2016年12月に安倍晋三首相とロシア・プーチン大統領の間で、北方4島(択捉島,国後島,色丹島および歯舞群島)における日ロの共同経済活動に関する協議を開始することで一致し、2017年2月には岸田文雄外務大臣を座長とした関係省庁からなる共同経済活動関連協議会が設置されました。

今回は、今後日本とロシア間の共同経済活動(以下、日ロ共同経済活動)が進展していくことにより、どのような企業がどのような形で恩恵を受けるかについて考えていきます。

参考:外務省「日露共同経済活動推進室の設置」

日ロ共同経済活動が取り扱う領域とは

今回の日ロ共同経済活動で協議を開始した主な領域は以下のようになっています。

  • 漁業
  • 海面養殖
  • 観光
  • 医療
  • 環境

また、上記領域以外の分野も含み得るとされています。こうした領域において、具体的にどのようなプロジェクトが進展していくのかが今後の注目点です。

外務省のプレス向け声明の中でも、「(北方4島において)日本とロシアによる共同経済活動に関する協議を開始することが、平和条約の締結に向けた重要な一歩になり得るということに関して、相互理解に達した」ということで、この日ロ共同経済活動の成果が外交上の選択肢すらも大きく左右することになりそうです。

したがって、先に取り上げた5つの領域に関係する企業は非常に重要な役回りを期待されることになります。

参考:外務省「プレス向け声明」

そもそもロシアとはどのような国か

ロシアの経済規模はどの程度の水準にあるのでしょうか。世界銀行によると2015年の名目GDPは1.326兆ドルでした。イメージを持ちやすくするために米国と日本も見てみると、米国は17.947兆ドル、日本が4.123兆ドルです。

つまり、ロシアの経済は米国の約14分の1、日本の約3分の1ということになり、これだけを見ると軍事やEUでの存在感に比べ、経済規模としては「大国」という印象はそれほど強くありません。

人口は、世界国勢図会第25版によると2013年時点で約1億4200万人で日本の同時点の1億2700万人よりも少し多い程度です。また、産業別の就業人口を見ていくと、2013年時点で第1次産業が7%、第2次産業が28%、第3次産業が65%と、日本の構成比と大きくは変わりません。

貿易面を見てみると、2013年で輸出が5,273億ドル、輸入が3,150億ドルと輸出超の状況となっています(世界国勢図会第25版)。輸出超という中でも特筆すべきはエネルギー、天然ガスで、その輸出は多くの方が知るところでしょう。

石油鉱業連盟編「石油・天然ガス開発資料2013」および世界国勢図会第25版 によると、天然ガスの輸入国側から見た2012年のロシアへの依存度はドイツが約35%、トルコが70%、ウクライナとベラルーシが100%ということで、欧州でのロシアへのエネルギー依存度は非常に大きいことが分かります。

このように、ロシアの欧州での存在感は、経済や人口というよりもエネルギー面での影響力の大きさであることが理解できます。

ロシアで今後どのような日本企業が活躍するのか

ここでは、先の日ロ共同経済活動が注力する領域で関係があり、これまでロシアで実績のある企業や新たな取り組みで健闘している企業を見ていきましょう。

マルハニチロの漁業と養殖には期待したい

マルハニチロ(1333)は、旧ニチロがロシア付近で鮭を獲りロシアで缶詰にするなど、歴史的にもロシアとの関係が深い企業です。また、漁業はもちろんのこと、養殖も行っているために共同経済活動には期待したいところです。

参考:マルハニチロ「私たちのあゆみ」

テルモはロシアの医療改革に乗れるのか

テルモ(4543)は、2013年にロシアに現地法人を設立。ロシア政府が国家戦略の一つとして医療改革を推進しており、その市場拡大を狙ってのロシア進出となります。

ロシアの死亡原因は第1位に循環器疾患であることから、同社のカテーテル・人工肺関連の商品の売上拡大を期待しているようです。

参考:テルモ「テルモ、ロシア現地法人を開業」

駒井ハルテックは三井物産などとともに再生可能エネルギーに取り組む

駒井ハルテック(5915)は三井物産(8031)および富士電機(6504)と共同で、ロシア国独立系統地域向け電力供給マイクログリッドシステムの構築をロシア国営電力会社「統一エネルギーシステム東」社と進めています。

その一環で、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の実証実験としても採用され、カムチャッカ地方に風力発電機とマイクログリッドシステム装置の設置を行い、2016年1月から実証実験が行われています。

参考:駒井ハルテック「カムチャッカで風力発電機とマイクログリッドシステム装置の設置工事を完了」

エネルギーや資源関連も忘れてはいけない

今回の日ロ共同経済活動ではエネルギーにはあえて触れられていませんが、先に見たようにロシアといえば天然ガス資源です。

日本の原子力発電所の再稼働がままならない中、エネルギー安全保障をいかに担保するかということ、またエネルギーミックスをどうするかという点を考えれば、ロシアの天然ガスは重要な選択肢の一つです。

関連銘柄としては三井物産や日揮(1963)、加えてコマツ(6301)などもやはり頭に入れておきたいところです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。日ロ共同経済活動は今後の日ロ外交における重要な第一歩と言えます。その中で、しっかりとした結果が出ることはお互いに平和交渉の話を進める上での重要なポイントになるでしょう。長期的に注目していきたいテーマです。

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青山 諭志