2022年5月12日に行われた、三菱食品株式会社2022年3月期決算説明会の内容を書き起こしでお伝えします。

スピーカー:三菱食品株式会社 代表取締役社長 京谷 裕 氏
三菱食品株式会社 常務執行役員 コーポレート担当役員(CFO)川本 洋史 氏

2022年3月期 連結業績(前期比・業績予想比)

川本洋史氏(以下、川本):CFOの川本でございます。本日はよろしくお願いいたします。

2022年3月期の決算概要をご説明します。2022年3月期の期首より、収益認識に関する会計基準等を適用していますが、当資料および決算補足資料では、2021年3月期においても新たな基準に組み替え、実績数値と対比しやすいように表記しています。当期に一部を見直したため、同様に前期の売上高数値を修正しています。

売上高は、コンビニエンスストア等を中心に、一部業態で回復基調が見られるものの、前年の家庭内食品需要の反動減や、取引見直しなどにより、前期比238億円減収の1兆9,556億円となりました。

利益面は、物流効率化施策によるコスト改善が寄与したことなどにより、営業利益は前期比プラス34億円の190億円、経常利益は前期比プラス35億円の204億円となりました。

親会社株主に帰属する当期純利益は、前期比プラス29億円の139億円となり、過去最高益を更新しました。一株当たり当期純利益は、前期比98円44銭増加して、292円31銭となりました。ROEは前期比1.8ポイント増加し、7.6パーセントとなりました。

「中経2023」の定量目標として、2024年3月期末にROE8パーセント以上を掲げていますが、こちらの目標にあと一歩のところまで来ています。

2022年3月期 経常利益の増減要因(前期比)

スライドのグラフは、前期からの経常利益の増減要因を項目別に示しています。売上高の減少に伴う総利益額の減少はあったものの、採算管理の徹底や取引先への機能向上の取り組みによる利益率改善を進め、売上総利益の減少は4億円にとどまりました。

一方でグラフが示すとおり、販管費の38億円改善が大きく寄与しています。中でも、得意先との取り組みにより、配送回数の削減や積載効率の向上など、物流諸施策による物流費の改善が主要因となっています。また、コロナ禍で特売などのチラシが減り物量が安定したことや、デジタル技術活用による生産性向上に努めた結果、改善しました。

コスト削減ばかりではなく、展示会(ダイヤモンドフェア)を2年半ぶりに開催したことや、輸入菓子「ハリボー」のテレビCM放映など、積極的に販促を強化しています。以上の結果、経常利益は前期比35億円増加し、過去最高の204億円となりました。

2022年3月期 セグメント別業績(前期比)

セグメント別の業績をご説明します。加工食品の売上高は、前年の家庭内食品需要の反動減などにより、前期比140億円減収の6,701億円となりました。営業利益は売上高の減少に伴い、売上総利益が減少したものの、販管費の改善などにより前期比10億円増益の47億円となりました。

低温食品の売上高は、前期比125億円減収の5,422億円となりました。業務用商材を中心に、一部の業態で回復基調が見られたものの、取引の見直しなどにより減収となったものです。一方、営業利益は取引見直しによる採算性の向上と、販管費の改善などにより、前期比20億円増益の92億円となりました。

酒類の売上高は、ディスカウントストアなどの取引が伸長したため、前期比21億円増収の4,711億円となりました。営業利益は、品種別売上構成比の変化が利益率を若干押し下げ、前期比2億円減益の37億円となりました。

菓子の売上高は、前期比横ばいの2,696億円となりました。輸入菓子の取り扱いが好調に推移したものの、取引の見直しもあり微増にとどまりました。営業利益は、販管費の改善などにより、前期比5億円増益の30億円となりました。

2022年3月期 品種別・業態別売上高

当社の品種別業態別売上高の取り扱い比率を示したものです。当社が幅広い業態に対し、各カテゴリーでバランスのよい品目を取り扱っていることがおわかりいただけると思います。

2022年3月期 貸借対照表(前期比)

2022年3月期末時点での総資産は6,652億円で、前期末から191億円の減少となっています。公開買付による自己株式の取得および消却を行い純資産が353億円圧縮し、前期末比で267億円の減少となったことが主な要因です。こちらにより資本効率を向上させ、先ほどお伝えしたとおりROEが7.6パーセントまで改善しています。

2023年3月期 業績予想

2023年3月期の業績予想をご説明します。当社を取り巻く環境は、エネルギー価格の高騰や原材料不足等、当面は先行き不透明な状態が続くと思われます。このような環境下にあっても、当社は卸売業を含むリテールサポートにおける機能強化や、生産性の向上を着実に進め、新たな成長戦略であるメーカーサポート、商品開発を推進することにより、2023年3月期業績予想は、売上高は前期比344億円増加の1兆9,900億円、営業利益は前期比9億円増加の199億円、経常利益は前期比11億円増加の215億円、親会社株主に帰属する当期純利益は微増の140億円とします。この結果、ROEは前期比0.4ポイント改善し、8.0パーセントを見込んでいます。

2023年3月期 セグメント別業績予想

2023年3月期のセグメント別業績予想についてご説明します。今期は業務用商材を中心に、一部の業態については回復が見込まれる一方で、原材料高騰による商品の値上げや燃料費の高騰が影響を及ぼすとみています。

このような状況下で、加工食品では、当社の主力ブランドの1つである「からだシフト」の拡販などを推進し、売上高は前期比18億円増加の6,719億円、営業利益は1億円減少の46億円です。

低温食品では、コロナ禍で大きく支持を得た家庭用冷凍食品の拡販や、オリジナル商品の育成・拡大を推進していきます。売上高は前期比206億円増加の5,628億円、営業利益は前期比6億円増加の98億円です。

酒類では、コロナ禍で落ち込みのあった業務用商材の回復に加え、国内外のオリジナルブランドの育成・拡大を推進していきます。売上高は前期比89億円増加の4,800億円、営業利益は横ばいの37億円です。

菓子では、コンビニエンスストア業態の回復を見込むとともに、ドラッグストアの食品売り場の拡充や、新たなオリジナル輸入商品の発掘を強化していきます。売上高は前期比31億円増加の2,727億円、営業利益は前期比1億円増加の31億円です。

成長戦略の進捗・見通し

このスライドでは「中経2023」で掲げた成長戦略の進捗状況と、今後の見通しについてご説明します。

まずメーカーサポートにおいては、代理店取引や原料資材取引、物流代行などの既存の卸機能を活かした取引が伸長するとともに、データ販売や広告宣伝などのデジタルを活用した新規事業の種まきも進めています。2022年3月期の経常利益は前期比3億円増益の29億円となりました。

一方で、今期は昨今の世界情勢を受けて、原料資材調達における原料価格や輸送コストの上昇といった懸念材料を織り込み、メーカーサポートの経常利益は前期比6億円減益の23億円を見込んでいます。

次に商品開発です。コロナ禍における健康志向を追い風に、「からだシフト」などが堅調に推移しました。さらに、テレビCMが好評を博した輸入菓子の「ハリボー」が大きく売上を伸ばしています。

商品開発の経常利益について、2022年3月期は前期比6億円増益の10億円となりました。今期もさらなる商品ラインアップの強化を予定しており、5億円増益の15億円を見込んでいます。

最後にリテールサポートですが、この領域は従来型の卸売業、平たく言えば、ただモノを届ける問屋販売とは大きく質が変わってきています。顧客のみなさまとの取り組みを深め、物流効率化のさらなる追求や取引先のプライベート商品開発、効果的な売り場提案などを通じて、当社が進めるさまざまな付加価値機能の磨きこみ・高度化を進めています。

すなわち、従来の卸売業に高度な施策・機能を掛け合わせた新たな価値創造の領域を、「中経2023」の枠組みに従い、リテールサポートと分類しました。2022年3月期の経常利益は、前期比24億円増益の184億円、今期は9億円増益の193億円を見込んでいます。

以上の取り組みを通じて収益の多様化を進めることにより、2023年3月期の経常利益は合計で215億円を見込んでいます。

投資等の状況

投資等の状況についてご説明します。2022年3月期の投資総額は131億円でした。設備投資が84億円で、主な内訳は物流センター新設や既存センターの更新投資などです。

システム開発等の投資額は36億円で、主な内訳は物流センターの運用システムに係る開発やデジタル技術の活用による開発などです。

事業投資は、事業会社株式の取得などに11億円を投資しました。今期の投資総額の予想は140億円です。設備投資で50億円、システム開発等の投資で40億円、事業投資で50億円を見込んでいます。

配当予想

配当予想についてご説明します。2022年3月期は、業績上方修正に伴い配当も80円に上方修正しました。今期も「中経2023」において資本効率を重視し、積極的な株主還元を行うことを基本方針としており、この方針に基づき10円増配の90円を予定しています。

グラフで示したとおり、長く年間配当は50円で推移していましたが、当社の方針が着実に変化していることを感じていただけると思います。

以上、決算概要および業績予想についてご説明しました。私からの説明は以上です。ありがとうございました。

「中経2023」全体像

京谷裕氏(以下、京谷):みなさま、こんにちは。三菱食品の京谷です。よろしくお願いいたします。本日はみなさまご多用のところ、ご参加いただきまして誠にありがとうございます。

全国のまん延防止等重点措置が解除されて、1ヶ月あまりが経過しました。行動制限の緩和に伴い、アフターコロナを見据えた新しい生活へと、みなさまの暮らしや行動が徐々に変わりつつあることと思います。

一方、3年ぶりに移動制限がなく、人流が大きく拡大したゴールデンウィーク後の新型コロナウイルス感染症の拡大状況など、まだまだ予断を許さない現状であるため、本日は前回同様Webシステムでの開催としています。それではさっそく、説明に移ります。

先ほどCFOの川本から定量的な業績と計画についてご報告しましたが、私からは「中経2023」の取り組み状況を中心にお話しします。

スライドの図が「中経2023」の全体像を示しています。「中経2023」で当社が目指す次世代食品流通業の在るべき姿として、持続可能な食品サプライチェーンを支え続ける存在であるために、第一に必要なことは、メーカー様、小売業様、そして究極的には生活者のみなさまに選ばれ続ける存在であることに他なりません。

「中経2023」では、従来、卸売業が提供してきた伝統的な機能にとどまらず、既存の機能を高度化したり、また新たな機能を身につけることで、顧客のみなさまに新たな付加価値をご提供するとともに、パートナー企業のみなさまと地域社会を活性化する活動に着手していくことで、それぞれの地域における社会課題やサステナビリティ重点課題の解決を目指すことを目標に掲げました。

2023年3月期 組織改編

すでに新年度が始動して1ヶ月あまりが経過していますが、新年度を迎えるにあたり、当社は大きな組織改編を行いました。

4社統合以降、商品カテゴリーを基軸とした組織で規模の拡大を図ってきましたが、人口減少が加速し、需要の物量的拡大が困難な中、今後は量から質へ、つまり顧客のみなさまに選ばれ続けるために、新たな顧客価値を創造していくことが、当社の今後の成長には不可欠な機能となってきます。

そこで、「中経2023」の推進に適した顧客起点の経営サイクルを加速して構築するべく、「東日本営業統括」「西日本営業統括」「広域営業統括」を中心とするエリア統括制に組織改編しました。

また、新たに「商品統括」を設置し、すべての商品カテゴリーを管掌すると同時に、その管下に「国内・輸入商品開発本部」を集約し、 商品開発機能の強化も加速する体制としました。

さらに「次世代事業統括」も新設し、デジタル人財の育成を担うとともに、新規分野への人財投入を積極化し、DXによる生産性向上と顧客価値の創出を加速していきます。

リテールサポート・メーカーサポート機能の強化 (効率化DX)

次に、「中経2023」における機能強化の取り組みについて、非常に簡単ではありますがいくつかの事例をご紹介します。

まず、リテールサポート・メーカーサポート機能を強化する「効率化DX」では、効率化推進による業界データプラットフォームを活用した顧客価値の創出、つまり食品流通コストの削減・最適化に取り組んでいます。

社内での取り組みとしては、受発注や経理業務を中心にAIとRPAを活用し、2021年度は合計12万7,000時間の業務時間を効率化することができました。新たに創出された時間は、残業時間の削減や顧客課題の解決・価値創造業務の時間に充てられており、2022年度は累計14万時間の業務時間創出を目標に掲げています。

社外では、特定の小売業様とともに、AIを活用した需要予測による発注自動化と物流最適化を推進しています。2022年2月より一部のセンターで本格稼働を開始しており、今年度上期中に当該小売業様向け全センターでの稼働を予定しています。

また、業界での取り組みとして、他の食品卸様と連携し、EDIなどの非競争領域を共通データプラットフォームに集約することで、業界全体の効率化とロス削減を目指す活動も推進してまいります。

リテールサポート・メーカーサポート機能の強化 (需要創造)

リテールサポート・メーカーサポート機能強化における「需要創造」についてご説明します。独自に蓄積した過去の出荷データや外部データなどのさまざまなデータを掛け合わせ、当社ならではのビッグデータ活用による新たな顧客価値の提案・創出に取り組んでいます。

2022年度の小売業様との具体的な取り組みとしては、「店舗誘客」と「売場連動による購買促進」の2つの機能提供の具体化を推進していきます。

店舗誘客の機能とは、生活者のみなさまの行動データと位置情報をもとに、デジタルメディアを通じたターゲティング広告の配信を行い、店舗への誘客を図るものです。

購買促進の機能とは、ご来店いただいたみなさまに対して、店頭サイネージなどを活用した動画配信と売場の連動を行い、購買の促進を図っていくものです。

昨年度、一部の小売業様やメーカー様にご協力いただき、実証実験を多数行いましたが、効果的な広告配信と売場連動により、購買を大きく伸ばせることが確認できているため、今年度は実験の次のステップである事業化を目指していきたいと思います。

また、スライドで示しているとおり、メーカー様に対する顧客価値としても、当社のビッグデータを活用し、「生産計画・在庫最適化支援」「販売・マーケティング支援」など、さまざまな分野で課題解決を支援させていただきたいと考えています。

生活者ニーズに即したオリジナル商品開発

商品開発機能強化の取り組みについてご説明します。2021年度はこの分野で前期比6億円の増益となりました。2022年度はさらに5億円の増益を計画しています。

引き続き、生活者ニーズに即したブランドの構築や、環境配慮型包材への切り替え、食品ロス削減につながる商品など、特にサステナビリティに配慮した商品開発を推進していきたいと考えています。

健康志向をコンセプトにした当社オリジナルブランドの「からだシフト」は好調に推移しており、今年度は「糖質コントロール」シリーズに次ぐ第2の柱を育成すべく、「たんぱく質」シリーズを「PROTEIN PLUS(プロテインプラス)」シリーズにリニューアルして販売を強化していきたいと思います。

持続可能な社会の実現に向けた取り組み

持続可能な社会の実現に向けたサステナビリティの取り組みについてご説明します。当社は昨年末にサステナビリティ方針を制定し、合わせてサステナビリティ重点課題と2030年目標を見直しました。大きなイニシアチブとして、2050年カーボンニュートラルの実現を掲げ、今後さまざまな課題の解決に努めます。

具体的には、当社が手配する全国の電力契約を、2022年度からすべてCO2排出ゼロの環境配慮型電力契約に切り替えることにしました。また、配送車両のCO2排出量削減は、カーボンニュートラルを実現する上での必須課題であることから、当社の物流子会社キャリテックにて、今年2月からEVトラック2台の試験導入を開始しています。

今後も、顧客のみなさまに選ばれ続ける存在であるために、食品取扱企業におけるサステナビリティ取り組みトップ企業を目指し、社会課題の解決と持続可能な社会の実現に貢献していきます。

踊り場からの脱却・新たな成長軌道へ

三菱食品設立からの経常利益とROEの推移を示したものです。棒グラフは経常利益の推移ですが、価格競争の激化に加え、物流コスト高騰や基幹システム刷新、物流網整備のための先行投資などが重なり、この数年は残念ながら収益性の低下が続いていました。

また、内部留保を蓄積し物流網やシステムに再投資することで、バランスシートの規模は拡大しており、折れ線グラフのROE水準も低下傾向にありました。

「中経2023」では、これまで構築してきた強固な財務基盤と事業基盤を土台に、成長に主眼を置いた「第2(成長)ステージ」への変革を図っています。さまざまな取り組みが実を結びつつある中、昨年度は過去最高益とROEの再上昇を達成することができました。

特に、売上高が低下した中でも収益を伸ばせたことは、大きな意味があると考えています。当社が機能の高度化を通じ、より付加価値の高いサービスを提供しながら、顧客のみなさまとともに成長できていることの証左であり、いよいよ踊り場を脱し、新たな成長軌道に入れたのではないかと考えています。

引き続き、成長施策の着実な実行と資本再配分により「中経2023」の最終年度には、中経策定時の計画であった経常利益220億円、ROE8パーセント以上を確実に達成していきたいと思います。

なお、目標の上方修正が必要な場合は、遅滞なくみなさまと共有させていただきます。

ダイヤモンドフェア2022

昨年11月に開催し、みなさまより大変ご好評をいただいた「三菱食品ダイヤモンドフェア」を、今年は従来の7月にスケジュールを戻して開催させていただきます。今回は、前期のテーマ「食で創造する、持続可能な社会。」を引き継ぎつつ、「さあ、次の一手。」を新たなスローガンとします。

場所を東京ビッグサイトに変え、ご好評いただいた前回の進化版として、持続可能な社会の実現と、流通業界のさらなる活性化に向けた三菱食品の今後の提案にぜひご期待いただければと思います。

以上、簡単ではありますが「中経2023」の取り組み状況をご説明いたしました。ご清聴ありがとうございました。

質疑応答:経営の変化について

質問者:1点目は、経営に関する質問です。ROEが格段に上がり途中で業績を上方修正し、IR体制もかなり充実されて、1年間で急に変わったというイメージを持っています。なぜこのように変わってきているのか、経営の変化について社長の考えをお聞かせください。

2点目は今期の業績について、数量あるいは単価の前提をどのようにお考えでしょうか? CPIがほぼ上がり、そのメリットもかなり出てくると思いますが、前提となる数字を少し解説していただければと思います。

京谷:2点目の数量単価の前提については、私から概略をお話しします。後ほどCFOからも詳しくお話しします。

第1点目の、突然経営が大きく変わったイメージがあるとのことですが、私はあまりそのようなイメージはありません。

この10年間では、4社の統合から最初の5年間にPMIをしっかり行い、次の森山社長の時代にさらに進化させました。組織文化の統合、融合が進み、数字面でいろいろなバックアップがしっかりとできるようになりました。

さらに「MILAI(ミライ)」という新たなシステムを導入し、経営と数字がタイムリーに連動できる体制を整えてきたという背景があります。そしてたまたま、次のステップに行くタイミングで、私が社長に就任しました。

今までの経営の流れを進め、このタイミングで順当に次のステップを迎えたというイメージです。逆に言いますと、スタートダッシュに一気につなげられたのも、これまで将来に向けて考えて蓄積してきた助走のおかげです。現在、具体的に実践できる体制が整い、このような状況を迎えていると思います。

さらに加えると、新型コロナウイルス等の影響を受けて、さまざまな事業環境の変化が加速し、業界全体や社員の危機意識が高まりました。より一層、会社の戦略への理解などが進んできていると思います。

恐らく、IR活動も含めて当社が意識して進めてきているところは、みなさまにも伝わっているかと思います。東日本大震災の発生以降、現在の新型コロナウイルスも同様ですが、日本ではさまざまな自然災害が発生しました。

そのような中で、食のライフラインやサプライチェーンを支えている業界全体の収益レベルをしっかりと維持し、さらに成長を目指していかないと、今後、大変なことになるという危機感があります。

当社が成長を遂げる、あるいは食のサプライチェーンを維持していく責務を全うするためには、川上のメーカーや中間流通の他の卸、小売りなどの業界全体、究極的には消費者のみなさまや生活者のみなさまの生活がしっかりと成り立っていないといけないという危機感がとてもあります。

したがって、業界全体で食のサプライチェーンに関わっているみなさまの全体のプロフィットプールを上げていき、安定的で持続可能なレベルにしていくには、もっと当社が前面に出て、みなさまと一緒になって、効率化や需要創造の取り組みを進めていくことが重要だと確信しています。

そのような意味では、前面に出ている印象を受けているのかもしれませんが、引き続き、そのようなスタンスで私自身は臨んでいきたいと思っていますし、それによって業界全体をさらに盛り上げていければと思っています。

2点目の数量や単価の前提については、一般論として、今年度もいろいろな物の価格が上がっていくと想定しています。そのような中で、当社のビジネスにどのような影響を及ぼすのかをお話しします。

現在、食のサプライチェーンは、持続可能なギリギリのレベルにあると思っています。多少時間のギャップが生まれるとしても、値上げが浸透していくことは間違いないと思います。

原料が上がれば、メーカーも値段を上げざるを得ません。コストを削減しながらですが、当社は小売に、小売は生活者のみなさまに、価格転嫁せざるを得ない事業環境になってきていると思います。

一方で、当社のビジネスの中では、価格転嫁が行われる限り、極めて安定的なビジネスであり、売上にプラスの影響があることも事実です。

非常に難しいところは、とくに日本の場合は、生活者のみなさまの収入が上がっているわけではありません。さまざまな食品の値上げばかりが極端に先行してしまうと、非常に価格に敏感な商材のため、消費者心理が冷やされて、今まで買えていたものが買えなくなる、あるいは買い控えする可能性が当然出てきます。

そのため、一概にプラスの要素ばかりではありません。特に昨今は物価上昇のスピードと規模感がきわめて大きい流れにありますので、本年度はしっかり重視して、経営の舵取りをしていく必要があると思っています。

川本:売上高に関して、各セグメントの昨年比でバランスよく増加している部分では、単価の上昇をある程度見込んで進捗させています。

一方で単価も数量も伸びていけば、それが一番よいのですが、消費者心理がどう変わっていくのか、価格の上昇と合わせてどの程度数量が伸びるかは、なかなか不透明な部分もあります。一概に単価だけの影響であるとは言えませんが、数量については、少し抑えめに見ているところもあります。

これに加えて、原材料費や物流費などのコストの上昇が及ぼす影響も含めた上で、最終的な経常利益や純利益を作っています。

質疑応答:数量・単価の変動について

質問者:数量について、ざっくりとした全体ベースで結構ですので、単価がどの程度アップすると見ておられるか、あるいは数量はどの程度減ると見て、このトータルの売上の増分が出ているのか、具体的な数字でご解説いただけますか?

川本:商品が多岐にわたるので、全体の中での数量・単価が、今後どの程度上がるかを説明するのはなかなか難しいのですが、全体の中でのトータルの単価・数量の増減についての資料が今は手元にありませんので、後日ホームページの中で公表させていただきます。(注)

(注)(参考値)単価:プラス2パーセントから3パーセントの上昇、物量:マイナス1パーセント程度の減少

(※)前提として、業績予想のベースとなる売上計画は、個別得意先毎に、値上げを含めた販売計画、帳合の増減、店舗数の増減、及び地域特性等を勘案して策定した売上高の積算がベースとなっており、商品分類別やカテゴリー別の単価上昇を全社横断的に見立てている訳ではないため、上記参考値は商品の単価上昇幅を試算した上で、全体からの逆算で物量の減少幅を算出したものであります。

質疑応答:業績の上方修正の可能性について

質問者:今期の業績について、京谷社長が「上方修正をする際は遅滞なく公表したい」とおっしゃっていました。もともと今期の計画はかなり控えめだと考えているのですが、もし計画に比べて業績が好調な場合は、どのようなことを想定すればよいでしょうか?

京谷:最後の私のコメントは、今年度の話というより、「中経2023」の最終年度の数字に今年度の目標も随分近づいてきている状況ですので、期待も込めて、今年度の実績次第では最終年度の業績を上方修正する可能性がありえるのではないかと考えていることを踏まえてのコメントでした。今年度の数字に対してではなかったのですが、少々誤解を招くような表現があったかもしれません。

質疑応答:ROEについて/追加的な株主還元の可能性について

質問者:ROEが今期は8パーセントということですが「中経2023」では最終年度の2024年3月期には8パーセント以上を目指すとされています。現段階で、おおよそどの程度のところが見えていますか? また、今期も10円増配されていますが、追加的な株主還元の可能性についても、あわせて教えていただければと思います。

京谷:最終年度では、8パーセントをどうにか維持したいというのが、現段階における私自身の考えです。一方で、次期の中期経営計画に向けて、ROE以外にも新たな目標になるような指標も含めた検討をしていきたいと考えています。

現段階では最終年度で8パーセントから何パーセントになるかの具体的な想定はしていませんので、今年度の結果も踏まえて、より具体的に開示できるタイミングがあれば、改めて共有したいと思います。

さらなる増配の可能性については、もちろん私自身も増配できればよいと思っていますが、これもまた今年度の実績を踏まえてということになります。さらに増配ができるような方向で、企業の成長を図っていきたいと思いますが、現段階でははっきりとしたことは申し上げられないという状態です。

質疑応答:四半期ごとの業績の展開について

質問者:今期の年間の計画を発表されていますが、四半期ごとの業績を並べて見たとき、行ったり来たりするのか、あるいはコンスタントに増益すると考えているのか、そのような四半期ごとのイメージがあれば、共有していただけますか?

京谷:具体的な数字ではなかなか申し上げにくいのですが、従来のトレンドとほぼ同じと考えていただいてよいと思います。当社の四半期ごとの割合のイメージは、みなさま、ご存じのとおりですが、その傾向とほぼ同じ割合を前提としています。四半期ごとのばらつき加減は、それほど大きな変化はしていない状況です。

質問者:そうしますと、上期は去年の残存が2桁となっていますので、上期の伸びが高くて、下期は上期に比べて増益幅が少し下がってくるとイメージしておけばよろしいですか?

川本:基本的にはお伝えしたとおり、季節要因も含めて昨年度と同じような動きをする前提で見ているため、今期について特に上下で跛行性があるということは計画の中に織り込んでいません。

京谷:手元に数字がないのですが、2020年度から2021年度はコロナ禍でかなりの変化があったため、前年度との比較は数字をよく見てみないと大変難しいです。

一方、2021年度から2022年度の変化はあまり見ていません。その1年前のような、つまり上期が良くて下期がマイナスという状況よりは、あまり揺れ幅がなく、変動幅が小さい計画になっています。一律少しずつ増えていくようなイメージで見ていただけるとよいかと思います。

質疑応答:小売業のPBの価格転嫁に対するアプローチについて

質問者:NBの価格転嫁に対して、過去にもコストアップの時に価格転嫁が当然のように起こっており、今回も同じように起こるだろうと思っています。

一方で、いわゆる小売業のPBの価格転嫁が、私の認識では従来よりもずいぶん遅れているのではないのかと感じます。例えばメーカーと接することもあると思いますが、メーカー側はその部分をどうしようとしているのでしょうか? あるいは御社がそれに対して何かアプローチできるのでしょうか?

今回、PBがかなり抵抗にあっているのではないかと思っているのですが、その認識が正しいのかということと、メーカーあるいは御社の立場で、それに対して何らかのアクションを起こせるのかご意見をうかがいたいと思います。

京谷:私の率直な印象では、先ほども少し触れましたが、過去のこのような値上げの局面に比べると、すべての小売業の値上げに対する受け入れ度、価格の値上げの浸透度は、スピードも上がっているし許容度が高いと認識しています。

その背景はいくつかあると思いますが、1つには新型コロナウイルス拡大の影響で物が売れています。加えて、今回の値上げのスピードや幅、頻度が、今までの経験則にはないようなスピードと値上げ幅になっています。

コロナ禍前まで食品業界の多くの企業、メーカー、小売業が非常に厳しい状況にある中でギリギリの経営を進めていたため、とにかく値上げをしないことには企業としての経営が成り立たない状況にあったことも、ある程度影響しているだろうと見ています。

ただし、小売業によっては跛行性があることも事実です。したがって、遅め遅めにPBの値上げをしている小売業もあります。その場合は、小売業としての全体戦略の中で、コスト上昇分を吸収しながらプライベートブランドを展開していると私自身は理解しています。

逆に、メーカーにとってこれは死活問題であるため、値上げせざるを得ません。それに対して小売業が、自社戦略として値上げ分を最終価格に転嫁しないということは、ある意味では自腹を切って対応している部分が大きいのではないかと考えています。

そこは我々が干渉するような問題ではないため、少なくともメーカーの値上げ要請に対してはタイムリーに小売業のみなさまにお伝えし、可能な限り値上げのインパクトが最小限にとどまるようにします。

これには流通コストの削減しかなく、我々ができるデジタル技術や他のあらゆる技術を使ってでも、あるいは物流の再構築、物流配送回数を減らす、在庫のロスを減らすなど、ありとあらゆる努力をした上で、価格の上昇部分を何らかの形で緩和させていくような関与のあり方が、我々の正しい姿なのだろうと思います。

その上で、小売業がどのようなマーケティング展開をしていくかについては、小売業のみなさまが考えていらっしゃることで、そこに私どもが関与する余地はないと思っています。

質問者:1点だけ確認させていただきます。私自身がいろいろと話を聞く中で、PBに関しては、メーカーから小売業への価格転嫁が進んでいるのか、過去と違ってとても遅れているのではないかという疑問がありました。

どちらかというと、そこの部分はそれほど滞っているわけではなく、PBに関してだけ値上げをしないのは、小売業側のスタンスであるという解釈でよろしいでしょうか?

京谷:残念ながら、PBのそのような部分の取引については、当社の絡んでいないケースがほとんどで、全体がどうなっているのかという実情はお話しする立場にありません。

そのため、わからないというのが実態ですが、メーカーの今の状況からすれば、簡単に受け入れる状況にあるとは思えず、消去法的に考えて、そのようなことが起こっているのではないかと推測している次第です。

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