3D(3次元)技術を活用して、医療がまた大きな進化を遂げている。1つは、医療機器の設計データを伝送し、現場の3Dプリンターで人工呼吸器などを製造すること。もう1つは、CTスキャンデータから患者本人の3Dモデルを作成し、手術前のスタッフ間のイメージの共有や教育に役立てる製品。後者はすでに医療現場や医学教育現場で活用されている。
CTデータから3Dモデル、医療機関/教育機関へ販売中
国際医療福祉大学大学院の准教授で外科医、(株)Mediaccel代表取締役とHoloEyes(株)取締役も務める杉本真樹氏は、患者のCTスキャンデータから3Dモデルを作成し、専用のVR(バーチャルリアリティー)デバイスやヘッドマウントディスプレーを装着することで体内の構造が立体的に視認できるシステムを開発、医療機関や教育機関向けに販売している。2月21~23日に開催されたメディカルジャパン2017(インテックス大阪)において、その技術、製品についてのセミナーを行った。
専用のヘッドマウントディスプレーの立体画像は、あたかも眼前に存在するかのように、CT画像を忠実に再現した人体構造、臓器の位置関係、病変部を浮かび上がらせて、見る側の立ち位置や角度を変えると、実在する物体を眺めるのと同じように変化する。これを手術前に複数の関連する医療スタッフが閲覧し、協議することで、手術に臨む前のイメージの共有や患者への説明に役立てることができる。
さらに、これまで言語化されずに記録されていなかった手技の動きなどをそのまま3Dで記録することも可能。また、患者の同意を得たデータをライブラリ化し、様々な症状・部位のVRデータを医療の現場からトレーニング、研究、教育の場にまで提供している。このほか、杉本氏は、このデータをもとに3Dプリンターで生体モデルを作成し、外科手術の臨床応用を行った。
3Dプリンターで人工呼吸器を遠隔地で製作
3Dプリンターの技術は、国立病院機構 渋川医療センター(群馬県渋川市)の小児科医師、石北直之氏が発明し、(株)ニュートン(岩手県八幡平市)との共同研究によって完成した。米カリフォルニア州では、1月14日午前7時46分(現地時間1月13日午後2時46分)、人工呼吸器の設計データを国際宇宙ステーションへ電子メールで転送する世界初の実験が行われ、成功を収めた。この技術は、3Dプリンターとインターネット環境が整っている場所であれば、どこでも瞬時に人工呼吸器を転送することが可能である。
同技術は、複雑な電子部品を必要とせず、プラスチックのみで製作できる様々な製品に技術転用ができるもので、製品の製造は(株)ニュートンをはじめ、国内企業へすべて委託している。こうすることで、新たな設備投資費用をかけず、製品開発と臨床研究に専念することができる。現在、関連製品7種を開発中で、日本から全世界へ向けた販売を目指している。
無重力環境下での動作実験にも成功しており、5月には米国航空宇宙医学会にて発表される予定となっている。
電子デバイス産業新聞 大阪支局長 倉知良次
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