三菱電機(6503)は、家電からFA、重電まで幅広い事業を手掛ける総合電機メーカーの大手です。「総合電機」という業態にマイナスのイメージをお持ちの方も多いかと思いますが、三菱電機の業績は順調です。1億円超の年棒の役員が国内上場企業のなかで最多であることからも理解できると思います。どこに好調の要因があるのか、過去を振り返りながら、現在、そして将来の三菱電機について考えてみたいと思います。
目次
1 三菱電機はエアコンからFAまで手掛ける総合電機メーカー大手
1.1 三菱電機は家電から宇宙まで広範囲な事業を手掛ける総合電機メーカー
1.2 三菱電機は複数の事業を持つことで不況抵抗力を高めている
1.3 「12の事業分野」を持つ三菱電機
1.3.1 ビルシステム
1.3.2 産業・FA(ファクトリーオートメーション)
1.3.3 公共
1.3.4 エネルギー
1.3.5 交通
1.3.6 自動車機器
1.3.7 宇宙
1.3.8 通信
1.3.9 半導体・電子デバイス
1.3.10 空調・冷熱
1.3.11 ホームエレクトロニクス
1.3.12 ITソリューション
2 三菱電機は2020年度(2021年3月期)に創業100年を迎える総合電機メーカー
2.1 三菱重工の電機部門としてスタート
2.2 三菱電機は電機の「勝ち組」
2.3 三菱電機の転機は90年代終わりの半導体事業の失敗から
3 三菱電機の株価は2017年2月に歴史的高値を更新
3.1 三菱電機の営業利益は2015年3月期に過去最高益を更新
3.2 三菱電機は「質の高い成長」を目指す
3.3 成長の実現のためにカギを握る事業シナジーの発現とM&A戦略
4 三菱電機の経営トップの経歴から報酬まで
4.1 三菱電機の経営者には圧倒的に理系が多い
4.2 成長を指向する柵山社長
4.3 三菱電機は上場企業で最多の1億円超プレイヤー役員を輩出
5 三菱電機が求める人材は“やり遂げる人“
5.1 三菱電機で求められるのは強い意志、責任感、チームワーク力のある人
5.2 三菱電機は年間900人前後の新卒を採用
5.3 三菱電機の従業員関連データ
1 三菱電機はエアコンからFAまで手掛ける総合電機メーカー大手
まずは、三菱電機の事業内容について見ていきましょう。
1.1 三菱電機は家電から宇宙まで広範囲な事業を手掛ける総合電機メーカー
三菱電機は、2016年3月期の売上高が4.4兆円、営業利益は3,000億円超と日本を代表する大手総合電機メーカーです。また、時価総額も3.6兆円に達し株式市場でも存在感の大きな銘柄です。
企業理念は、「技術、サービス、創造力の向上を図り、活力とゆとりある社会の実現に貢献する」とされ、その考え方を体現したコーポレートステートメントは、"Changes for the Better"です。そこには「三菱電機グループは、常により良いものをめざし、変革していきます」という姿勢が込められています。
事業セグメントは、重電システム(電力インフラ、昇降機など)、産業メカトロニクス(FA機器、自動車電装機器など)、情報通信(宇宙、通信など)、電子デバイス(パワー半導体など)、家庭電器(エアコン、白物家電など)の5つに分かれています。
売上高構成比(2016年3月期)は下図の通りですが、官公庁・企業向けなどの家電を除く産業向け製品・サービスが約8割を占めるため、株式市場では日立(6501)、東芝(6502)などと並んで「産業エレクトロニクス」として分類されています。ちなみに、個人向け売上が多いソニー(6758)やパナソニック(6752)などは「民生エレクトロニクス」と称されています。
1.2 三菱電機は複数の事業を持つことで不況抵抗力を高めている
三菱電機は多くの事業を手掛ける総合電機メーカーであり、このような事業形態はコングロマリットと呼ばれています。コングロマリットは、単一事業に特化した専業メーカーに比べて経営にスピード感がない、などという批判がしばしば聞かれます。また、外部からの分析も複雑であるが故に理解しにくいという難点があります。
とはいえ、景気サイクルから受ける業績への影響度合いの観点から考えると、意外な長所も見出すことができます。
そのことを理解するために、三菱電機の事業を景気変動の影響を早い段階で受けやすい事業(アーリーシクリカル系)と、その逆に景気変動の影響を遅れて受ける事業(レイトシクリカル系)に分けて考えてみましょう。
三菱電機の場合、アーリーシクリカル系と位置づけられるのは、産業メカトロニクス、電子デバイス、家電の3セグメントであり2016年3月期の売上構成比は約57%となります。一方、レイトシクリカル系の残りの重電システム、情報通信となります。
もちろん、各事業の業績は、景気サイクル以外の要因(新製品や新市場開拓、市場シェアの変動など)の影響を受けるため、個々の事業は単独でも十分な競争力を高めていくことが求められますが、アーリーシクリカル系とレイトシクリカル系をバランスよく持つことで、業績の谷間(ボトム)を浅くすること、つまり不況抵抗力を高めることが可能になるという総合電機の長所は、三菱電機を理解するうえで見逃せないポイントです。
1.3 「12の事業分野」を持つ三菱電機
三菱電機には5つの事業セグメントにわかれますが、それぞれの事業セグメントには複数の事業が含まれており、その数は合計すると12になります。少し長くなりますが、就職活動などで、三菱電機の個々の事業に関心をお持ちの方も多いと思いますので、以下に12の事業について簡潔に概要をまとめました。
ビルシステムの主力製品は日本、中国でトップクラスの昇降機(エレベータ、エスカレータ)です。80年以上の歴史を持ち、世界約90か国で事業を展開しています。また、ビル管理システムやビルセキュリティーシステムも手掛けています。
新設されたビルへのハードの納入(新設)だけではなく、設置後も保守及びリニューアルで継続的かつ安定的に収益を確保できるストック型ビジネスであることがこの事業の特色です。
類似企業は、日立、東芝、米ユナイテッド・テクノロジーズ傘下の「オーチス・エレベータ」などです。
三菱電機の稼ぎ頭である産業・FA事業の主力製品は、国内でトップクラスにあるシーケンサー、サーボモータ、レーザー加工機、産業用ロボットなどです。また、センサーやインターネットの活用で生産ラインの稼働状況をリアルタイムで把握できる仕組みや、工場全体での省エネソリューションも提供しています。
類似企業は、安川電機(6506)、ファナック(6954)、オムロン(6645)、シーメンス(ドイツ)、ABB(スイス)、ロックウエルオートメーション(アメリカ)などです。
公共には、水環境システム、航空管制訓練システム、粒子線治療装置、防災情報システムなどが含まれており、主に官公庁向けに社会インフラ整備のための製品を供給しています。
類似企業は、日立、東芝、メタウォーター(9551)などです。
この事業には、発電(発電機)、送配電(系統安定化システム、受配電システム)、配電まで電力インフラの川上から川下までのすべてが網羅され、またメガソーラーもここに含まれます。なお、発電に関しては、タ―ビンは三菱重工(7011)、発電機は三菱電機がそれぞれ製造するという棲み分けが行われています。
類似企業は日立、東芝、GE、シーメンスなどです。
交通には、車両用電機品、車両用空調装置、車両情報管理装置、電力管理システム、トレインビジョン、列車運行管理システム車両用機器・システムなど、車体を除く鉄道に関連するほとんどの製品が含まれています。
ちなみに、三菱電機は、1964年の開通以来、全ての新幹線の車両システム、運行システムの開発に携わっています。また、世界30カ国以上で当社の製品が採用されており、海外展開も進んでいます。
類似企業は、日立、東芝、シーメンスなどです。
この事業には、電動パワートレイン関連機器、カーマルチメディア関連機器、電動パワーステアリングシステム、オルタネーター、スターター、エンジン制御関連機器など多彩な自動車関連製品が含まれています。
自動車の世界では、低燃費化、安全性、高性能化、居住性向上、などを目的に今後ますます電子化が進むと見られるため、三菱電機の活躍の場が広がると考えられます。
類似企業は、日立、デンソー(6902)などです。
三菱電機は、人工衛星、大型望遠鏡、人工衛星搭載機器など、ロケットを除く広範囲の宇宙関連機器を開発製造しています。すでに、世界各国で500機以上の人工衛生開発に参加した実績があり、宇宙環境を再現可能な試験設備や人工衛星の設計・製造・試験を一貫して行う環境が整えられています。
類似企業はNEC(6701)などです。
この事業には、光ブロードバンドシステム、無線アクセスシステム、映像セキュリティーシステム、列車無線システムなどが含まれます。キーコンポーネントである化合物半導体を内製化できる強みを活かし、大容量データを高速でやりとりするための無線及び有線通信システム向けの製品を手がけています。
類似企業は、NEC、富士通(6702)などです。
三菱電機の手掛ける半導体はパワー半導体とよばれる電力を制御し省エネに貢献する半導体です。用途は、鉄道、産業機器、家電など多岐にわたります。また、電車の車内に使われるモニター用などニッチ分野に使われる液晶モジュールも製造しています。
類似企業は富士電機(6504)、インフィニオン・テクノロジー(ドイツ)などです。
なお、以前はマイコンやシステムLSIなども手掛けていましたが、現在はルネサスエレクトロニクスへ移管されています。
三菱電機は、「霧ヶ峰」ブランドで有名な家庭用エアコンや業務用エアコンを国内外で手掛けており、日系ではダイキンに次いで2位のエアコンメーカーです。
類似企業はダイキン(6367)、富士通ゼネラル(6755)、パナソニック(6752)などです。
ホームエレクトロニクスには、液晶テレビ、冷蔵庫、掃除機、電気給湯機、ジャー炊飯器などが含まれますが、三菱電機はシェアや規模は追わず、スマート(賢い・つながる・ムダがない)な技術を差別化ポイントに事業を展開しています。
類似企業は、パナソニックなどです。
三菱電機は、IT分野では暗号化技術や超高速データ検索エンジンの分野で高い技術を保有していることに定評があり、この強みを背景に大規模セキュリティシステム、空港旅客案内情報システム、ターミナルレーダー情報処理システム、エネルギーマネジメントシステムなどのITソリューションを、金融機関、製造現場、社会インフラ(交通・航空・空港・エネルギー)などの幅広い分野で提供しています。
類似企業はNEC、富士通などです。
2 三菱電機は2020年度(2021年3月期)に創業100年を迎える総合電機メーカー
次に老舗の総合電機メーカーの成り立ちや現在の好調の背景について考えてみたいと思います。
2.1 三菱重工の電機部門としてスタート
三菱電機は100年近い歴史を有する旧財閥系の老舗総合電機メーカーです。
1921年(大正10年)1月、三菱造船(現、三菱重工)の電機製作部門がスピンアウトすることにより神戸で
創業を開始しており、創業当初の主力製品は、扇風機、水車発電機、鉄道用変電プラントなどでした。
1923年には、現在、東芝の経営危機の主因として一躍有名になった米ウエスチングハウス社(WH)と包括的な技術提携を結び電力、鉄道など現在の三菱電機の中核事業となる事業分野での技術的な基盤を確立します。
なお、WHとの提携は、その後70年以上続き、約現在の三菱電機の執行役社長である柵山正樹氏も、入社6年目の1983年に発電機技術者としてWHの米国本社への出向や、その後、1991年に行われたWHとの特許・技術関連での契約更改の交渉にも参加するなどの経歴を持っています。
それほど関係が深い両社でしたが、1998年に原子力部門を除くWHの発電部門はシーメンスによって買収されてしまいます。ただし、その時点ではすでに三菱電機は独自技術を確立していたため、技術提携の契約解除は円滑に行うことができています。
2.2 三菱電機は電機の「勝ち組」
戦後の三菱電機は、日立製作所、東芝、ソニー、パナソニックなどと同じように、日本の復興、高度経済成長とともに重電、情報通信、半導体、家電へと事業領域を拡大させコングロマリットとして成長していきます。ただし、1980年代末の平成バブルが崩壊以降の「失われた20年」を経た後の現在の各社の業績には大きな差異が見られます。
下図の通り三菱電機の売上高は、大手電機メーカーのなかでは5位ですが、純利益(2016年3月期)ではトップ、時価総額ではソニーに次いで2位(2017年3月10日時点)です。このことから、売上高の規模はやや小ぶりだが稼ぐ力が高く、その結果、株式市場での評価も高いことがお分かりいただけるのではないかと思います。
2.3 三菱電機の転機は90年代終わりの半導体事業の失敗から
では、好調の理由や背景はどこにあるのでしょうか。同じ総合電機と言っても細かく見ると各社の事業内容はそれぞれ異なりますので理由を説明するのは容易ではありませんが、以下の2点が重要なポイントではないかと考えられます。
第1のポイントは、事業ポートフォリオマネージメントという考え方を他社よりも早く取り入れ実践してきたことです。
現在は業績が順調な三菱電機ですが、今から約20年前の90年代後半には半導体への投資の失敗により2年連続の当期純損失となり、コマーシャルペーパーを発行することも困難になるほど財務が悪化した時期もありました。
そこで、同社が取り組んだのが、”強い事業をより強く”という考え方に基づいた事業ポートフォリオマネージメントです。この路線を最初に進めたのが、1998年に社長に就任した谷口一郎氏で、その路線を歴代社長が継承し、”強くない事業”の整理を進めていきました。
具体的には、パソコン生産からの撤退(1999年)、DRAM事業のエルピーダへの譲渡(2003年)、システムLSI事業の分社化(2003年)、携帯電話端末事業からの撤退(2008年)などです。こうした撤退も含むポートフォリオマネージメントへの取り組みは、その後、日立や、電機セクターではありませんが同じ三菱グループの三菱重工なども取り入れていくことになりますが、三菱電機は90年代後半から他社よりも一足先に手掛けて取り組みを開始し、その考え方を継続してきたことが現在の好調に繋がっています。
第2のポイントは、“風通しのよい組織”です。2000年代に入り、経営の意思決定スピードを早めることや収益責任を明確にするために、社内カンパニー制やドメイン制を導入する大手電機メーカーが多く見られましたが、三菱電機はこうした流行には乗らず事業本部制を維持してきています。
事業本部を維持し、社内カンパニー制を導入しなかった結果、経営資源の再配分の自由度を確保できています。このため、たとえば2008年に携帯電話事業から撤退したときも大規模な人員削減は行わず、人員をカーナビ事業などへ柔軟に再配置することで対応できたのです。
3 三菱電機の株価は2017年2月に歴史的高値を更新
続いて株価や業績について見ていきましょう。
3.1 三菱電機の営業利益は2015年3月期に過去最高益を更新
下図は、三菱電機の過去10年間の営業利益の推移を示しています。ここから明らかなように、三菱電機の業績は、世界的な金融危機直後の2009年3月期と2010年3月期には大きく業績が悪化したものの、その後は順調に回復し2015年3月期には金融危機前の水準を上回り過去最高益を更新しています。
一方、株価のほうも長期で振り返ると順調です。下図のように三菱電機の株価(青色)は10年前に比べると約50%上昇しており、これは同期間のTOPIX(橙色)、日立製作所(緑色)、東芝(赤色)を大きく上回っています。
3.2 三菱電機は「質の高い成長」を目指す
では、三菱電機は今後、どのような成長を目指しているのでしょうか。そのことを探るために2016年11月に発表された「三菱電機の経営戦略」を見てみましょう。
まず、数値目標ですが、中期戦略では「遅くとも」も2020年度(2021年3月期)までに売上高は5兆円以上(2016年3月期実績4兆3,943億円)、営業利益率8%以上(同6.9%)を目指すとされています。ちなみに、2020年度は三菱電機が創業100周年という節目の年にあたります。このため、経営陣の目標値達成への意気込みはこれまで以上に強いのではないかと考えられます。
では、次に、この目標をどのように達成していこうとしているかについて見てみましょう。
基本方針としては「バランス経営の継続と持続的成長の更なる追求」という考えが掲げられ、収益性・効率性、成長性、健全性の3つを重視しながら、「質のよい成長」を目指すとされています。
事業セグメントごとの目標は下図の通りですが、2021年3月期の売上構成比は概ね2016年3月期と変わりなく、そこからはバランス経営の重視が読み取れます。
一方、営業利益率の目標については、重電システムが8%以上(2016年3月期実績4%)、産業メカトロシステムが13%以上(同12%)、情報通信システムが5%以上(同3%)、電子デバイスが7%以上(同8%)、家電が6%以上(同7%)とされており、重電システムを除くと現状並みの利益率を確保していく方針が示されています。
なお、重電システムは、利益率が倍増する計画です。2016年3月期は一時的な不採算案件があったため営業利益率は4%に留まっていますが、2012年3月期から2015年3月期までは6~8%を確保していますので、以前の状態に戻ることが中期計画では想定されていると考えられます。
3.3 成長の実現のためにカギを握る事業シナジーの発現とM&A戦略
三菱電機の好調の背景には「強い事業をより強く」という考え方でポートフォリオマネージメントが適切に実行されてきたためであることは以前にも述べましたが、今後も持続的な成長を実現していくためには、保有する多様な技術資産の連携・統合によりシナジーを創出していくことが一段と重要になります。そうした考えに基づき、現在、三菱電機が取り組んでいる異なる事業間の連携事例には以下のようなものがあります。
- 自社開発の省エネ性能に優れたパワーデバイスの電力機器、鉄道車両用電気品、エレベータ、エアコン、EV・HEVなどへの活用
- 準天頂衛星による高精度位置情報の自動運転車への活用
- FA技術とIT技術の連携による“ものづくり革新”の提案力強化
- 昇降機、空調機器、照明、ビルセキュリティーシステムの一括提供の推進
先述したように、三菱電機はカンパニー制を導入しておらず組織が「サイロ化」していないことから、比較的風通しがよい組織体制が維持されています。こうした強みを活かして、下図の左側青色部分にある多様な技術資産を活かした新たな価値創造を三菱電機は目指しています。
加えて、今後注目していきたいのは、M&A(企業買収)への取り組みです。これまでの最大の買収案件は、2015年に行ったイタリアの空調機器会社デルクルマ社の約900億円での買収ですが、2016年3月期末の三菱電機のバランスシートは自己資本比率が45%、1,700億円のネットキャッシュを持つ極めて健全な状態にあります。
このため、今後もさらに大型の買収を行う体力は十分にあると考えてよいでしょう。ちなみに、三菱電機では、協業やM&A に対して以下のような考えで進めることを表明しています。
・事業拡大に向けて不足している製品群や技術領域(ミッシングパーツ)の補完
・新地域・新市場への進出に際しての販売網・サービス網(サプライチェーンの確保)
・事業基盤の強化に向けた新規顧客層の獲得
このように、三菱電機は現在の事業領域からは離れず、既存事業の強化のためのM&Aのチャンスを探っています。
4 三菱電機の経営トップの経歴から報酬まで
次に、三菱電機の経営トップについて見ていきましょう。
4.1 三菱電機の経営者には圧倒的に理系が多い
下図は創業以来の歴代経営者の一覧です。ここから明らかなように、経営トップには理系出身者が多いことや、東大よりも京大出身者が多いことが特色です。また、11代目の社長からは任期4年というのが慣例化しているように見えます。
余談ですが、お堅いイメージの強い三菱電機ですが、7代目社長の進藤貞和氏(1910年~2002年)は、そうしたイメージとは少し異なります。『三菱電機に何が起こったか―進藤貞和“うたごえ社長”の秘密 』(松尾博志著、日本工業出版社、1979年)によると社長在任中の1970年代に当時弱かった三菱電機の家電事業を柱にすると宣言し、得意のカラオケで販売店と懇親を深め、その甲斐もあって家電事業の再建に成功していることが述べられています。また、社長退任後の1995年にはコロンビアからご自分のCDも発売しているというエピソードも残っています。こうした意外な一面を知ると、三菱電機が身近な存在に感じられます。
4.2 成長を指向する柵山社長
現在の三菱電機の執行役社長は2014年6月に就任した柵山正樹氏です。柵山氏は兵庫県出身であり灘高校を卒業後、東京大学で学び東大大学院で博士課程まで進み中退しています。三菱電機に入社後は、大半を電力システム事業に携わっており先述した通り、米ウエスチングハウスへの出向経験もあります。
経営スタイルは、1998年に社長に就任した谷口氏以来、一貫して続いているバランス経営(堅実経営)を踏襲しており、「現場、現実、現物」の三現主義を重視しています。
また、柵山氏が就任してからの中期計画には「もう一段高いレベルの成長へ」というキーワードが現れており、これまでの経営トップに比べると成長への意欲が強く感じられます。
ただし、インタビュー等では、「売上や営業利益だけを高めるような足し算型には関心がなく、既存事業との相乗効果が期待できる企業とのM&Aを進める」という趣旨の発言を行っているため、派手な大型買収を手掛けるタイプではないと見られます。
4.3 三菱電機は上場企業で最多の1億円超プレイヤー役員を輩出
地味なイメージが強い三菱電機ですが、役員報酬だけは群を抜いて目立っています。上場企業は年度末の有価証券報告書に1億円以上の報酬を受け取った役員の氏名や報酬額を開示することが義務付けられており、下図の通り2016年3月期は23人がその対象となっており、これはこの年の上場企業のなかでは最多人数でした。
ちなみに執行役の報酬制度は、社外取締役が過半数を占める報酬委員会において、経営方針の実現及び業績向上へのインセンティブを重視しながら、業績の達成度合い、企業価値向上への貢献度合い、さらに、外部の報酬コンサルタントの意見などを交えて決められています。こうした透明性を持った信賞必罰の仕組みも、三菱電機が好業績を維持している一因なのかもしれません。
5 三菱電機が求める人材は“やり遂げる人“
最後は、就活生の皆さんのために三菱電機の採用について見てみましょう。
5.1 三菱電機で求められるのは強い意志、責任感、チームワーク力のある人
大手電機業界は勝ち組と負け組がはっきりとしてきましたが、就職戦線もパイが小さくなるため競争も激化することが予想されます。このため、三菱電機がどのような人材を必要としているかをしっかりと理解して、採用試験に臨むことが求められます。具体的には、以下の3点です。これらを良く理解して、あなたも将来の1億円プレイヤーを目指しましょう。
・強い意志を持ち、自ら行動する人:三菱電機は、環境、エネルギーといった社会的課題をテクノロジーで解決していくことを目指しています。そのためには、何よりもまず一人ひとりの強い意志と行動力が求められることを自覚しましょう。
・周囲と協働し、より大きな力を生み出す人:三菱電機は、幅広い事業を手掛け市場は国内だけではなく海外にも広がります。このため、多様な個性を持った多くの人たちとチームワークで課題に取り組んでいくスキルが求められることになります。
・やりとげる、責任感を持つ人:社会的な課題解決を求めるなかでは困難な場面に直面することは避けられません。そうした時でも粘り強く目的に向かって挑戦をつづける姿勢や、最後までやりとげる責任感が求められます。
5.2 三菱電機は年間900人前後の新卒を採用
三菱電機の新卒採用サイトによると、2017年卒の新卒採用予定数は910人となっており、うち理系が680人、文系が230人となっています。
2015年の採用のうち理系の専攻分野は電気が43%、機械が31%、情報が18%、物理・化学・金属等が8%となっています。
また、2015年の新卒者の配属先は、理系では設計開発が51%、研究開発が21%、生産技術が18%に、事務系では営業が64%、資材が14%、経理財務が10%となっています。
5.3 三菱電機の従業員関連データ
2016年3月期末時点での連結従業員数は13.5万人であり、三菱電機単独ベースでは3.3万人となっています。また、単独ベースの平均勤続年数は16.6年、平均年間給与は798万円でした。
なお、新卒者には、入社後は入社研修、事業本部別研修・事業所別研修などを通じて、事業動向、業務内容、会社で必要な共通基礎知識や規則などを学ぶ機会が与えられます。また、その後1年間は「研修生」としてOJTを中心に様々な知識・スキルを身につけていき、1年目の最後には自分の業務に関するテーマで「研修論文」を作成することになります。
その後は、技術系社員には、技術分野に応じた技術講座が用意されており、事務系にもプレゼンテーションやロジカルシンキングなどのビジネススキルを学ぶ講座に加え、海外OJT研修や異文化コミュニケーション研修などの国際化研修も用意されています。
6 三菱電機を知るために読んでおきたい一冊
週刊ダイヤモンド 2016年 1/30 号 [雑誌](三菱最強伝説)
ここまでお読みくだされば、三菱電機については、だいぶご理解いただけたかと思いますが、三菱グループの一員としての三菱電機についても知りたい方は、こちらをお読みいただければと思います。
まとめ
いかがでしたか。三菱電機は、FA機器、電力機器といったどちらかというと「黒子的」な役割をに担った事業を中心としていますが、業績、株価は比較的堅調であり、今後も成長を期待できる総合電機であることがご理解いただけたのではないかと思います。
今後も三菱電機への成長への取り組みを注視しながら、適宜アップデートしていきたいと思います。
LIMO編集部