この記事の読みどころ
- シャープ(6753)の妥当なPER(株価収益率)を15~20倍とすると、現在の株価は同社の営業利益が数年以内に1,472億円~1,879億円まで回復することを織り込んでいると試算されます。
- 回復局面にある企業や、非連続的な変化の途上にある企業に対する証券アナリストの評価は、後追いになるケースが多いことには留意が必要です。
- シャープの新経営陣が中期計画を公表するのは今年5月であり、それまでは中期業績を精査するための判断材料は限定的であるというのが実情です。
シャープの株価水準は「買われ過ぎ」か?
シャープの株価パフォーマンスは極めて好調ですが、そこで気になるのは現在の株価水準が「買われ過ぎ」ではないかということです。ちなみに、IFISによるレーティング分布によると「強気」、「やや強気」はゼロで、「中立」が2人、「やや弱気」が1人、「弱気」が8人となっており、アナリストによる評価は概ね弱気となっています。
ただし、証券会社のアナリストの見方が後追いになるのはままあることであり、現在、シャープを主に買っているとされている個人投資家の判断が「愚か」であると考えるのは早計かもしれません。
シャープの新経営陣が中期計画を公表するのは今年5月であり、それまでは中期業績を精査するための判断材料は限定的であるというのが実情です。そうした制約条件があるなかで、現在の株価水準(3月10日時点の終値344円)が、どの程度の業績回復を織り込んでいるかを考えてみたいと思います。
そこで、妥当なPER水準を15倍~20倍と仮定して試算してみると、EPS(一株あたり利益)は17円~23円。また、2016年12月末時点の発行済株式数49.8億株(注)を前提に、自己株式を除いて求められる当期純利益は855億円~1,140億円という結果になります。
また、実効税率を30%と仮定して求められる税前利益は1,222億円~1,629億円、営業外損益(ネット)▲250億円を前提にして試算される営業利益は1,472億円~1,879億円という結果も得られます。
この1,472億円~1,879億円という営業利益水準が、今後数年内に達成可能かどうかが同社の株価を考えるときの重要な目安になると考えられます。なお、同社の営業利益の過去最高益は2007年3月期の1,865億円です。
こうしたヒストリカルな実績とこれまでに通常許容されうるバリュエーション(株価評価)を前提に算出した、期待されている営業利益を考えれば、同社株価は「やや買われ過ぎ」と感じられるでしょう。
ただ、ここで注意したいことは、2016年8月に鴻海による出資が行われ、また鴻海主導による経営改革の結果、足元のシャープの業績は急速に改善傾向にあり、非連続的な経営の変化の途上にあるということです。
実際、2月3日に発表された2017年3月期第3四半期(10-12月期)決算では、最終損益が9四半期ぶりに黒字転換しており、通期会社予想も上方修正されています。また、その後、2月17日には原材料購入に係る契約(ソーラー用ポリシリコン)の見直しにより、通期会社予想を再度上方修正しています。
さらに、業績改善の加速により、これまで「遅くとも2018年度(2019年3月期)までに東証1部へ復帰する」という計画を、前倒しで実行することを検討しているとも報じられています。
こうした足元での変化を考慮すると、IFISコンセンサスの2018年3月期における営業利益は505億円ですが、これは慎重すぎるのではないかという印象は否めません。
直近の2017年3月期会社予想から第3四半期累計(4-12月期)実績値を逆算して求められる第4四半期(1-3月期)の営業利益は285億円で、これを単純に4倍した値を2018年3月期の営業利益と仮定すると1,140億円になり、市場コンセンサスの約2.3倍となります。
いずれにせよ、詳細な中期業績を精査するためには、5月に発表される中期計画を見極める必要があります。今後の同社の動静には今後も大いに注目していきたいところです。
注:厳密には、種類株の普通株への転換の可能性も考慮する必要がありますが、みずほ銀行および三菱東京UFJ銀行が保有するA種種類株式については、普通株式への転換は2019年6月以降と2年以上先であることや転換価格も株価によって変動するスキームであるため、ここでは考慮していません。また、鴻海(ホンハイ)グループが保有するC種種類株式については2017年7月から転換可能ではありますが、東証1部への復帰のためにはこれ以上普通株式への転換は現実的には行えないため、当面は種類株として保有されるとここでは想定しました。
本稿は「個人投資家のための金融経済メディアLongine(ロンジン)」の記事のダイジェスト版です。全文は以下からどうぞ(有料記事)。
>>シャープ(6753)を買っている個人投資家は愚かなのか
LIMO編集部