パソコン用マイクロプロセッサーといえば、インテルとAMDの2強という構図が長らく続いてきたが、微細化などパフォーマンス競争で後塵を拝してきたAMDは近年、業績が低迷し、財務状況も大きく悪化する事態を招いている。

しかし、ここにきて、AMDが復活の狼煙を上げつつある。新アーキテクチャーを搭載した「Ryzen」の評価が高く、失地回復の切り札と目されているからだ。GPUやゲーム機向けビジネスが好調であることも大きな後押しとなりそうだ。さらに、生産面では前工程に加えて、後工程に関しても中国OSAT(Outsourced Semiconductor Assembly&Test)との合弁事業に切り替えるなど、より身軽な体制となった。

帰ってきたAMD、反転攻勢をかける今後を追った。

4年の歳月かけて

AMDの業績は過去5年間低迷し続けており、2012~16年の5年間で営業黒字を計上したのは13年だけだ。直近の16年業績は売り上げこそ増収を記録しているが、依然として赤字基調が続いている。数字上ではまだ復活の兆しを見せていないが、製品レベルでは今後に期待を抱かせるものが出てきている。

その筆頭格といえるのがデスクトップ向けCPUの新シリーズ「Ryzen」だ。Ryzenには新マイクロアーキテクチャーである「Zen」が搭載されており、消費電力はそのままに、前世代のAMDコアと比べて、IPC(1クロックサイクルあたりの実行命令数)が52%向上している。

「Zen」は同社が復活の切り札として、アーキテクチャー設計をゼロから見直したもので、実に4年もの歳月をかけて作り上げたものだという。Ryzenの製造プロセスには14nm世代のFinFETプロセスが用いられている。

秋葉原のPCパーツショップでは3月10日時点で入荷待ちの状態が続く

競合するインテルのCPUに比べて、パフォーマンスがほぼ同等でありながら、圧倒的な価格差(AMD製の方が1万~2万円安い)があるとして発売前から多くの評判を集め、3月2日深夜の発売時には秋葉原で多くの行列ができたようだ。深夜に先行発売を行った秋葉原PCパーツショップによれば、深夜組のお客でほぼ完売となり、3月10日現在で入荷待ちの状態が続いているという。

AMDでは、この「Zen」をサーバー用、モバイル用にも広く展開していく計画。サーバー用の「Neplas」は17年4~6月期、モバイル用の「Raven Ridge」は17年後半に市場投入する考えだ。

GPUもアーキテクチャー刷新

AMDが復活を果たすうえで、MPUと並んで重要、またそれ以上の価値を生みそうなのがGPUとゲーム機用セミカスタム製品だ。GPUは現在、データセンターのアクセラレーター、ディープラーニング市場での需要が拡大しているほか、今後はVR市場での大きな商機も確実視されている。同社は「Radeon」シリーズとしてGPUを展開、高いシェア市場を獲得しており、16年も6ポイント市場シェアを上昇させることに成功したという。

17年には新GPUアーキテクチャー「Vega」を搭載する予定で、AMDにとってはCPU、GPU双方のアーキテクチャーを刷新して、市場での存在感を取り戻す重要な1年となる。なお、このVegaには広帯域メモリーとして「HBM(High Bandwidth Memory)2」を採用、これをキャッシュメモリーとして使い、パッケージ外のメモリーも扱えるようにする。

ゲーム用CPU事業も好調に推移している。ゲーム用CPUは従来、ソニーを筆頭に自社での設計・製造という垂直統合スタイルが主流であったが、「PS4」からそれを改め、AMDがデザインしたCPUを採用することを選択している。AMDはソニーに加え、Xboxシリーズを展開するMicrosoftからもCPUの設計を受託しており、16年はゲーム機用セミカスタム製品の出荷数量が過去最高を記録したという。

改めて問われる経営手腕

製品レベルでの大きな刷新により、事業回復に向けた足場固めは整いつつある状況だ。こうした改革を指揮しているのが、CEOを務めるLisa Su氏だ。同氏はIBMでキャリアをスタートさせ、IBMが主導したCu配線の採用でも原動力になったという。その後、米Freescale Semiconductor(現・NXP Semiconductors)のCTO(最高技術責任者)に就任、ネットワーキングプロセッサー事業なども指揮する立場となった。11年にAMDに移籍し、12年からCEOに就任。ソニーやMicrosoftと連携し、ゲーム機向けセミカスタム製品事業を大きく拡大させるなど、短期間で成果を出し始めている。

CEOを務めるLisa Su氏

同氏に今後、求められるのは業績面での回復だ。負債の軽減に加え(16年末時点での負債額は約14億ドル)、今後の財務指標として粗利益率36~40%(16年実績は23%)、営業利益率10%以上(16年実績は営業赤字)を掲げており、改めて経営手腕が問われることになりそうだ。

後工程拠点も売却し、完全ファブレス化

AMDはもともと、設計・製造を行う垂直統合スタイルのIDMであったが、現在はファブレス形態となっている。周知のとおり、前工程の製造拠点については、09年にAMDとアブダビの投資会社Advanced Technology Investment Companyと共同で、GlobalFoundries(GF)を設立し、分離・独立させている。

後工程に関しても中国OSAT大手の南通富士通の合弁事業(南通の持分が85%、16年4月に売却完了)に切り替えて、投資負担の軽減、固定費低減を図っている。AMDはもともと、中国・蘇州とマレーシア・ペナンに後工程拠点を有しており、これが合弁会社に移行した。ペナン工場は6ライン、蘇州工場は4ラインのアセンブリーラインを有しており、両工場ともBGA/PGAのパッケージ・テスト工程を担っている。従業員は両工場あわせて約1,700人。

前工程製造については、16年9月にGFとの提携内容の変更を発表。AMDはGFに対し、16~20年の5年間、14/7nm世代のウエハー発注を行うと同時に、MPUやGPU、ゲーム機向けセミカスタム製品を中心とした技術開発も共同で行う。一方で、今後AMDはGF以外のファンドリー企業にも生産委託を行えるようになるというもの。

今のところ、14nm世代についてはGFが米ニューヨーク州に所有する300mm工場「Fab8」で行っており、半導体材料メーカーによれば、16年からGFの14nm世代の生産量拡大に向けた設計などが活発化しており、AMDの「Ryzen」など次世代製品の順調な立ち上がり状況をうかがい知ることができる。

AMDビジネスの拡大によって、GFのFab8の14nmの生産量も拡大へ

株式市場ではAMDの今後の将来性を考慮してか、同社の株価はこの1年で6倍弱も上昇した。この大きな期待に応えることができるのか、今後もAMDの動向を注視していきたい。

電子デバイス産業新聞 副編集長 稲葉雅巳

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