近年、クルマのメーンマーケットである米国や欧州・中国の各市場において、自動車に関連した規制強化ならびに補助金政策が実施されている。これにより、関連各社では環境対応車(プラグインハイブリッド車:PHV、電気自動車:EV、燃料電池車:FCV)の開発が非常に活発化している。これまでディーゼル車を中心に展開してきたフォルクスワーゲンや、ハイブリッド車(HV)やFCVをメーンに環境対応車を開発してきたトヨタでも、PHVやEVの開発・市場投入に本腰を入れ始めている。

中国でも18年からZEV規制導入の動き

米国は特に規制強化が進んでおり、自動車メーカーはZEV(Zero Emission Vehicle=無公害車)規制への対応が迫られているところだ。ZEV規制は、自動車を一定台数以上販売する大規模自動車メーカーに対し、新車販売台数の一定比率をZEVにするよう定めたもので、全米10州で実施されている。対象となるのは、EV、PHV、FCV、HV、超低公害車の5つ。米国で最も厳しい基準を設けているカリフォルニア州では、新車販売に占めるZEV比率を14%(2015~17年)に設定している。

なお、ZEV規制は18年が転換点となる。ZEV販売比率が低くなる一方で、ZEV対象がEV、PHV、FCVの3つに絞られる。また、大規模自動車メーカーの基準も、現在の6社(クライスラー、フォード、GM、ホンダ、日産、トヨタ)に加えBMW、ダイムラー、現代・起亜、フォルクスワーゲン(VW)なども対象になると見られる。さらに、中国でも環境対策としてEVへの補助金政策を急ピッチで強化している。中国版ZEV規制であるNEV(New Energy Vehicle)規制の整備も進めており、早ければ今年から排出権の取引制度を施行し、18年から本格導入するとの声が聞こえる。

国内大手OEMでPHV/EV開発が加速

トヨタは、05年から中国でプリウスの生産を開始するとともに、10年から「トヨタ自動車研究開発センター(中国)有限会社」を設立。11年には主要ハイブリッドユニットの現地生産会社として電池製造を担う「新中源トヨタエナジーシステム有限公司」、トランスアスクルの製造を担う「トヨタ自動車(常熱)部品有限公司」を設立し、ハイブリッドユニットの生産準備に取り組んできた。なお、中国では量販車種であるカローラとレビンにPHVを設定し、同市場での環境車のさらなる普及拡大を目指していく。

トヨタのプリウス・PHV

また同社は、EVの開発を担う社内ベンチャーの立ち上げを11月に発表した。同ベンチャーは、豊田自動織機、アイシン精機、デンソー、トヨタの各社から1人ずつ、計4人が参加する直轄組織だ。EVの開発においては、トヨタグループの技術ノウハウ、リソースを活用するとともに、小さな組織でこれまでとは全く異なる仕事の進め方をすることで、プロジェクトのスピードアップを図り、商品の早期納入を目指していく。

トヨタでは従来、適時・適地・適車の考えのもと、HV、PHV、FCV、EVなど全方位での開発に取り組んできた。特にFCVは、航続距離や水素充填時間などの面で、従来のガソリン車と同等に使い勝手がよく、同社では究極のエコカーとして開発を進めてきた経緯がある。しかし、国や地域ごとにエネルギー課題やインフラ整備の状況が異なるうえ、ゼロ・エミッション車の普及に向けた規制強化が各国で急速に進み、多様なインフラに対応するラインアップが必要となってきている。この現状を踏まえ、FCVとともにゼロ・エミッション実現の選択肢となるEVについても、早期に商品投入が可能となる体制を整えることが必要であることから、社内ベンチャー発足を決定した。

日産では、電圧範囲が広いLiBが自動車の駆動用バッテリーに最も適しているとの判断により、1992年からLiBの技術開発に着手している。部品点数が少なく、コストに優れ、軽量かつ薄いことから、クルマの形状に合わせた設計が容易なラミネート構造のバッテリーセルも同社が独自に開発したものとなる。

日産のリーフ

EV用のバッテリーは、大量のエネルギーをコンパクトに詰め込んでいるため、高い安全性の確保が求められる。同社では、EVの安全性を「機械的」「電気的」「熱的」の3種類に分類し、クルマが使われるシーンで起こり得るあらゆる事象を洗い出して、すべての領域で確かな安全をどのように確保するかを定めたバッテリー設計コンセプトに沿って開発を行っている。

ルノー・日産アライアンスでは、10年12月にリーフを発売して以来、累計35万台のEV販売を記録している。16年8月時点で、直近1年間のEV販売台数が10万台を記録し、世界で販売されたEVの約半数を占めるに至った。

日産は、リーフに加えて、小型商用バン「e-NV200」を、14年から主に欧州および日本で販売している。ルノーは「ゾエ」のほかに、バンの「カングーZ.E.」、セダンの「SM3 Z.E.」、市街地用2人乗り「トゥイジー」を市場投入している。日産では、現在までに世界48カ国・地域で累計25万台以上のEVを販売。リーフの走行距離は27億kmを超え、約4.6億tのCO2の排出を削減した計算となる。

そのほか、ホンダは、今年、米国でEV「クラリティエレクトリック」の発売を予定するとともに、開発部門に散らばっていたEVのエンジニアを集めて専門組織を新設しているもようだ。また、スバルは16年3月に25年までを見据えた次世代プラットフォーム「SUBARU GLOBAL PLATFORM(スバルグローバルプラットフォーム)」を公開したが、これはガソリンエンジンだけでなく、HVやPHV、EVといった、今後さらに求められる様々なパワーユニットにも1つの設計構想で対応できるプラットフォームとしており、EVやPHVの今後の市場投入が注目される。さらに、マツダにおいても、一部報道などで19年をめどにEV、21年以降にPHVを市場投入するとしており、各社の熾烈な開発競争が繰り広げられることとなる。

電子デバイス産業新聞 編集部 記者 清水聡

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