HPQとHPEが決算を発表
米国株式市場では、HP Inc.(以下、HPQ)が2017年2月22日に、続く23日にはHewlett Packard Enterprise(以下、HPE)が、2017年10月期第1四半期(11-1月期)決算を発表しました。
似たような名前ですが、それも当然です。両社は2015年11月に米ヒューレット・パッカード社(以下、HP)から分社化して誕生した会社だからです。もともとのHPは1939年に創業した米国の老舗IT企業ですが、HPQはパソコンやプリンタ事業を、HPEはサーバーやストレージなどのエンタープライズ向け事業を行う会社としてスタートしています。
HPQはパソコンが好調、HPEはハード、ソフトとも不振
では、両社の第1四半期決算の中身を見てみましょう。
HPQの第1四半期実績は、売上高が前年同期比+4%増、純利益は+3%増でした。パソコンが予想外に健闘していたことが印象的でした。パソコンの売上高は+10%増、台数ベースでは+8%増となっています。もう1つの柱であるプリンタは、売上高が▲3%減、台数ベースでは+6%増に留まりました。また、トナーなどの消耗品は▲3%減です。
一方、HPEの第1四半期実績は、売上高が▲10%減、純利益は横ばいでした。売上高は、ハードウエア(サーバー、ストレージ、スイッチ、ルーターなど)も、ソフトウエア、ITサービスのいずれもが減収となっていました。また、為替やコモディティ価格の上昇などを理由に通期のEPS予想を引き下げています。
株価の反応も見ておきましょう。HPQはパソコンの健闘や通期見通しが据え置かれたことが好感され、決算翌日の23日の株価は前日比+9%上昇で引けています。一方、HPEは3四半期連続での減収となったことや、通期EPS予想が下方修正されたことが嫌気され、決算発表後の時間外取引では約▲6%の下落となっています。
日本企業への示唆は?
では、この両社の決算は日本企業へどんな示唆を与えているのでしょうか。
まず、HPQからですが、残念ながらHPのパソコン事業が堅調だったことに関して好影響が期待される日本企業はあまり見当たりません。日本の大手パソコンメーカーでも、NEC(6701)、富士通(6702)ソニー(6758)などは、パソコン事業を分社化、あるいは売却を模索する動きを続けているためです。
一方、プリンタ関連の売上が引き続き冴えないことは、キヤノン(7751)などの日本のプリンタメーカーにとっても気掛かり材料となります。
HPEについても、エンタープライズ(企業向け市場)が、ハードもソフトも減収となっていることは、NECや富士通など日本の同業企業にとってはネガティブなニュースと捉えられます。ただし、こうした状況は今に始まったことではなく、クラウド化の進展とともに表れてきた現象であるため、大きなサプライズではありません。
人工知能、ビッグデータ解析などの技術を活用したソフトをサービスとして提供する競争に主戦場の軸足が移る中で、どこが「勝ち組」になるのか、今は、その実行力が試されている局面です。少なくとも、HPEはまだそこまでには至っていないようですので、そうした観点では日本の関連企業にとってポジティブニュースであるのかもしれません。
分社化は成功したのか
では、最後に両社の過去1年間の株価推移を見てみましょう。HPQは+70%、HPEは+80%と大きく上昇しています。この1年間の株価の動きからだけで判断するとしたら、分社化は成功であったと言えるのではないでしょうか。
株価がこれだけ上昇した理由としては、事業内容がより明確になったことが一因ではないかと筆者は推察しています。分社化前のHPがITの「総合デパート」であったのに対して、分社化後のHP各社は「専門店」となっています。よって、投資家は自分の好みに応じて、より自由に投資先を選べるようになっています。
また、分社化後の経営は、それぞれの事業特性や外部環境の変化に対して、より的確に迅速な判断が下されることも期待されます。こうしたことが、分社化後の両社の“魅力度”を高めたのではないかと推察されます。
日本でも経営危機にある東芝を筆頭に分社化の動きが相次いで起きるのではないかと予想されますが、伝統ある企業ではない「新会社」になったとしても、“道は開ける”ことを米国の動きから学びたいと思います。
和泉 美治