相続人で不動産を共有すると、その不動産について何らかの契約を締結しようとしても、毎回共有者の意思確認をしなければなりません。しかも相続人同士が不仲の場合は、意思確認すらままならず、契約を締結することができないという事態も起こりえます。

このような事態になると、不動産は放置され、その財産的価値も失われてしまう、という誰にとってもメリットのない状態となるおそれがあります。

これに対して、民事信託を生前に設定した場合、相続が発生する前から、不動産の所有名義は受託者に集中しているので、相続によって不動産が共有状態になる心配がありません。

本件のケースでも、民事信託で定めておけば、父親の相続が発生した後も、本件不動産の所有者名義は受託者のままです。

もちろん、父親が亡くなったあとに、実家に誰が住むのか、貸家の賃料は誰が受け取るのか、不動産を売却した場合の代金をどのように配分するのかといったことを定めておく必要がありますが、これらは委託者である父親が生前に定めておけば、受託者である相談者が、父親の意思を実現することができます。

このように、民事信託は、不動産の管理・承継という場面で非常に有用な手段です。民事信託においては、法的な検討以外にも、受益権の取得による贈与税・相続税の発生、受託者の税務署に対する計算書提出義務等、税務面でも事前に検討・確認しておかなければならない事項があります。しかし、専門家に相談してシミュレーションをしたうえで実行すれば、それほど心配する必要はありません。

以上のとおり、本件のケースでは、民事信託がトラブルを避けるために大変有用ですので、ぜひ選択肢として検討していただきたいと思います。

弁護士・木村 道哉