伊藤忠商事、純利益トップを三菱商事に明け渡しへ

大手総合商社の伊藤忠商事(8001)(以下、伊藤忠)と三菱商事(8058)が2017年3月期Q3(4-12月期)決算を発表しました。伊藤忠は期初からの予想を据え置き、2017年3月期通期の当社株主に帰属する当期純利益(以下、純利益)を過去最高益の3,500億円としています。これは前年度実績の2,404億円に比べて+46%増となる見通しです。

一方、三菱商事の2017年3月期通期の純利益は前期実績の▲1,494億円の赤字から黒字転換し、4,400億円になると予想しています。期初時点では2,500億円を予想していましたが、Q2決算発表時点で3,300億円に上方修正しました。Q3決算発表時点では当期2度目の上昇修正が行われています。

ご覧の通り、2016年3月期は三菱商事が赤字でしたので、伊藤忠が商社純利益でトップになりました。今期も期初からQ2時点までは伊藤忠の予想額が三菱商事を上回っていましたので、2社のマッチレースをどちらが制するのか大いに興味をもって語られました。

しかし、Q3決算の発表を受け、三菱商事が純利益額で伊藤忠を抜く可能性が高まりました。伊藤忠商事の利益トップは一年天下で終わってしまいそうです。

株式時価総額では三菱商事が圧倒

純利益の額を比較すると三菱商事と伊藤忠はマッチレースを演じているように思いますが、株主価値を測る典型的な指標である株式時価総額は三菱商事が伊藤忠商事を上回っています。

時価総額の数値は2017年2月3日東京市場の終値で、三菱商事が約4.1兆円、伊藤忠が約2.4兆円になります。三菱商事の株式時価総額が伊藤忠に対して1.7倍大きいことがわかります。2017年3月期の純利益はそれぞれ4,400億円と3,500億円でしたので、1.3倍のギャップでした。株式市場では利益のギャップ以上に三菱商事を高く評価しているということになります。

三菱商事の高評価の支えは手厚い純資産

株式市場で三菱商事を高く評価している理由のひとつが、この2社の基礎体力の差です。2016年12月末時点で三菱商事の純資産は4.7兆円、伊藤忠は2.4兆円で、2倍弱のギャップがあります。株式市場はこの純資産の格差を意識して株価を形成しています。

さて、ここで読者の方は、「伊藤忠の株式時価総額は純資産額と同水準なのに、三菱商事はそれを下まわっている」とお気付きになったことでしょう。確かに伊藤忠は1倍=2.4兆円÷2.4兆円に対して、三菱商事は0.87倍=4.1兆円÷4.7兆円です。

実はここに伊藤忠の優れている点が出ています。

伊藤忠、効率経営で体力格差をカバー

伊藤忠が優れているのは、基礎体力に格差があることを前提に、変動性の高い資源分野の事業ウエイトを下げ、より安定的な非資源分野に軸足を置き、徹底的な効率経営を進めたことでしょう。ROEは10年以上2桁を維持しています。このため、株式市場は伊藤忠の純資産額を額面通りに受け取って時価総額を形成していると言えます。

一方、三菱商事のROEは過去4年間1桁(含むマイナス)を余儀なくされてきました。株式市場はこの経緯を良く知っていて、三菱商事の時価総額が純資産を下回る水準に評価していると思われます。

体質強化を図る三菱商事、伊藤忠の次の成果への期待

三菱商事は当然このような株式市場の声をよく理解しており、2020年頃に2桁のROEを実現するため資源分野は事業の中身のリフレッシュをしながら、非資源分野をしっかり伸ばすという方向性を描いています。2017年3月期の好業績の牽引役は資源分野の伸びが牽引していますが、非資源分野の底上げが進めば株式市場の評価も改善する可能性が見えてきます。

伊藤忠も当然これを意識して、経営効率に最大限配慮しながら業績拡大を図っていくと思われます。その中でも、やはり大型投資を行った中国中信(CITIC)、チャロン・ポカパン(CP)グループとの協業のしっかりとした成果を待ちたいところです。ただし、いくらROEを高水準に維持しても三菱商事との基礎体力のギャップは残ります。配当性向を下げてでも内部留保を強化するほうが合理的に思われます。

両社の対決は日頃から目にすることもできます。三菱商事傘下のローソン(2651)と伊藤忠傘下のユニー・ファミリーマートホールディングス(8028)です。サービス競争がさらに深まることを消費者としても期待したいと思います。

 

椎名 則夫