまなことができます。例えば営業管理であれば商談の履歴を記録できるなど、各社の運用の中でさまざまな情報を付加することができます。

また、ニュースを見られる、帝国データバンクとの連携で情報が見られるなど、名刺情報に紐づくデータをさまざまなポイントで確認できるようになっています。

坂本:名刺以外の情報は自分で付加していくということですね。それを社内で共有してデータベース化していく使い方をしている会社が多く、解約率が低い理由の1つかもしれません。

質疑応答:IT業界で知名度や認知度を維持する方法について

坂本:「浮き沈みの激しいIT業界で、IT企業の名称は次々に現れては消えていきますが、知名度や認知度を維持する秘訣はなんなのでしょうか?」というご質問です。

御社は広告などをけっこう目にするのですが、そのあたりを含めた戦略を教えていただければと思います。

諫山:いろいろな手法があるかと思いますが、1つわかりやすいのはテレビCMをはじめとするマスマーケティングです。リードを獲得するために行っている面もありますが、一方で今の認知度をきちんと維持していくためにも非常に有効な手段であると思います。

また、サービスがしっかりと受け入れられ、より多くの方に使っていただければ顧客基盤もどんどん拡大していきます。「Sansan」や「Bill One」というサービスに接していただく機会が増えれば、結果としてそれが認知度にも跳ね返ってくるというわけです。したがって、堅実にビジネスを一つひとつ進めていくことが秘訣だと捉えています。

質疑応答:採用している人材の業種について

坂本:人材採用について、「最近の採用ではどのような業種で人材を増やしているのですか?」というご質問をいただいています。

諫山:今期はだいたい280名の採用を進めましたが、半分近くが営業系の社員です。実際のフィールドセールスのほか、インサイドセールスやサポート部隊も含んでいます。そのほか規模が大きいのはエンジニアです。もちろんバックオフィスやコーポレートなどの分野もあります。

諫山氏よりご挨拶

坂本:たくさんご回答いただき理解も深まったのではないかと思います。最後に、視聴者に向けて一言いただければと思います。

諫山:繰り返しになりますが、今我々は新しいビジネスを立ち上げながら、売上高の成長を最大化していくというフェースです。すでに売上総利益、粗利は非常に高い水準を実現できているため、投資家の方や機関投資家の方には、将来投資を止めれば高い利益が出るというある種の安心感もお持ちいただいています。

もちろんマーケットの状況を見ながらですが、必要な投資をしながら当面は売上高を伸ばしていこうと思っているため、注目いただければ非常にうれしく思います。本日はご清聴ありがとうございました。

記事提供: